物騒な再会

(前回のあらすじ)

 俺(コウヤ)は義勇軍への獣人の合意を取り付けた。

 「「「応っ」」」と地面を揺るがす呼応。

 俺は流れを変えてくれたナナミを見て『で・か・し・た』と声に出さずに口を動かして笑う。

 と同時に『こいつらの命を預かる』――この思いに俺はふるえた。


 ◇◇カノン・ボリバル目線◇◇


 場面は切り替わり山の中。男たちが見つめる先には『カグラ』の城壁じょうへきが広がっていた。


 「さすがにすきはないか……」


 双眼鏡から目を離すと、一緒に潜入した第二空挺隊だいにくうていたいのコティッシュ・ガーナン隊長に手渡す。


 受け取るとほほ刀疵かたなきずゆがめた。

 「ああ――。そのようだな」


 少しまゆひそめて、後ろにいた『盗賊シーパーのエモン』に回した。


 潜入のプロがうむむ……とうなっている。


 俺(カノン・ボリバル)がいた頃にはなかった高さ三メートルを越す石造いしずくりの外壁がいへきが張り巡らされ、間隔を空けて監視塔かんしとうが立っている。

 監視塔かんしとうの中に据えられているのは二キロは照射しょうしゃできるサーチライトだ。その横に備え付けのライトニング・ボウが備わっていた。


 敵状視察てきじょうしさつと行方知れずになっているライガの捜索のため『カグラ』に来ている。


 再びこの『カグラ』がゴシマカス王国への橋頭堡きょうとうほとして活用出来るか?

 これはヒューゼンの戦火を開く戦場を選定するための、大事な偵察だった。

 ココを前哨基地ぜんしょうきちとしてワイバーンの空軍を配備する。

 

 ここは俺(カノン・ボリバル)が獣人の国の首都として、そしてゴシマカス王国への橋頭堡きょうとうほとして一番はじめに攻略した鉱山都市だった。


 さすがに俺(カノン・ボリバル)に攻略されてからはその重要性に気づいたのか、今見ている城壁じょうへきが張り巡らされ、守備隊まで常駐する様になっていた。


 「ライガと合流を先行しよう。アイツにとってはあの程度の城壁じょうへきつまずきにもならん」

 俺(カノン・ボリバル)が答えると、コティッシュは笑った。


 「あの旦那が人外なのは見ているがね。さすがに三メートルの城壁じょうへきだぞ? 上からはライトニングの雨が降り注ぐんだ」

 冗談にもほどがあるぜ――と、『盗賊シーパーのエモン』も笑う。


 俺がライガを探したい一心で、ここを緒戦しょせんの舞台にねじ込んだと思われているのか?


 「私情しじょうで目を曇らせているとでも?」


 「そこまでは言わんが、ここにいる仲間の目を見て言い切れるか?」


 ああ、問題ないさ――そう言って地面にしゃがむようみんなを手招きした。


 「ライガは第二都市『ブホン』をおとしいれた事がある」

 第二都市『ブホン』に行った事があるか?――と見まわますと実際に訪れた事があるのは『盗賊シーパーのエモン』だけだった。


 「あそこの城壁じょうへきは十二メートルある。城壁幅じょうへきはばは六メートルだ」

 高さは防御力に比例し、城壁幅は配置出来る城兵の数に比例する。


 「これを一人で突破して城門を開いた」

 もちろん乱戦になる頃には後続が追いつき、重装兵を蹴散らしていたが。


 「アレの力を使って――」と谷間を指差し、「夕日がかかる頃、西日にしびを背に西門を襲う」と地面にとりでの配置を描きながら一同を見回す。


 「逆光を利用するのか?」

 『盗賊シーパーのエモン』が聞き返してくる。


 「あの谷に夕日がかかると俺たちの姿は逆光で見づらくなる。接近は容易だ。俺がライトニングの魔力を『遮断』しているうちにライガに城壁じょうへきを制圧してもらう」

 ――と、手にした枝で方角と◯で示した城壁じょうへきの一点を指す。「後は中から西門を開けるから、アンタ達は一気に中へ雪崩なだれ込んで制圧するだけだ。接近戦になるから手勢は必要だがな」


 「どれくらい必要いる?」


 「重装兵十人とそのあとに続く射手も五名は欲しい。制圧には『大太刀のソ・ランデ』を頭に、乱戦に強いヤツを七、八名もいれば十分かな?」


 「総勢二十八名か? 小隊で制圧しちまおうってか?! あきれたヤツだぜ」人数を指折り数えていたコティッシュが愉快ゆかいそうに笑う。

 

 「ライガの旦那だんなだけで城壁じょうへきを制圧するってぇのは大丈夫なのか?」


 「突破力だけなら大陸一だと思うぞ」

 肩に大太刀をからげ、得意そうに笑う友のあの顔が目に浮かんだ。


 「人外とは聞いたが――?!」

 『大太刀のソ・ランデ』が口を半開きにしている。前衛担当の彼にしかわからないすごみだ。

 それを見て『爆裂のシド・レイ』が、

 「来るのが分かっていたならそれほどでもないさ。突っ込んで来るぶん、罠にめやすい」と鼻を鳴らす。

 コッチは守り手からの視点でものを言っているようだ。


 「ば、バカ言うなっ。城壁じょうへきを登っている間はただのまとだぞ?! それを――「まぁまぁ。それを差し引いても凄いってのは認めるよ」」ソ・ランデが突っかかるのをシド・レイは押しとどめ、

 「いずれにせよライガとの接触が先だな。でなけりゃ旦那ダンナも満足できねぇだろ?」俺を見て笑う。

 仲間を見捨てるワケに行かないもんな――と、ソ・ランデが力強くうなずいてくれた。


 全く――。とコティッシュ・ガーナンが苦笑いしながら

 「総意一致だ。ライガ殿との接触をはかる。目撃情報がないか、下の里まで降りて聞き込んで見よう」

 立ち上がると手頃な枝を切り取り、下草を払い除けながら山道にめていた馬車までくだって行った。


 ◇◇


 『カグラ』は山岳地帯にポッカリと開けた鉱山都市だ。精錬せいれんされた鉱石を搬出はんしゅつする鉱山トロッコは、搬出はんしゅつした後には生活物資を積んで戻す生活トロッコに早変はやがわりする。

 当然この物資を狙う山賊さんぞく跋扈ばっこするわけだが、それを守るようにレールに沿って守備隊や商人が行き来できるよう林道が整備されていた。


 俺(カノン・ボリバル)達は、商人に偽装し林道を降っていた。

 山賊さんぞくが現れたら、後続の商隊と守備隊へ通報出来るよう所々狼煙のろしくヤグラが設置してある。

 『盗賊シーパーのエモン』は時折そのヤグラに登っては山賊の潜みやすい茂みを地図に落とし込んでいる。


 「この先二キロに林道が大回りにカーブしてる。トロッコは鉄橋で真っ直ぐ行くから、守備隊は馬で先行してトロッコを追いかける。

 対して馬車はスピードを落とさなきゃならないから守備隊と離れることになる。アッシならココを狙うでゴザル」

 『盗賊シーパーのエモン』はその二つ名の通り、以前は名のある盗賊団にいた。

 彼の言うアッシなら――は、昔取った杵柄きねずかと言うワケだ。

 商人に偽装しているとは言え、馬車の中身は俺たちの移動用の物資と武器、爆薬も仕込んである。

 山賊さんぞくごときに遅れは取らないが、下手な騒ぎを起こして目をつけられたくないから用心に越したことはないのだ。


 「さて、行こうかね」


 まるで物見遊山ものみゆさんにでも行くような気軽な声を上げると、コティッシュ・ガーナンは騎馬に軽くむちを当てた。


  そして――。俺(カノン・ボリバル)たちを乗せた荷馬車は『盗賊シーパーのエモン』が語った例の林道が大きくカーブした地点に差し掛かる。


 「……怪しい。備えろ――」妙な気配を感じた『盗賊シーパーのエモン』が低く警告を飛ばす。


 「来るぞっ」コティッシュ・ガーナンが剣を抜き去った時、メリメリッと木が裂ける音と、ドォンッと地響きを立てて大木が倒れ込んできた。

 驚いた馬が荷馬車を振り解いて逃げようと暴れる。


 「ドウッ、ドウッ」


 『盗賊シーパーのエモン』とシド・レイが必死に手綱たずなを操って、馬をしずめている。


 「荷物を渡してもらおうかッ?!」


 大太刀をからげた見上げる様な巨漢がノソリと木立の中から現れた。


 「大人しく渡せば命だけは助けて……って、カノン?!」

 金色に光る眼を見開いて固まるライガがそこにいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る