次の世界へ
盗賊団に襲われ、傷ついた人々を収容した俺は広場に集まった獣人たちに義勇軍を作ることを宣言した。
どうだい――? と一人一人に目を合わせながら、
「俺とこの国を変えねぇか?」と静かに語りかけた。
◇◇◇
ちょっと良いか?――と俺に手を上げながら、ナナミをチラ見する。
下手な事を言うとナナミがまたキレると思っているのだろうか?
「サユキ上皇はウスケの親父さんだろう? なんで息子に逆らおうって俺たちの後ろ盾に着いたんだい? おかしかねぇか?」
まだ半信半疑って顔だ。
「いい質問だ。早く言ったら親父のゲンコツさ」
「?!……親父のゲンコツ?」
「アンタのガキが家の金好き勝手して、アンタを
「そりゃ、一発ゴツンッと……「それだよ」」
「でも向こうからしたら反逆者になるんだぜ?」
「
「何言ってんだ? 正すって何をどうするつもりなんだよ?」さっきの獣人が声を上げる。
「まずは
「そんな事出来るワケがねぇ。第一、土地も建物も貴族たちのもん……?! それを奪っちまおうって話か?」
「おいおいっ、それじゃ盗賊と変わらねぇじゃねぇか? 誰でもちゃんと真面目に働けば、土地も建物も自分の物として持てるようにするって話だ」
「自分のもの……」
「そうだ。命だってそうさ。誰かが死にそうになったらみんなで守る――切り捨てられる命が無いように」
「そんな事が……」
「みんなおかしいと思わねぇのか? 貴族だから人間だから獣人より偉い。だから獣人は真っ先に切り捨てるって?」
「俺たちは反乱を起こした罪人だから……。仕方ねぇ」
「それもこれも人間が、王族が、貴族が作った社会に嫌気がさしたからだろう? 獣人だけが悪いわけじゃねぇよ」
「「「?」」」
「アンタらが失敗したのはこの国ごと変えちまおうとしなかったからさ。排除してお終いっと片づけられたんだ」
「国ごと変える? そんな事できるワケがねぇっ」
「なぜそう思う? 相手がデカイからか? それとも獣人だからか?」
「そんな事はないっ、俺らは人間になんか負けちゃいねぇっ! 俺らだって……」
「その通りだよっ! アンタらは十分に強い。だが、大義がなかった。自分たちが
だが人間にだって
「それは人間だからだろう?! 俺らを敵としか見なかったんだ」
「違うよ。アンタらに共感出来なかったからさ。アンタらが、もし勝ったとしても自分たちには関係ないと思われたんだ」
「見て見ぬふりをしたんだっ。俺たちは何度もそんな目にあって来たっ。我慢できるか!」
「ああ……。そうかも知れねぇな。だが、今の話から行くとアンタらも人間を敵と
「それは……」
「だからそんな事おかしいだろう? 人間だから、獣人だから敵、王族だから貴族だから敵ってのは。人間も獣人も貴族も、笑いもすれば泣きもする。飯食ってクソして寝る――。何が違うんだ? 一緒じゃねぇか?!
おんなじ人間なんだよっ」
だから――。と一気に話したから唾を飲み込んで息を繋ぐ。
「種族も階級も関係ない。同じ人間なら平等じゃなきゃ不満が出て当たり前だろう? みんなが作った法の下ではみんな平等ってなったら良いと思わねぇか?!」
「王族も貴族も
今まで考えたこともなかったのだろう。獣人たちが
「だから俺たちはそんな国に変えるんだ。
『
そんな国にこの国を作り変えたい」
日本からこの世界に転移した時から、俺の中に溜まり続けていた不自然さ。
この際はっきり言わせてもらう。
この世界はおかしい。
「アンタらの子供や孫や子孫に、おのれの力量一つでのし上がる事ができる。そんな国を残してやりたくはねぇか?!」
「……それができるんなら「できないってか?」」
「今まで出来ていないんだ。出来るワケない……「出来るっ!」」
「どうやってするんだよっ」
「出来なかったのは考えた事もなかったからだろう? 少なくともアンタらは、もう少しで獣人の国を作るところまで出来たんだ。だが、アンタらの都合で動いただけとみなされたから失敗した」
大義がなかった――少なくともそうみなされたんだと言い放ち、またみんなの顔を見る。
「だから丸ごと変えるんだよ。『
どうする? と見回す。
この『
大枠だけ決めて、あとはこの世界の人たちに決めて貰えば良い――。
これからの世界のあり方をそう決めたんだ。もちろん
この世界からすれば突拍子もない考えだから、サユキ上皇も難色を示すと思っていたら
「あー。それ、それをやればよかったんだね僕は……」と妙に感心されてしまった。
「それで良いよ。義勇軍の旗印はそれで行こう」と太鼓判まで押してもらう。
「ただし王族の廃止は認めない。私が許せるのは旗印までだ」
と俺たちに言うと背を向けた。「次の世代に繋げられるように……
その時の事が思い起されて胸が少し熱くなる。みんなにも考えてもらいたい――。かなり間を空けて声を張り上げた。
「そのために俺は命を
どうだい?! 俺と一緒にそんな国に変えねぇかっ?!
アンタらが望む世界はその先にある
ここが勝負どころだ。
理想に血を
「……やっぱり、アンタは俺らの王、獣王だ」
一人の狼族の男が立ち上がった。
「……シン?」
魔獣の森で共に戦ってくれた狼族の彼だ。
あの時も俺を信じてついて来てくれたが、真っ先に立ち上がってくれた。
「旦那っ、俺もついて行きやすぜ」
熊族のモンだ。彼もまた魔獣の森で共に戦ってくれた。モンがあたりを見渡して声を張り上げる。
「なあっ、みんなもそうだろっ?!
どうせ俺たちは見捨てられたんだ。このまま死ぬか、国を変えた英雄の一人として死ぬかだっ。なら決まってるよなっ?!」
「応っ! オレも行くぜっ」
「俺も行くっ。このまま災禍で死ぬのはゴメンだ」
「お、おれも連れてってくれ」
あちこちで立ち上がって声が上がり始める。
もう一押しか?
「次の世界を作るんだ。テメェの胸に手を当ててみろっ、このままで良いか? ってテメェに聞いてみろ! ふざけんなって思うヤツは着いてこい!」
「「応っ」」
大地を
よしっ!
流れを変えてくれたナナミを見て『で・か・し・た』と声に出さずに口を動かして笑った。
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