大ごとになってるんですけど
「この世界を変えるんですよっ」
サイカラの銀縁のメガネが光った。無事帰還した俺たちの祝賀会での話だ。
「へ?」
素っ頓狂な声を上げた俺に、カイを始め各部族長の目線が集まる。
「……ちょっと、ちょっと待ってください。サイカラさん? 酔っていらっしゃいますね?」
「何を言ってるんですか? 私は大真面目です。あんな陛下に任せていたら、この国どころかこの世界すら危うくなる」魔王の方がよほどマシだ――。と、鼻息荒い。
「いや、お怒りなのはわかりますがね。なんで俺がこの国を変えちゃうのかな?」
サイカラの底光りする目を見て、恐る恐るお尋ねしてみる。
「それはあなたが勇者だからです」
「ハァァァッ?!」
「災禍の伝承を調べているうちにこんな文言が出て来ました」と、懐から大事そうに巻物を取り出す。
「この予言書には続きがあります」と、角ばった文字が並んだ一文をなぞる。
「『そののち、蒼き狼は世界を駆け巡り安寧をもたらす』――だそうです」
なんで? なんで無茶な事予言するの?
無理でしょ?! 無理ですって! そこまでおっきくないからっ。俺の器ちっちゃいから!
「――って言うか、ここに出てくる『蒼き狼』って俺じゃなくないかな?」
これを……とサイカラが指し示す文字列。
読めませんけど?! 古代文字読めるわけないじゃないですか?
「『その者こそ勇者なり』っと書いてあります」サイカラが押しいただく様にその古文書を懐に仕舞った。
おいっ。適当なこと言ってるんじゃねぇぞっ?!
再び口を開きかけた俺に「と、言うことで『風の民』と草原の部族長一同にお集まり頂きました」ヒタッ、と俺の目を見据えて銀縁のメガネが光っているんですけどっ。
そうでした……。
コイツは物凄く仕事の出来る人でした。
きっと俺が
「獣人自治区にも使いを出して有志を募っています。そして、これが私たちの軍資金になる筈です」ポケットから四角いケースを取り出した。
「このケースが?」
「バカですか? この中味です」パカリッと開けるとそこには虹色に光るサイコロ状のモノが入っていた。
「こりゃぁ……?!」
「そうです――アダマンタイト。代官が着任するまでの間に全ての債券と資料を秘匿しました。加えて所有権は全てコウヤ様名義で鉱物ギルドへ登録してあります」
――もっとも王宮が気づいて押収されたら終わりですけどね。っと笑う。
「その前に採掘出来るものは全て採掘してしまいます。鉱物ギルドに手配して坑夫と金属兵に採掘をさせ、鉱石は安全な場所へ秘匿してあります」
グビリッ、と盃を飲み干すとあたりを見回してニヤリッと笑った。
「ここにいる
これだけの面子に囲まれて――できない筈はない。とサイカラは笑う。
「ねぇ、オキナさん」と話を振ると、また盃を飲み干した。
オキナは、「こうまで思われるとはコウヤ殿。幸せ者だな」と目尻に二本シワを寄せて笑った。
「以前から聞きたかったのだが、コウヤ殿の元の世界とはどんな国家の体制だったんだい? 比べてだいぶ遅れているのだろう? こちらは」
コウと目が合う。
どうしたものか……。話すべきなのだろうか?
だが、詳しくは知らんし。よしっ! 「コウッ、出番だ。説明してやれ」と鋭く目線でパスする。
俺には無理だし。
やれやれっと、コウが呆れた顔をする
「ウスケ陛下が目指す王権神授と中央集権ならば、ヨーロッパで名誉革命まで続いたから、四百年は遅れた政治思想ね。ヒューゼンの様な社会主義は二百年前になるのけど修正して今も続いている感じかな?」
「コウやコウヤ殿の世界は、法治国家で民主主義だったか……。我らの世界でも二千年前はそうだったらしい。だが、繰り返される災禍に対応しきれず今の立憲君主制になった」
「一概に俺らの世界の制度を持ち込んでも、上手くいかないって事か――。少なくとも今の陛下ではダメだ。だが闇雲に倒せば良いってワケでもない。
正直――どうしたらいいのかわからないよ。特に俺はそんな事にも興味はなかったからな」
よくいる選挙に行ったところで、生活が良くなるわけがない、っと諦めているクチだった。
その選挙すら行けない若者たちが、命を散らしながら獲得した権利だとも思わずに。
この世界にやって来て、今更ながら日本のありがたみが身に染みる。
託された願いを
「そうね……。少なくとも私たちの日本では、法の下の平等が原則で、真っ当に生きる権利は保証されていた」
少しコウが俯いて呟く。
この間まで評議員として、国政の最前線にいたんだ。ギャップは山ほど感じでいるのだろう。
「なぁ……」
コウの苦しそうな横顔に声をかけて、あたりを見回した。
「なぁ、コウ。この世界のことは、この世界の人たちに決めてもらわねぇか? 例えそれが俺たちから見ておかしいにしても、この世界の人たちがやり直すんだし」
ハッ、とした顔で俺を見るコウ。
「そうね。確かに押し付けられたルールでは、いつか不満や
「ああ。その助けになるんだったら、あの《ウツケ陛下》》だって倒してやるさ……」
指先を丁寧にふきながらオキナへ視線を向ける。願わくば、この人と育む新しい命により良い世界を作れるように……。
祈る様な目線に、俺もナナミとサイカラを見る。
願わくば、ここにいる全ての人とその子孫が幸せでありますように。
きっと俺たちはその為に呼ばれたのだろう。
「次の世代まであの陛下が足を引っ張るなら倒す――。そして災禍を乗り切って必ず生き残る」
……全く。と俺を見ながら、唇が動いている。
『コウヤじゃなきゃ、イイ男なのにね』
どぅ言う意味かな?!
殴る真似をして笑った。
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