サユキ上皇のシャレにならないお灸
『コウヤじゃなきゃイイ男なのにね』
コウの唇の動きに、どう言う意味かな? と殴る真似をして笑う。
ウスケ陛下では災禍は乗り切れない。陛下を倒す――これが『風の民』と草原の部族長たちの総意になった。
こちらには大魔道士コウもいれば、軍師オキナもそして俺もいる。変える形はこちらの人たちが決めれば良い。
そう――。
願わくばこれから生まれてくる子供たちに今よりマシな世界が届けられるように……。
◇◆ガンケン・ワテルキー目線◇◆
ここはゴシマカス王国の王宮。謁見の間にて、ウスケ陛下が例のごとく
「何故軍を差し付けられない? 朕の命令に反く
私(ガンケン・ワテルキー)は
事の起こりはこうだ。
「コウヤの拘束も出来ず、コウとオキナを逃しただと?! このタワケがッ、あれほど警戒せよと申していたであろうがっ。で、あろうが?!」
「そもそもは内務省に会計局が乗り込んで混乱させた
恐らくブロウサ伯爵の
「呼び出せ。直接
「ブロウサ伯爵の関与は間違いございませんが、証拠がありません。のらりくらりとはぐらかされるだけでしょう」
あの後、逃亡を許した内務省の担当者とその上官は処分しようとしたが、訓戒と二ヶ月の謹慎にすり替わってしまった。
ガサ入れをした会計局の連中に、事情を問い正しても『正規の監査業務です』と突っぱねられた。
加えて資料の提出を求めたが、「資料の分析にひと月ほどかかります故に、そのあとで宜しければ」と良いのか悪いのかわからない返事だ。
その事を聞きつけたウスケ陛下が、私(ガンケン・ワテルキー団長・公爵)に諮問してきたわけだが、剛を煮やした陛下は「ブロウサ伯爵の領地まで軍を差し向けよ」と
無理だ――。
今、あれほどの大貴族相手なら少なくとも二万の兵を動員しなくてはならない。
だがそんな事を言ったところで火に油なのはよくわかっている。
陛下は黙り込む私(ガンケン・ワテルキー)に、花瓶を投げつけようと持ち上げたが、二百万インもする名器なのを思い出し「ゲッ」っと
「……んんッ! ブロウサには後で目にモノ見せてやるッ。それよりも神託じゃ。いかがなっておる?!」
フンフンッ、と鼻息も荒く王座に腰を下ろす。
「ハハッ、教会と神官への手配は滞りなく終わりましてにございます」
国教化をゴリ押しで制定した時点で、教会の勢力は陛下派に取り込んだ。そこは互いにメリットがある話しだ。
すんなり事は進んだ。
「たわけっ、そちらは織り込み済みじゃ。貴族どもの承認じゃ。特に
この国の大貴族はサユキ上皇を除き六家ある。この六家を指して
筆頭が私のワテルキー家、軍閥のムラク・ド・ジュン当主率いるジュン家、財閥系のブロウサ・ライ・シーク伯爵率いるシーク家、他三家だ。
「いかにもっ。仰る通りでございます」
「で、
「それが、サユキ上皇様が伝染病にお倒れになって以来、招集は
「招集できないのはどれくらいだ? と、聞いておる」
招集出来ないのはワテルキー家を除いて――
「……その全部です」
「はぁぁぁぁぁっ?!」
ウスケ陛下の絶叫が王宮に響き渡った。
◇◇
「すっかり冬の景色になってきたな」
サユキ上皇が庭の木々を眺めながら、近侍に話しかける。流行り病に臥せたと言うのはウソだ。
仮病を決め込んで『白い騎士団』の干渉を退ける方便だった。
「サユキ上皇様。ボチボチ部屋に戻りませんと……」
いつも監視に張り付いている『白い騎士団』の姿が見えない。
「ガンケンに呼び出されて、青い顔して出て行ったが大丈夫かね? 彼は」
「さて……。今回の
それよりサユキ上皇様は今回の件をどう納めるおつもりで?」
近侍と言えど、王宮に勤める法衣貴族である。無用な国政の混乱は気がかりだった。
「ヒューゼン共和国が何やら金臭い動きをしているからね。ムラク(前防衛大臣)も心配していたよ。国境警備に人を割くよう裏で手は回していたが……」
ともかく――。
「これ以上の混乱は良くないね。ウスケ陛下には人の力を貸してもらう謙虚さを学んでもらわねばな」
全く育て方を間違えた様だ――。と寂しげに笑った。
「それよりブロウサ(前財務大臣、現伯爵)からの返事は来てないか? 災禍に備えて食料の備蓄を進めるように伝えていたが?」
「未だ返事は来ておりません。監視が厳しくなって動きが取りづらくなっているのかも知れませんが」
「そうか。待つしかないんだろうね」暫く、風景を楽しむ様に庭の木々を見ている。
さっきの話なんだけどね――と、伸びをしながら話始めた。
「(ウスケ国王が)神託を受けるのは構わないと思っている。だが、全ての貴族たちの口を塞ぐために神託を利用するのは良くない」
振り返ると微笑んで居間へ歩き始めた。
「ブレーキの効かない馬車は壊れるからね。
貴族たちも必死だ。
ウスケ陛下の機嫌一つで、先祖代々受け継いで来た領地を奪われたり取り潰されるのが(実際、勇者コウヤですら『ミズイ共和国』を
「泣きを入れてきたら、国政の決定には
貴族たちの生存権を保証してやる代わりに、神託を受け入れる。
受け入れたのちには国政に貴族の参加を必須とする事で暴走を防ぐつもりでいる。
「もし……。強行に出たとしたら?」
「ありうるな。ただし、ヒューゼン共和国が喉元に食いついてきても構わないと思うならだ。自らの体制を整えるのに戦乱も厭わぬと思うかな?」
「ウスケ陛下ならあり得るかと危惧しております」
「ハハッ、君は中々
「あ、いえっ、そのようなつもりでは……」
「まぁ、そうなったらそうなったで良いんだけどね。備えと準備はいるだろうね……。君っ、僕はちょっと旅に出よう。旅装と魔法陣を段取りしてくれるかな?」
バレないように細工は頼むよ――っと、着替え始めた。
「は? どちらまで……?」いくら『白い騎士団』の監視が甘くなったとは言え、流石に気付かれてしまう。
慌てた近侍が腰を浮かしかけると、
「ちょっと、ミズイまでだよ」そう言ってサユキ上皇は、
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