脱出
「私をただの貴族と舐めるな。いつまでもお前らを野放しにするつもりはない」
ガンケン・ワテルキーは冷え冷えとした視線で俺を
「何のためだ? そもそも何のために俺らを追い回す? この国に俺らが何を
後ろ手でナナミとかぁちゃんを下がらせる。
ただの時間稼ぎだ。
ここまで来て相手の非を
ところが、ガンケン・ワテルキーの野郎。
ここぞとばかりに
「何のためにだと?
元いた世界のでも声の大きなヤツの言い分が、そのまま通る事はよくあった。
よく言えば協調。
悪く言えば迎合。
自らに害が及ばないように思考を止めるのは会社でもままあった話だ。
ヤツにとっては人民の支持が欲しい――だからあたかも真実のように大声を張り上げている。
周りを見回すと、倒れた男たちが目を覚ましたのか、ガンケンと俺を交互に見ている。
言われっぱなしでは
息を吸い込むと戦場で鍛えた大音声で言い返す。
「馬鹿言うなっ。何故
ガンケンの顔色が変わった。
「もはや貴様の罪は確定した。陛下への不敬罪だ。その上国家転覆の容疑で有罪は確定だ。この場で処刑されるか法廷でキチンと申し開きするか選べ」
「そいつをここでブッ放す気か? 街の半分はなくなるぞ? 良いのか?」
そろりそろりと腰を沈める。
「気にするな。貴様のシールドを壊すくらいに調整してやる」
「そりゃあ、ありがてえ話だが巻き添えがでるよなァァッ?!」
後半の部分は大声であたりに呼びかけた。
先ほどの、衝撃波で倒れた幾人かが目を覚まし起き上がってきている。
「みんなっ! 逃げろっ! 巻き込まれるぞっ」
俺が叫ぶと
そこら中にガラスが散らばっている。
「ええっ、さっきのヤツかっ?!」
「助けてっ! 殺されるっ」
「砲撃だっ、逃げろっ」
逃げ惑う人々が俺たちを押し流し始めた。
「殺されるぞっ、逃げろっ」
あたりに適当に
あたりを見回すと人々の間にポカリと空白地帯が目に映る。
「かぁちゃん、ナナミ、捕まれッ――『亀ッ、縮地ッ』」
ズビュウ、と空間が圧縮される。足元から土煙が上がると、空間が目の前まで迫ってくる。
「よっとぉっ!」ナナミとかぁちゃんを小脇に抱えるとその空間に飛び込んだ。
一陣の風が吹き抜ける。
逃げ惑う人垣が消え去るとガンケン団長の前には誰もいなくなった。
「チッ」舌打ちをして俺らを振り返るガンケンの姿が見える。
「そこを動くなっ! 建物ごと破壊してやるっ」
鋭い警告が飛んだ。
悔しいがかぁちゃんの避難が先だ。
次に会った時はそのクソ高い鼻っ柱をへし折ってやる。
「今日のところはコレでおさらばだ。首洗って待ってろっ」そう叫び返すとナナミとかぁちゃんの手を引いて夜の闇に紛れ込んだ。
◇◇◇
(ガンケン・ワテルキー目線)
「今日のところはコレでおさらばだっ。首洗って待ってろ」コウヤが叫び返して消えた。
「追えっ、逃すな!」
モンク(兵僧)の虎狼組に声をかけると、一団は走り出した。
「申し訳ございません団長。必ずやひっとらえて参ります」
「急げッ、まだそこまで遠くには行っておるまい」
四散する一団を見送ると唇を噛み締めた。
マズイ――。
ところがどうだ?
民を守るために体を張って対峙するところか、逆に民を盾にして逃げ出した。
戦術としては悪くない。
こちらが民を攻撃しないと計算しての事だ。
何よりマズイのは民衆を
マズイ。マズイ、マズイっ。
初めて対峙してわかったが、ヤツは
このまま放っておけば脅威になるかも知れない。
てっきりオキナがその
カリスマ性は恐らくオキナより上だ。
自分が持っていないその資質を持っていると知った時、激しい憎悪が湧き上がった。
待つ事
まるで
「まぁ良い。捕まらぬなら動きにくくしてやる」『白い騎士団』の副長に声をかける。
「
それと――そうだな。この場にいた連中にも金を
行け――と顎をしゃくる。
「忌々しい男だ――」
不利な状況に追い込まれても、
抵抗勢力としては一番厄介なパターンだ。
「コウヤ・エンノ――。ただの脳筋バカと思ったが、舐めてかかるとマズイことになるか……」
金をばら撒き
「冒険者ギルドにも手配をかけろ。『街を破壊した凶悪犯。国家転覆を狙うテロリスト』としてな。あとは
無知な民衆への印象操作など、容易いモノだ。
王宮に
胸の前で十字を切り、仕事の割り振りを支持して王宮へ向かう。
ウスケ陛下へ報告せねば――ヤツが本当の力を
陛下は自分以外のカリスマを嫌う。
ウスケ陛下がわかりやすくて良かった……。
あのアホの
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