アーティファクト
焦げ臭い匂いがする。
「何か燃えていない?」ナナミが眉間にしわを寄せた。
「……?! かぁちゃんの所じゃねぇか」
嫌な予感がする。
俺たちは走り出した。前方が明るくなっている。
やがて明るく照らされるところまでたどり着くと、かぁちゃんの店が見える。業火に包まれていた。
「だ、誰かぁッ、助けてぇ!!」かぁちゃんの悲鳴が聞こえる。
その声を頼りにナナミの手を取ると走り出した。
鼻をつく焦げ臭い匂いと
「かぁちゃんッ、大丈夫かっ?! 怪我はないか?」
「アタシの事はどうだって良いんだよっ、アンタも手伝っとくれ」必死の形相で空いた
「ああっ、わかったから離れてろ。危ないから」
既に騒ぎを聞きつけたのか、野次馬が集まって来ていた。
「おーいっ、火事だ。すまんが、みんな手を貸してくれんか?!」
「燃えてるのはどこなんだい?」
「かぁちゃんの店だよっ『酒食ホウ』……」
今更なんだが、俺はここにいて大丈夫か?
俺を探している連中は俺がここにくるのを狙って火をつけたのではないのか……?
『罠』だ。
「ともかく頼んだっ」
空いている
元の場所まで戻ると、既に黒山の人だかりができている。
「ナナミッ、かぁちゃんっ、逃げるぞっ」
「馬鹿な事言ってるんじゃないよっ! アタシの店が燃えちゃうじゃないかっ」
「これは罠だ。俺を呼び寄せるための罠だ」
「な……?! そ、そうなのかい? お役人様がそんな事「お役人様が燃やしたワケじゃねぇ」するワケ……」
「ったら、どうすんだい……?」
かぁちゃんが
カランッ、と乾いた音を立てて
「ボヤボヤしてたら俺たちは捕まる。逃げんだよ」
呆けたかぁちゃんの肩を掴む。
「すまねぇ、かぁちゃん。店はきっと補償するから、俺らと一緒に逃げてくれ。アテはあるんだ」
暫く視線が定まらなかったかぁちゃんが俺を見る。
「アンタだけ逃げな――。
ここにいちゃ危ないんだろ? アタシはここで騒ぐだけ騒いで、みんなの目をここに引きつける。悪徳役人がやって来たって下手な事はできないよ」
顔じゅう汗と
「何ボヤボヤしてんだいっ! 早く行きなっ」
ナナミが「ちょっと待ってっ」と進み出た。
「お母さま。コレを」
そう言ってアダマンタイトの鉱石をポシェットから取り出すと手に握らせる。
「鉱物ギルドに持っていけば
かぁちゃんの手を取るとソレを握らせた。
「おいっ、いたぞっ!
野太い声が響き渡ると、
恐らく『白い騎士団』――
俺はミスリルの剣を引き抜き、ナナミとかぁちゃんを庇うように前に進み出た。
「『ミズイ辺境国』で謀反を企むコウヤだなッ」
二メートルを越す巨漢が口から泡を飛ばす。
「女神アテーナイ様の名において貴様の中に巣食った悪魔を浄化してやるっ。ありがたく昇天しろっ」
思わず笑ってしまいましたっ。
なにそれ? 浄化して昇天?! どこの色街で覚えたの?!
天を焦がす業火に照らされて、俺が白い歯を
「何がおかしいっ! この悪魔めっ」
「言ってること全部おかしいだろ? 謀反? 悪魔? おまけに浄化? 頭大丈夫か?!」
「くっ、悪魔が乗り移っておるっ。コレは浄化しかあるまいっ。皆取り込めろっ」
「やかましいわッ!」
大音声が響き渡った。敵の気合いが乗る前に、更にソレを上回る気合いで弾き飛ばす。
戦さ場では当たり前の
俺の闘気が瞬時に体を駆け巡り、ドンッ、と足下の石畳が
「勇者を悪魔呼ばわりかっ。ソレがこの国の流儀か?! 神の使徒を名乗るなら、魔王軍が来た時立ち向かったんだろうなッ?!」
「そ、それは軍の仕事だっ。我らは女神アテーナイ様の名の下に市民の保護を……」
「ふやけた事言ってんじゃねぇぞっ! 神の使徒を名乗るんなら、魔王を体を張って
いい加減頭に来ていた。
体を張ってこの国を守ったコウを拘束しやがった。
「ちょっと待ってもらおうかな? 勇者コウヤどの」
暑苦しい一団から進み出た青っ白い男が進み出た。
「『白い騎士団』団長のガンケン・ワテルキーだ」
こちらに鋭い目線を向ける。
「何か勘違いをしている。ここに来たのは『謀反の容疑者』にまずは申し開きを聞こうとしたところ――」
ソレを
刃を放つような鋭い目線に辺りの空気が凍りつく。
「罪を認めろだ? てめぇらこそ認めろよ。この店を焼いたのは誰だ? 知らぬとは言わせねぇぞ。てめぇらが出て来るタイミングが良すぎるだろうが?!」
ガンケンの目線を正面から見据えて
ガンの飛ばし合いならコッチの
殺す気合いを乗せれば良い。要はビビった方が負けだ。
「良いのか? オキナもコウもこちらが預かっている。反抗するなら二人も同罪だ。
余裕の薄ら笑いで見返してくる。
コレが貴族のいやらしいところだ。切り札をチラつかせながら精神的に追い詰めてくる。
「逆に良いのか? オキナもコウも居なくなれば、この国を守るヤツはいなくなるぞ? その時俺がこの国を守るなんて都合の良いこと考えてないよな?」
もちろん、これくらいで引く相手じゃない事くらいわかっている。何か準備をしている筈だ。
ここまで強権的に出てくる何かをだ。それが知りたい。
「それはお前の知った事ではあるまい? もはやコウヤもコウも罪人なのだよ。とうに
もはや不要だ。
と言いたいのか手をヒラヒラとさせて鼻に
「ただの目障りな金食い虫なんだよ。君たちはね」
なん……だと?
「
そういうと背中から黒光りする
ちょっと大きめのライフルの様な形をしている。
大きく違うのはその先だ。
ショットガンにあるフォアグリップのあたりが半円形に
銃身を天に向けフォアグリップを引き下げると、緑色に光る魔石が目も
カッ! と閃光が放たれるとあたりが真昼のように明るくなった。
バビュウッ、 と空気が震えると正面からチリを巻き上げて空気の津波が襲ってくる。
俺は反射的に展開したシールドでかぁちゃんとナナミを包んだ、
「「「グオッ!」きゃあーッ」うわぁーーっ」
悲鳴が辺りを包み込んだ。
バァンッ、と衝撃波で立っている人、物、建物のガラス窓全てが吹き飛ぶ。
凄まじい衝撃波が通り過ぎると静かになった。
「私をただの貴族と舐めるな。いつまでもお前らを野放しにするつもりはない」
ガンケン・ワテルキーは冷え冷えとした視線で俺を
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