コモドドラゴン
「親父殿、ゲルの設営を頼む」
カイは力こぶを作って、お任せあれっと笑った。
第二キャンプにたどり着いて、防衛陣の配置を確認するとオキナの様子を見に行く。
「オキナさんよ。どうだい傷の具合は?」
「大した事はない。気遣い痛み入る」
軽く笑って腕に巻いた包帯をみせる。そちらこそどうなんだい? とオデコをトントンッと叩く。
アイアンゴーレムに切り付けられたところだ。
「幸い派手な出血の割には浅かったよ。オタクの嫁さんにパパッとしてもらった」
傷が開かない様に包帯は巻いているが、出血もないし痛みもない。
本来なら五、六針縫わなくてはならないくらいザックリ切っていたが、コウの処置が良かったおかげで包帯こそ巻いているものの傷口は塞がりかけている様だ。
「明日の想定に時間が欲しい」
そう告げると俺を手招きした。コウが地図を広げてオキナの補助をしている。
「さてここからは一気に行きたいね」
地図に描かれた山道を指でなぞる。
「ここから先に映り込んでいた魔獣やモンスターは、今までより更に上位だった」
まず厄介なのは第二キャンプより北へ一キロ、少し開けた山道から再び深い森に再び入ってからの地点だ。
「ここに映り込んでいたのはコモドドラゴン。一度『ミズイ』攻略の際に戦ったからわかるだろう?」
それぞれの個体も強力だが……とトントンッとその数が書き込まれたあたりをペンで突く。
「映り込んでいたコモドドラゴンだけでも二、三十匹はいた。実際には倍は潜んでいると思った方がいい」
野生の奴らは岩場や物陰に潜む。
そこから強酸性の唾液を飛ばし、弱ったところを群れで襲う。短い四肢を身体をくねらせて物陰から物陰へ高速で移動するから
「ここからはまた森林地帯になる。今日みたいにコウの火力を使えば、森林火災で我々もお陀仏だ」
そこで、と編成を示す小石を並べて行く。
「コウにはシールドを使った防御に徹してもらう」
コウを示す丸い石を中央に置き、シェルパをその前後に配置する。
森を抜けるこの地点……と山道が大きく開けた場所に丸をつけて、「ここまで逃げ込んでから迎撃する」と指し示す。ここなら防衛陣を張れる、と付け加える。
「追撃を殲滅し体制を整えたら最終目的地だ」
指さす先には一面の森しか描かれていない。
「……? 何にもねぇじゃねぇか?」
「まだ誰も行った事がないってわけさ」
「なんかワクワクするなっ?! 人類初制覇だぜ?!」
コウが少し呆れた顔をする。「その分危険って分かってる?」
そりゃあそうだろうがよ。男の浪漫ってヤツ。
「恐らく魔獣の獣道くらいはあると思う。山の斜面の森林地帯を掻き分けて行く形になる。高低差を考えて守備体系を考えないと」
結局、俺とリョウが先行して殿をシンとカイで挟む様に真ん中にオキナとコウ、ナナミの三人で
◇◇◇
朝靄が残る早朝。
魔眼の映像では最も魔獣が映り込んでいなかった時間帯に合わせて出発した。
……ってぇのに。
「ギャーーーーーアッ」
耳障りで甲高い咆哮があちこちから聞こえる。俺とリョウが先導して、小走りで走り抜ける。
あたりはガサガサと下草を駆け抜ける音がしたかと思うと、丸太ほどもあるコモドドラゴンが踊り出て来た。
「シュッ、シュッ、シュッ!」
口から強酸の唾液を吹きかけて来る。
一戦したことがある俺はこう来ると分かってたから、左手を翳し、小ぶりなシールドを展開して難なく直撃を避けた。
「ソリャッ!」
あっという間に距離を縮めて、コモドドラゴンの首を刈り取る。
左手から飛びかかって来たコモドドラゴンは、横から飛び出したリョウが切って落とした。
そのまま小走りで駆け抜けて行く。
チラッと後続を見ると、駆けながらコウがシールドを展開しているらしく、側面から襲いかかって来るコモドドラゴンを弾き飛ばしている。
だいぶ急襲されるのにも慣れた様だ。
そのまま二キロほど駆け抜けると、森を抜けて少し開けた山道にたどり着いた。
「すぐに防御陣を張る。
オキナの掛け声とともに、盾役のモンとカイがライオットシールドを絡げ走り出る。
シーパーのノサダとサラメも盾を掲げて壁役を買って出てくれた。
横陣と言っても山道の幅は三メートルほどしか無く、ライオットシールドを隙間なく並べても三、四枚が限度だ。
ライトニング・ボウガンを抱えたシンとオキナがその後ろに配置した。
森から抜けているので両脇の視界も良好だ。横から襲われてもコウがシールドを張って対応できる。
ガサガサと目の前の茂みが揺れる。
「来るよっ!」
コウの短い警告が飛んだ。
「シュッ、シュッ、シュッ!」
ホースで吹き出した様にコモドドラゴンの強酸の唾液が飛び出してくる。
コイツはライオットシールドも溶かすので、コウがシールドを展開して跳ね除けた。
べチャリと地面に落ちるとジュッ、と嫌な匂いをたてる。それが獲物にヒットしたと勘違いしたコモドドラゴンが踊りでて来た。
どの世界にも早合点するヤツはいるものだ。
「ギャーーーーーアッ」
耳障りで甲高い咆哮があちこちから聞こえる。
先頭のコモドドラゴンが体をくねらせて飛び込んで来た。
バチーーーンッ、とコウのシールドに激突して転がる。
その後ろから三匹、体をくねらせたかと思うと飛びかかって来た。軽く五、六メートルは飛んでいるのではないだろうか?
バチンッ、バチーーーンッと同じくコウのシールドに激突した。
「今だっ、打てッ!」
コウがシールドを解除すると、
一斉に
「ギャーーーーーアッ」
バチバチッと火花を散らしながら、コモドドラゴンが転げ回り肉の焦げる匂いが立ち込めた。
「ギャアッ、ギャアッ!」
ドドドッと地響きがすると、匂いに釣られたのかコモドドラゴンの群れが森から姿を現す。
「そのまま掃射ッ、薙ぎ払うよっ!」
コウの
オキナも魔石を取り替えては掃射を繰り返し、ライトニングボウガンが加熱して使えなくなると、シャルパから替わりを取り寄せて掃射を繰り返す。
目の前が
どれくらい掃射しただろうか?
ジュウ、ジュウと焦げる匂いと煙りが風に流されると、コモドドラゴンが山の様に折り重なって屠られていた。
「こりぁ、暫く肉は困りそうにないな」
カイがカラカラと笑う。
これ……食う気かよ?!
目を見開いてカイを見ると他の面子もうんざりした目でカイを見ていた。
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