戦闘準備

◇◇コウヤ目線◇◇


 ついに、決着をつける時が来た。

 コウと二人、敵の本丸『カグラ』のアジトに乗り込んで必ず討ち取る! よくも今までーー。コウも、今までの鬱憤を晴らすつもりだ。


 「悪いが、そこまで待つ気はねぇぞ! 速攻でブチのめしてやるよ!! 借りは、たんまりあるんでな」

 逆さまに落ちる光の滝に駆け込むと、俺は親指を上げてニパッ! と笑った。


 光が収まると、金属兵の背中が見えた。

 ドォン! ドォンッ! と散発的に爆音も聞こえる。少し遅れて、魔法陣が広がりコウが出てきた。あたりを見回すと、領主館の中にいるようだ。


 「コウヤ!」と声をあげてコウが、一点を指し示す。窓の向こうに、晴れ渡る空が見えた。

 その真っ青に光る空に浮かぶ銀色の飛行船。窓に駆け寄り、飛行船との距離を目測する。徐々に高度を下げている。

 郊外に着陸するようだ。およそ二、三キロ先ってところか?


 「先回りできたようだな」

 コウに振り向く。

 

 「接敵まで十五分ってところだ」少し、眉をひそめて言う。「んじゃ! 一足先にいくぜ!!」

 と駆け出そうとする俺を、コウは押し留めた。

 「ちょっと待てコウヤ。カノン・ボリバルがまともに来ると思うのか? 少しは作戦を考えろよ」


 んん? まぁ、そうだな。

 「んで? 奴らが戻ってきたら、どうすんだ?」


 「『遮断』を封じる。そのための準備がいる」


 「封じられるのか?」


 「ああ。恐らくーーー。今わかっていることは、『遮断』は有効範囲があるって事と、有効時間があるんじゃないか? って事だ。私が有効範囲の外から攻撃するから、コウヤはヤツの『遮断』が切れる時間までシノギ切ってくれ」

 「持久戦かい?」

 カノン・ボリバルは、策士だが剣の腕も立つ。

 しかも、わざわざ『ブホン』に立ち寄ったって事は、あの脳筋野郎のライガを連れて来るはずだ。


 「まぁ、どっちもぶっ倒してやりゃあ良いだけだけどな」

 ちょっと強がりかもしれない。

 ライガは、脳筋野郎だが、バカではない。

 むしろ、戦闘にいては天才的な閃きとバカ力を振るう。

 「んで? 俺がコウのところまで、奴らを引っ張って来てコウは奴らにぶっ放すって事だな」

 「ああ。私が魔法を振るう場所を決めてある」

 簡単な見取図を渡された。

 赤いマークがついている広場が、三箇所。

 いずれもある一点を軸に半円形にマークされていた。

 「コウは、ここに布陣するって事かい?」

 街の中心に広場がある。

 その広場を中心に大通りが三つ。それぞれ商店街と、住宅街、地金の精錬所と三つに地区わけされていた。三箇所の中心にある一点を指す。

 女神アテーナイを祀る教会だ。

 「ここの一番高い塔から狙撃する」


 「上からの狙撃かい? 逃げ道はあるのか?」

  高いところほど、狙撃には向くが標的にもなりやすい。あたりを囲まれると、集中砲火を浴びる。


 「金属兵を、二、三体回してくれ。あとは、こちらで対処する」コウは、そう言うと地図に印をつけた。

 「この印のところまで誘導して欲しい。おまえが、敵を引きつけたら背中を狙撃する」

 バックパッカーから、輪にしたワイヤーを引き出すと肩に担いだ。「コウヤ! カノン・ボリバルからやる。『遮断』を使わせて、前がかりになったら後ろから狙撃する」そう言うと、教会まで走っていった。


 俺は金属兵に先程の地図を示すと、コウを追わせた。三体つける事にする。残り一体を連れて、領主館から出た。残り二体で領主館の魔法陣を守らせる事にした。


 領主館は街から少し離れた丘にある。街並みを見渡せるくらいの小高い丘だ。街へ続く一本道に陣取る。敵が攻めて来るならここからしか無い。


 さあ、本番だ!


 ◇◇

 

 ヒュー、ヒューと風が髪をなぶる。

 領主館から、街へ吹き下ろす風が吹いていた。

 「この風向きなら『毒霧』はねぇな」

 独りごちた。

 静かだ。ーーー風の音と、時折聞こえる市街戦の爆発音。金属兵と、獣人の守備隊が接敵しているようだ。


 念のため、索敵サーチは展開している。

 あたりの障害物の位置を歩測しては、距離を頭に入れていく。道を挟んで、左手がまばらな雑木林。右手にはゴツゴツとした岩場。狙撃して来るなら、右手の岩場からか? 

 金属兵を、右手の岩場に伏せる。

 ビィーーーン! 痺れる感覚が正面から襲って来た。

 と、毛穴が開き緊張か走る。敵を察知した。

 

 正面の道に人影が映り、キラリと光った。

 ボンッ! ボンッ!! ボンッ! と音がすると上空に向かって白い煙が打ち上がった。

 「火山弾ボルガニックか?」

 横から見れば弓なりに、こちらから見れば白い煙を吐きながら大波が押し寄せるようにヒュルヒュルと音を立てて火山弾が落下して来た。

 「チッ!」軽く舌打ちして、シールドを展開する。右手の岩場に駆け込んだ。

 ドォン! と言う音と着弾の振動、投げつけられたような破片に、吹き飛ばされた石畳。すべてが凶器だ。

 シールドが破片を弾き、光を放つ。


 「まともに来るとは思ってなかったが、飛び道具からかい?! やっぱり、厄介な野郎だよ」

 ブツクサ言いながら、体を起こす。

 再び、ボンッ! ボンッ!! ボンッ! と音がして白い煙が上空に向かって打ち上がった。

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