いざ!!

 ◇◇コウヤ目線◇◇

 ーー飛行船が飛び去ったシーンからーー


 考え込んでいた。

 オキナの奇策で、敵の寝ぐら『カグラ』に金属兵を侵入させ、制圧したまでは良かった。

 だが、そのすぐ後、ゴシマカス王国の第三都市『ブホン』からの救援要請。

 獣人に襲撃され、領主館まで迫られていた。


 「最低でも、痛み分けを狙っていたってわけかい? どこまで読んでいやがる?! カノン・ボリバル」

 目まぐるしく、勝ち筋が入れ替わる。

 

 「コウヤ殿、コウヤ殿!」

 オキナの声に我に帰る。

 

 「流れが来ている。算段は先程説明した通りで行く。細かい説明をするので、こちらに来て欲しい」

 そう言って、手招きしている。会議室の魔眼の映像が投射されているところまでスタッフに連れてこられた。

 「どっちの流れだい?」

 

 正直、こちらに有利なのか? それともまずい状況なのか? わからない。


 オキナは、俺の気持ちを見透かしたかのようにニヤリと笑うと映像を指差した。

 「これを見てほしい」

 先程まで、王都ド・シマカスの上空に浮かんでいた飛行船を、更にその上空に浮かぶ魔眼から見た映像を指し示した。

 

 「恐らく、カノン・ボリバルの寝ぐら『カグラ』陥落は彼も想定していなかった」

 飛行船の進路を、時間の経過ごとに指し示す。

 「慌てているんだ。あの、カノン・ボリバルが」

 仕掛けた悪戯が、上手くいったとはしゃぐ子供のような笑顔で経過を指し示す。

 『カグラ』を落とされた後、飛行船は『ブホン』に立ち寄ってすぐ『カグラ』に進路を変えている。

 

 その笑顔を引っ込めて、オキナは俺に向き直った。

 「今が攻め時と言うことだ。コウ。コウヤ殿ーーー。二人で奴らの寝ぐら『カグラ』にて待ち受け、討ち果たして頂きたい」


 「『ブホン』はどうする?」

 さっきから気になっていたことを聞く。

 他のお歴々もおんなじ顔だ。

 「ブホンは、我が国の第三都市だぞ?! 一刻も早く奪還せねばーーー」

 ウスケ国王の取り巻きが、嘴を突っ込もうと口を開きかけた時サユキ上皇の低い声が響いた。

 「今は『カグラ』だ」

 国王ウスケに近づくと、盤上を示しながら何か囁いている。早速揚げ足を取ろうとしていた腰巾着どもは、すぐに腰砕けになって口をアワアワさせていた。


 オキナは静かに微笑んだ。

 「さすがサユキ上皇様。ご慧眼けいがん恐れ入ります」と胸に手を当て敬意を表す。

 「もっとも厄介なのは、カノン・ボリバル。かの敵を討ち果たせば、我らの勝利」

 ゆえにーーーと続ける。


 「『ブホン』は一時的に明け渡します。

 敵の目は、今『カグラ』へ向けられている。奴らも本拠地がなくなれば、兵站が絶たれるから当然でしょう。

 魔法陣を使い、領主と領民は出来るだけ避難させます。掠奪は起こるでしょうが、カノン・ボリバルを討ち果たす事が先決。『ブホン』には金属兵を侵入させて、外側を我が軍が包囲し解放します」

 そう言ってコウをまっすぐに見つめる。


 頼んだぞーーー。言外にその気持ちを込めたのが伝わった。コウがまっすぐに見つめ返すと、ニッコリと笑う。

 「お任せを」コウが胸に手を当て、軽く膝を折った。


 「コウヤ殿、見事かの敵カノン・ボリバルを討ち果たして頂きたい」次にオキナが、俺を見る。

 俺もコウを真似て胸に手を当て腰を折った。

 わかってるよ。ブチのめす! とオキナを見返す。

 オキナは軽く頷き、近衛兵に目をやった。


 「先導します」と言って、近衛兵が駆け出した。

 「んじゃッ! あとは頼むな」

 そう言って、駆け出した。

 あとからコウが、同じ魔法陣のある王宮の施設に駆け込んでくる。


 「さんざんな新婚生活だな?」

 ちょっとからかってみる。

 「うるさい! まだ結婚式も挙げられてないんだ! それもこれもーーー! 『カグラ』に侵入したら罠を貼る。『遮断』を使えないくらいに徹底的に。

 カノン・ボリバルにはきっちり仕返すから、だからそれまでコウヤ。持たせてくれ」

 ギタギタにしてやるから! って顔で俺を見る。


 おおーー怖ッ! と肩をすくめる。


 「悪いが、そこまで待つ気はねぇぞ! 速攻でブチのめしてやるよ!! 借りは、たんまりあるんでな」

 逆さまに落ちる光の滝に駆け込むと、俺は親指を上げてニパッ! と笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る