攻防

 会談による時間稼ぎ。

 その間に、オキナの放った金属兵が敵のアジトを制圧していた。このまま、制圧できると思っていた。

 だが、『ブホン』からの緊急支援要請ーーー。

 獣人三千に襲われていると言うのだ。奴らの本当の狙いは?!

 

◇◇カノン・ボリバル目線◇◇


 会談決裂した直後の話だ。


 「フン! 承認しない?!」

 俺ーーーカノン・ボリバルは、飛行船の中に設けた会談室で呟いた。


 もとより、想定内だ。

 こんな事で苛立つほど、ヤワじゃない。

 不愉快なのは、俺たちから搾り取った金と時間で、肥え太ったお貴族どものあの態度だ。


 「代わりに、自治区を検討するだと? する気もないくせに!」

 

 ふざけた会談を終えた。

 見え見えの時間稼ぎで、飛翔できる援軍でも待っているのだろうか?

 もっとも、こちらとしてもで時間は欲しかったから好都合だ。

 吠え面をかくが良い!


 「ライガの部隊はどうだ? 『ブホン』を落とせそうか?」会談室から出ると、魔眼の映像に見入っていたコンガに尋ねる。

 蛇人独特のポーズで、肩ごとこちらを振り向いた。

 そのポーズだと、胸やら腰が強調されて蠱惑的だ。なかなかに目の毒なんだがーー。


 コンガは黙って微笑んだ。「上手くいっている」と言うことらしい。

 「さて、我々も次の仕事と行こうか?」そう言うと、彪の獣人ヒューガに目をやった。


 「了解! なかなか、手強かったようだな?」

 操作をしながら、俺に笑いかけた。

 「ああ。すんなり行くワケがないとは思っていたが、狸ばかり揃っていたよ」

 苦笑いしながら答えた。


 ヒューガが左手でレバーを操作しながら、グルグルと操舵を回す。

 ブシューーッ! っとガスを注入する音が頭上からすると、ガクンッと飛行船が揺れて、上昇が始まった。


 「ライガが、張り切ってるわよ。もう城壁に取り付いた」魔眼の映像を見ながら、コンガがフフフッと笑う。

 見ると、光矢ライトニングをライオットシールドで弾きながら、城壁に取り付いている。


 「あれだけ、自重しろと言ってたのに!!」

 大将自ら城壁を登るバカがどこにいる?

 頭を抱えたくなる。

 俺の心配をよそに、ライオットシールドを背に担ぐと、両腕に取り付けた鉤爪を器用に隙間に突き立てては、スルスルと登って行った。

 大将に遅れまいと、他の獣人たちも必死に登って行く。

 城壁の上にたどり着くと、あっという間に五、六人をなぎ倒し、さらに光矢ライトニングの射手を叩き落として行った。


 「呆れたーーー。つくづく、敵じゃなくて良かったわね」コンガが、口を半開きにして驚く。


 三十分もすると、城壁の上を制圧してしまった。

 後続の獣人のために、ロープを城壁の上から垂らす。

 やがて、光矢ライトニングの射手が到着すると、援護射撃が内側に向けて開始された。

 上からの射撃が、有利なのはご想像の通りだ。

 瞬く間に、城内からの射撃が沈黙して行く。


 ロープを体に巻きつけると、トン、トンと城壁を蹴りながらあっさり侵入し、正門の大袈裟な勘抜きを外すと、外で待機していた味方を招き入れた。


 「半日かかって無いじゃない?! あっきれたぁ」 

 コンガが、苦笑いしている。

 「合流したら、どうするの? 油を搾るにもどこ吹く風よ?! 『細けぇ事言うなよ』って」

 流石に俺ーーーカノン・ボリバルも同じ事ができるか? と問われたら、何も言えない。

 「現場の判断さ。そこは尊重する。さて、コンガ。魔人との交渉をしようじゃないか?! 魔眼をつないでくれ。ライチ公爵がお待ちかねだ」


 ライチ公爵ーーー。魔王オモダル亡き後、魔人世界の主梁しゅりょうとなった男だ。

 骸骨がいこつに張り付いた様な乾いた皮膚。

落ちくぼんだ目は血の様に赤く、高く隆起した

鉤鼻かぎばなの下で薄い唇が笑いを浮かべている。


 「お待たせ致しました。ライチ公爵。我が軍は、すでに『ブホン』の正門を開放し、領主館を押さえるのもあと僅かとなっております」

 わざとへりくだった態度で、挨拶を交わす。


 「ほほう?! まだ連絡を受けてから、半日も立っておりませんぞ?! どうやら、あなた方を見くびっていたらしい。ーーー過日の無礼は、陳謝しますぞ」

 上機嫌だ。こんな時は、何かあるーー。

 「いえ、お気になされぬよう。それで、我が国の武力はお認め頂けましたかな?」


 「ああ! それはもう充分に」

 薄笑いを浮かべたまま、薄い唇を指でなぞっている。 

 「では、これで我らを同盟国とお認めいただいたと言うことでーー」

 これが、今回の狙いだった。

 すんなり、ゴシマカスが独立を承認するとは思っていない。だが、ブホンを落とす条件で、魔人国と同盟を結ぶ手筈になっていた。

 魔人を後ろ盾にとれば、そうそうゴシマカス王国も我々に手は出せない。


 突然、ライチ公爵は骸骨に張り付いたような口をパカリッと広げ、はっはっはッ! と哄笑した。

 「ん? 何かーーー?」 

 不審に思った俺は、頭の中で手落ちがなかったか大急ぎで思考を巡らす。


 「いやぁ! お見事、お見事!! 見事に『ブホン』を攻略されるようだ。しかし、お膝元の『カグラ』はゴシマカスの配下に押さえられたようですな?!」


 「な、なーーー」なんだと?!

 冷や汗が、頬を伝った。

 バカな! 守備隊は充分に配置していた。

 山岳地帯の入り口には、砦も築いて防衛線を張っていた。何かあれば、すぐに連絡が入る筈だ。

 急いで、コンガに目配せし『カグラ』の状況を調べさせる。


 「なに、それもこれも想定内です。慌てる必要は何もないーーー。ただ、万が一も無いよう、少し時間をいただけますかな?」

 そう言って、ライチ公爵との会談を打ち切った。


 「カノン! あのミイラ骸骨の言った通りだよ! 『カグラ』のアジトに、金属兵が立てこもっている!!」

 コンガが、会談室に駆け込んできた。

 「ーーー何故だ? 警戒は充分に敷いた筈だ!! どこから湧いたと言うんーーー」

 湧いたーーー? 

 魔法陣か?!

 しかし、この短時間でどうすればそんな事ができる?

 「コンガ。ちょっと席を外してくれ」と頼んで会談室から追い出した。

 一人にならなくては、錯乱してしまいそうだ。


 一体、誰が? どうやって??


 「コウか? あの化け物の様な魔力を使ったか?」

 独り言が、ブツブツと口をついてでてくる。

 「バカなーー。コウもコウヤも始末した筈だ。オキナともども列車ごとーーー」

 

 確かに、機動車は谷底で粉々になっていた。

 念を入れて、調査したが死体は見つからなかった。

 暴走列車の件以降、警戒レベルが引き上げられ、王都に侵入させた諜報員からの連絡は絶たれたままだ。

 

 「まさかーーー?! 生き延びていた? どうやって? あの状況でだぞ?!」


 だが、今の状況を見ればそうとしか考えられない。

 あの状況から生き延びて、反撃してきたのか?!

 この状況を作り出せる人物とはーーー?


 「オキナか?! 生き延びたのか?! あの男!!」

 

  「グッ! クソ!! クソッ!」

 食いしばった歯の隙間から、極力抑えた罵倒が漏れ出した。頭を掻きむしり、机を殴りつけようとして堪える。

 今、俺は動揺している。

 他の同志に伝わるとマズい。不安が伝播してしまう。

 思い直して、大きく深呼吸をする。


 (早めに始末しとくんだった!!)

 ギリギリと奥歯をくいしばる。


 なんであれ今は、奪還に全力を注ぐべきだ。


 「ライガーーー。ライガを呼び戻せ! 飛行船を降下させて合流する。残りの部隊に『ブホン』の死守を。魔人との共闘を打診する。魔法陣を魔人国と繋ぐ様に伝えろ」

 ヒューガにそう告げると、魔眼の映像を『カグラ』に繋いだ。


 やっと、ここまで来たんだ。

 奴らが次の手を打つまでに、『カグラ』を奪還する! 

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