絶体絶命

 「こいつはーーー?? 猛毒って事かい?」


 ドラム缶ボンベ二本分の猛毒。

 このまま、列車が止まらなければコイツが街にばら撒かれるって寸法だ。

 もちろん、俺も、コウも、オキナも、細切れになって毒の中に沈む。

 おいおいーーー。

 せっかく地雷を破壊したのに、次は毒かよ......?

 ウンザリして、泣き言が口を突く。


 「泣けるぜ......」


◇◇コウヤ目線◇◇


 状況を報告しに機動車に戻るかーーー。

 念のためドラム缶を固定してある金具を見る。

 案の定、ボルトでガッチリ固定してある上に溶接までしてあった。


 「念の入ったこってーーー」

 床ごとぶっ壊すか? ぶっ壊して、このドラム缶を放り捨てちまえばーーー?! 

 だが、床ごと引き剥がしたところで、このドラム缶だけでも二トンはある。動かせるもんじゃない。


 なら、連結器を外してこの客車を切り離すか?

 切り離した客車を、俺のディストラクションで吹っ飛ばせば、毒ごとお払い箱に出来る。


 「その線で行ってみるか?!」


 ブツブツ言いながら、ガチャン! ガチャン!! とやかましく音を立てている連結器の場所まで戻った。

 機動車に繋がる扉を開けると、ビュービューと風が髪をなぶった。

 「?!ーーーさっきより、速度が上がってねぇか?」


 ガタン、ゴトンッ! ガタン、ゴトンッと車輪がレールを鳴らす音の間隔が、さっきより短くなっている。

 なんか嫌な予感がする。

 機動車に飛び移ると、オキナとコウの元に急いだ。


 「オキナ! さっきより速度が上がってねぇか?」

 オキナはコウに膝枕をしてもらい、横たわっていたがコウの助けを借りて半身を起こした。


 「あ、ああーー。そのようだな......」


 「どうした? 足が痛むのか?」


 「いや......足はコウに処置してもらったから、大した事はない。コウヤ殿、後ろの車両はどうだった?」


 「マズイことに、ドラム缶二本分の毒ボンベが積んであるぜ。これから後ろの客車を切り離して、俺のディストラクションでぶっ壊す」

 

 「コウヤ殿、それはマズイぞ。この列車が、加速しているのはわかるな?」


 「ああーーーそれが、どうまずいんだ?」


 「この先暫しばらく、下り勾配になっているんだ。

 連結器を壊したところで、追走するから客車に乗り移って客車の非常ブレーキをかける必要がある」

 だからーーーと顔を歪める。


 「ブレーキをかける人間ごと、吹き飛ばさなければならない。それに連結器に罠を仕掛けている筈だ。私が敵ならそうする」


 「全く、どんな性格してんだ?! カノン・ボリバルのヤロウ! ちょっと見てくる」

 そう言い残して、連結器のところまで戻る。

 上から見る分には、何もないようだがーーー。床に腹這いになって、下を覗き込んだ。


 「?! ......ありやがる」

 連結器の根本からコードが伸びており、その先の隙間に筒状の爆薬がしかけてあった。一応、客車側からも同じように覗き込むと同様の仕掛けが施されている。

 恐らく連結器を外そうとした途端、ドカンッ! だ。


 さてーーー切り離すのもダメ、取り外すのもダメときたか?! どーしたもんかな?


 列車を止めて、専門に任せるか? 

 近くの民家から早馬を出してもらえば、後は王都軍がなんとかするだろう。

 再び、オキナとコウの待つ機動車に戻った。


 「オキナの言った通りだった。連結器が外されたら爆発するように仕掛けがあったよ。

 列車ごと止めて、王都軍へ連絡をとろう」

 コウとオキナが顔を見合わせる。

 んーーー? 何かあったのか?


 コウが気まずそうに口を開く。

 「なぁ、コウヤ。とっくに止めるよう操作をして見たさ。ブレーキをかけても、またすぐに加速が始まるんだ。

 この『赤の一号』は、ゴーレム列車だ」


 「なんだよ? そのゴーレム列車って?!」


 「列車の機関にゴーレムが埋め込まれた最新型さ。

 操縦しなくても、命令すれば勝手に走ってくれるーーー。いつまでに、どこへ行けってね。操縦士はただの補助だ」


 まっさかぁーーーッ? 自動運転かよ?!

 こっちじゃAIの代わりになる魔法が、たんまりあるんだった! 厄介な便利魔法なんか使いやがって!!


 「手動に、切り替えられないのか?」

 

 「切り替えのキーは取り外されていた。今、魔石の細工ができないか調べている」

 オキナは、口に小型の照明灯をくわえて、運転士の操作盤の下に潜り込んみ配線を辿たどっていた。


 そんな悠長な時間があるのかよ?

 こうしてる間にも、王都軍は出来るだけ王都に近づけまいとこっちに向かっているんじゃねぇのか?


「まどろっこしいなッ! コウ!! おまえの魔法でバチーンッ! とぶっ壊しちまえよ」 

 オキナの作業中も、オキナの足にヒールをかけ続けているコウに声をかけた。


 「無茶を言うな、コウヤ。私にとっては、未知のテクノロジーだ。下手に壊して、逆に加速したらどうする?」

 コウは、あきれ顔でこちらを見た。


 「......その手が、あったか?!」

 オキナの手が止まっている。


 ん?! って顔で俺とコウはオキナを見た。


 「コウヤ殿ーーー。それだよ! 魔石を壊せばいい!! 魔石を壊してしまえば、安全装置が働いて停止する」


 な・ん・で・す・と?


 「ちょっと待って! オキナ。本当にそれで止まるの? そんな簡単な方法で? 暴走する可能性は?!」


 「無いとは言えない。だが、ゴーレムが制御できなくなった時のために非常ブレーキをつける筈だ」

 操作盤の下からゴソゴソ這い出てきた。

 「コウ! ゴーレムは、土属性の魔物だ。土の相剋は火ーーー火属性魔法は打てるか?」


 「躯体を壊さないコントロールが難しいけど、なんとかなるかな? だけど、本当に大丈夫なの?」


 「やって見なくちゃ、わからないさ。ともかく、魔石の在り処を探す」


 そうしてる間にも、さっきまでガタン、ガタン、って車輪がレールを踏む音がカタン、カタンッ、カタン、カタンと早くなっている。


 ブブッ! 操作盤の左側にある通信石から、紙が吐き出された。緊急連絡らしい。


 コウが取り上げて顔色を変えた。

 黙ってオキナに手渡す。

 「マズイぞーー。この先十キロにある鉄橋が、軍によって破壊された。軍は、そこで列車を脱線させる気だ」


 「ヤバイじゃねぇかよ! 魔石を早くぶっ壊さねぇと!!」

 

 俺たちは、サーチを最大限に細かく展開して探し出した。「冗談じゃねぇゾ! 全く!!」


 ビー! ビー!! と警告音が鳴りひびいた。

 「わかってる! わかってるって!!」

 俺は警告音に怒鳴り返す。

 操作盤の中央にある球体が、赤く点滅し始めた。

 「あと何分で、鉄橋だ?」

 

 「あと十分ぐらいで到達する」

 流石のコウも、顔色が優れない。


 ビーー! ビーーーッ!

 警告音が変化した。

 「本気でヤバイぞ!」ってつもりかよ!!


 ビーーーーッ!

 大音響だ。


 「やかましいッ!!」

 バキャッ! カッとなって赤く点滅する球体を斬りつけた。ボンッ! と音を立てて照明が消える。


 ブゥゥーーーン。


 列車がグラッ! と揺れて減速した気がした。

 「えっ? ーーーやったのか?!」


 一瞬の間を置いて、ブィーーーンッ! と機動車の回転機関が回り出した。


 「加速してんじゃねぇよ! バカ野郎!!」

 俺は絶叫した。

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