「泣けるぜ......」
オキナとの再会の喜びも束の間。
「ランドマインーーーネクロマンサーの使う魔道具だ。発動したら爆発して、被弾した者をゾンビにしてしまうーーー
オキナは血の気のない顔で、冷えた笑いを浮かべた。
◇◇コウヤ目線◇◇
ゴクリと唾を飲んだーーー。
どうする?
「解除する方法は?」
俺がオキナに尋ねると、ゆっくり首を振った。
「専門のネクロマンサーしか、解除できない。魔王軍が先の大戦で使用し、甚大な被害がでた。こちらも解析を進めたが、未だにわかっていない」
「厄介だな」と呟くと、オキナが
「そこで君たちにお願いがある。この列車を破壊して欲しい。恐らく敵は王都の中央駅に、この『赤の一号』列車を突っ込ませる気だ」
思わず目を
「そんな事されたら、王都の中心部はめちゃくちゃになるぜ?!」
「そうーーー中央駅は発着地だ。始発ともなると、千人はいるだろう。この『赤の一号』は時速百キロ、総重量九十トンある。減速なしで突っ込むと、恐らく車止めを飛び越えて駅舎ごと破壊する」
俺も、コウもウッと唸って、息を飲む。
「おいーー千人も犠牲者が出るなら、王都軍は俺たちごと列車を破壊するんじゃないのか?」
「その通りだよ。そして恐らく、敵はもう王都軍に伝えている。暴走列車を突っ込ませる警告と称してーーー。
味方に殺させる気なんだよ。救国の英雄たちを」
オキナは血の気の無い顔で笑った。
「だからーーーコウヤ殿。コウを連れて脱出してくれないか? 脱出したらこの私ごと破壊してくれ。君のディストラクションで跡形も無くーーー」
真っ青な顔で微笑む。
「バ、馬鹿な「嫌よッ!」こと......」
俺の声をコウが鋭く遮った。
コウは大きく見開いた目に涙を溜めて、顔を真っ赤に染めている。
「何言ってるの? オキナ?! 自分だけ死ぬって言うの?! 私だけ生き残っても、あなたがいない世界なんてなんの意味もないわッ! 自分だけ死ぬなんて言わせないから!!」
せめてーーー。と唇を震わせた。
「せめて、私に助けろって言ってよ。私も死ぬのは怖いけど、あなたが助けろって言ってくれるなら、この命も惜しくない」
ほほう?! 馬鹿な事を言ってやがる。
頼まれたなら、一緒に死んでやるってか?!
「なぁーーー。二人で馬鹿な事言ってんじゃねぇのって! 諦める前に方法を考えてくれ。
真っ青な顔で俺を見たオキナは、唇を震わせて何かをつぶやいていた。
「ーーーが、ーーーのーをーー」
ん? なんか言いたい事があるのか?
ゴクリと唾を飲み込むと、オキナは言い直した。
「解除は不可能だが、破壊する方法はあるーー。ランドマインの中にある魔石の核を壊せばいい」
「なんだーーーやりようはあるんじゃねぇかよ。
で? どうやって壊せばいい?」
「魔道具の構造は同じだ。魔石の核に術式を刻む。この魔石の核を壊せば良い。ランドマインの魔石は直径一センチ。その核となると僅か五ミリだ。ここを先端の鋭利なもので、一ミリあたり二百キロの荷重をかけると魔石は崩壊する。だが、その下にある爆薬まで到達すると爆発し、更に呪符まで撃ち抜くと、ゾンビ化の呪法が発動する」
「は?ーー今、なんてった?!」
なんなんだ? その無理ゲー?!
「少しでも魔石の核から逸れたら、それで終わりだと言ったんだ」
グッと唾を飲み込む。
「だからーーー。ランドマインの破壊は不可能なんだよ」
「氷点下まで冷やして凍らせたら? 爆発を防げるんじゃない? 爆発しなければ、ゾンビ化の呪法も発動しない」
コウが思い付きを口にする。
確かに、前世でも映画かなんかの爆発処理のシーンで、液体チッソで凍らすって見た気がする。
「確かに有効だと思う。だが我々もまず、凍らせて処理しようとしたが失敗した。
魔石まで凍らせる魔導師が、いなかったのもあるのだがーーー。術式が五分後には発動した。だから凍らせるだけじゃダメだ。完全に破壊しないと」
うーむ。壊さない限り発動して、ゾンビ化するってか?!
「
思わず弱音が出てしまう。
「?!ーーー
んーーー? コウが俺を見てる。
な、なんか変な事いったか?!
「コウヤ、軍神アトラスならどうなんだ?」
ーーーえ? 軍神アトラスってか?!
「軍神アトラス憑依したおまえなら、感覚的にどうなんだって?」
なんですと? そんなミリ単位のコントロールなんて、やった事ないってばよーー。
「感覚はどうなんだ?」
確かにーーー。音速を超えるスピードで、剣先をコントロール出来ていた。
なんと言うか、攻撃する一点に勝手に剣先が走る感覚ーーー。
「出来るかも知んねぇ......。音速を超える
「まず私が、魔石を凍らせて固定する。そのあとコウヤ! 軍神アトラス憑依して、魔石を砕いてくれ」
コウの目が、完全にイッている。
「くれって簡単に言うなよ。保証出来ないぞ」
俺もやった事ねぇんだからよ!
オキナが追随してきた。
「失敗しても構わない。私の為に二人を巻き添えにしまうかもしれないが、少しでも可能性があるなら......、嫌、これしか無い! 失敗して当たり前だ!!
コウヤ殿! 私からも頼む!!」
軽く頭を下げる。
「わかったよ。ーーーで? どうやって魔石の位置を割り出す?」
「......」
コウとオキナが黙り込んだ。
「凍らせたあと、魔石に私の魔力を注ぎ込む。魔石は僅かに熱を持つはずだ」コウはここまで言うと、また黙り込んだ。
「その僅かな熱を感知できれば......」
「熱か......。 熱ねぇーーーってガスマスクの魔眼で見えるんじゃねぇか?」
「「それだ!」」
オキナとコウの声がダブった。
「コウ、私の足ごと凍らせてくれ!! 私の足の熱が邪魔にならないように」
オキナはコウの腕を掴んだ。
「頼む! 足だけで済むなら安いものだ。やってくれないか?!」
コウの顔が歪んだ。
例え命を救う事ができても、オキナを傷つける事に変わりは無い。
「ーーーわかった。傷は私のヒールと、ポーションで応急処置する。障害が残っても、私が支えていけば良いんだ」
コウは、自分に言い聞かせるように呟いた。
「ヨシ! やってみるか? コウ、頼むぜ」
俺はガスマスクを装着して魔眼の暗視をセットした。
「行くよ、オキナ。冷気の極みーーーフローズン・クールーーー更に下れ、更に下れーーー
パキパキと音を立てて、ランドマインが凍ってゆく。
オキナの靴も真っ白に変わった。
「あとは魔石に魔力を注ぎ込むーーー」
コウの綺麗な眉が、少し歪んだ。
ガスマスクの魔眼を通して見ると、ランドマインとその周辺だけが、真っ黒になっている。
と、一点だけ僅かに緑色に光る塊りが見えてきた。
魔石だ!
俺も霊力を纏わせていく。
「集えーーー集え。わが盟友たちよ。
我が名はーーー軍神アトラス」
金色の光に包まれた。
軍神アトラスの目から見ると、緑色の点がはっきりと見える。
「フンッ!」
パン! パンッ!! とオキナの右、左の足の甲ごと貫いた。
「クッ!」
オキナが顔を歪める。
パンッ! パリンッ!!ーーー!
ガラスが割れる様な音を立てて、ランドマインは砕け散った。
暫く飛び散った破片を見つめる。
術式が発動しないかーーー?!
「やったかッ?!」
破壊した後も、ゾンビ化しない。
「成功だ! コウヤ、下がって!! この穢れを廃棄する!」
素早くコウが、破片ごとシールドに閉じ込めて行く。「ウインド!」と唱えると、風魔法で列車の外へ吹き飛ばした。
ふぅーーー。
軍神アトラスを解除すると、深くため息をつく。
コウ見ると、オキナの足の甲に、ポーションをふりかけヒールをかけている。
「痛いか? オキナ」
「問題ないーーーありがとうコウ。ありがとうコウヤ殿」安心したのか顔が綻んでいる。
安心に包まれた。
この雰囲気はーーーそう、家族の風景だ。
おまえ達もう家族なんだなーー。
何故かそんな風に、納得している自分がいた。
(なんだかなぁ)
俺の中の、コウへの未練が昇華されていく。
「さてとーーーあとはこの『赤の一号』をどうやって止めるかだな」
俺の呟きにオキナが反応した。
「後ろの客車に何かなかったか!? コウヤ殿」
「なんかってーーー。?! ドラム缶みたいなモンが置いてあったぞ!」
機動車から客車に飛び移る。
「なんだったんだ? あれは?!」
ドラム缶にかけられたシートを剥ぎ取ると、そこにはドクロマークにバツ印が描かれていた。
「こいつはーーー?? 猛毒って事かい?」
ドラム缶ボンベ二本分の猛毒。
このまま、列車が止まらなければコイツが街にばら撒かれるって寸法だ。
もちろん、俺も、コウも、オキナも、細切れになって毒の中に沈む。
おいおいーーー。
せっかく地雷を破壊したのに、次は毒かよ......?
ウンザリして、泣き言が口を突く。
「泣けるぜ......」
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