罠(わな)②

◇◇カノン・ボリバル目線◇◇

 

 餌のオキナに食いついたコウヤとコウ。

 罠とも知らず救出にやってきた。

 俺ーーーカノン・ボリバルの罠に、まんまとかかってくれた訳だ。

 ここで奴らの息の根を止める。


 こいつら二人がいる限り、我が悲願『自由と平等』は訪れない。

 なぜなら、支配と差別は人間どもの本質だ。

 ゴシマカス王国はその最たるもので、この二人こそ、その守護者だからだ。

 

 罠にかかった連中を血祭りにあげるため、俺ーーーカノン・ボリバルは魔道具を準備していた。

 

 ライガと拳を突き合わせ、轟音の鳴り響く砦の中丁重に迎えに行く。

 ーーー冥土めいどへの片道キップを渡しに。


 ◇◇コウヤ目線◇◇


 ドォンッ! と轟音が響いた。

 地面が揺れる。


 側面からの突入も始まったようだ。

 開始から約五分。

 ぼちぼち『遮断』をしてくる時間だ。

 『遮断』を喰らう前にこちらも突入する。


 「フンッ!」


 全身に闘気をまとわせる。

 引き抜いたミスリルの剣が、細かく振動し輝き出した。

 「フンンッ!!」

 の壁を一閃いっせんした。


 「ムンッ!」

 もう一閃いっせん

 ドォンッ! という爆音を響かせて、壁は吹き飛んだ。


 濛々もうもうと上がる土煙りがうっすらと建物の形を映す。

 と、壁の奥から赤色から白く変わる光が現れた。暗視では、高温ほど白く見える。


 (ーーーってことは?! 

 この奥から高温の何かが飛んでくる?!)


 「リョウ! 俺の後ろに隠れろ!!」

 

 「へ?!」


 シールドを展開してリョウの前に立ちふさがった。


 ドンッ! と腹の底に響く轟音とともに、拳大の火山弾が飛んできた。

 シールドを支える左手が弾き飛ばされそうだ。

 ドンッ! ドンッ!! 


 「火山弾ポルカニック?!」

 体ごと吹き飛ばされそうになる。

 コウの得意技だ。誰かれマネできるものではない。まして連発はありえない筈!?


 先ほどの位置が、さらに真っ白く光る。

 ドンッ! ドンッ!! ドンッ!


 火山弾ボルカニックがシールドを弾き飛ばし辺りの地面を赤く穿うがった。


 (亀、シールド!)


 海亀の甲羅が光り、シールドが展開されようとしたその時ーーー!?

 『遮断!』

 嗄れた声が響いた。


 「チッ! 嫌なところで使いやがるッ」

 亀の甲羅からシールドの光が消えた。


 (ヤバイ! 距離を取ったら、さっきの『火山弾ボルガニック』が飛んでくる)


 「リョウ! こっからはシールドが使えねぇ!! 突っ込むぞ!」

 

 「了解!」


 光陰流の独特な構え膝立ひざたちで低く構えると、

そのままバックラー(海亀)を翳して突っ込んでいった。

 

◇◇突入直後。その頃コウはーーーコウ目線◇◇


 金属兵を盾に正面の突破は成功した。


 「突入から何分?」


 「二分少々!」


 「上等!」声を返して前を見る。


 ゴーグルを通して見ると、わらわらと緑のゾウリムシがいて出てくるように見える。ざっと二十人と言ったところ? 獣人がいて出てきた。


 指先を広げ、魔力を練る。

 バチパチッ! と音を立てて、地面から魔力が集まって来た。

 

 「ダブステップ!!」


 パリパリパリッ!

 パンッ! パン! バン! パンッ!


 雷撃魔法だ。床を壁を雷光が伝って、蛇の様にのたうちまわった。


 「ブバババーーッ!」

 感電して手にした光のライトニング・ボウを取り落としたのが見える。


 バン、バン、バン、バンッ!


 金属兵が床に倒れ込んだ獣人に光矢ライトニングを掃射した。かわいそうだが、仕方ない。ここでトドメを刺しておかねば、突入したあと背後から襲われる。


 暗視で敵影がないのを確認すると「前方、クリア! 五メートル前進!!」と後発に声をかけた。


 「何分経過した?」


 「十分です!」


 「そろそろ『遮断』がくるよ! 金属兵を盾にボウガン《光りの弓》班、前に!! 突入班、全員、抜刀!」


 シュッ! タタンッ!!

 シュッ! シュッ!! タタタタンッ!


 私が声を上げるのとほぼ同時に、まばゆい光の帯が右前方から襲いかかって来た。

 パンッ! パンッ!! と乾いた音を響かせて、金属兵の展開したシールドに、弾かれた光矢ライトニングが火花を放って飛び散る。


 「金属兵、突入! 射手は援護して!!」

 「ギィィ!」

 金属兵がこちらを見て頷く。

 『了解した』と言いたいのだろうか?


 ブォン! と排気音を響かせてガチャガチャ走り出す。

 途端に敵の光矢ライトニングが金属兵に集中した。


 「ライトニング! 連射!!」

 シュッ! シュタタタターーンッ!!


光る射線を頼りに、光矢ライトニングを連射する。


 「グハァ!」

 「グッグッ!!」

 緑色に光って見える敵影が倒れ込んだ。


 「よし! このまま前ーーー」


 ドンッ! という音とともに金属兵が吹き飛ぶ。


 「?!」慌てて金属兵の奥に暗視を凝らすと、

 「ブモォーーッ!」 

と雄叫びとともに、真っ赤な塊が現れた。

 興奮して熱を撒き散らし、赤く光って見える。


 「ミノタウルスです!」後発の兵が声を上げる。


 鎧に覆われたミノタウルスが、金属兵を押し倒していた。

 顔が水牛で体が人型のバケモノだ。

 金属兵を見下ろすその巨体は、軽く二メートル五十はある。バットより少し長いくらいの鉄杖を右手に、バックラーを左手に、興奮したその目は血走っていた。


 「ブモォーーー!!」と雄叫びを上げた。

 振り上げた手にした鉄杖を金属兵に突き出しす。

 『ギィィ!!』

 金属兵は手の甲でそれを逸らすと、素早く立ち上がった。


 「ブモォ! ブウッ!!」

 「ギィィ!」

 ガチンッ! ガチャン!! と派手な音を立てて殴り合いが始まった。


 (怪獣大戦争.....?! って言ってる場合じゃない! そろそろ頃合いだな)


 ドォン! と爆音が響き、ミノタウルスの背後の壁が吹き飛んだ。


 「サンガ中尉!」声で合図する。

 中段からサンガが突入してきた。

 ミノタウルスの背後から襲いかかる。


 「ブモォ?!」

 振り返るミノタウルスの背中に光矢ライトニングが直撃し、鎧が弾け飛ぶ。


 「ブモォォーーーッ!」


 悲鳴を上げて逃げようと身を翻すが既に遅く、ドチャッ! っと金属兵が放つ剣に胸を差し貫かれていた。

 「ブモォ......」 短い悲鳴をあげると動かなくなった。

 

 「よし! このまま救出班を呼び込んで救出路を確保!!」と声を上げる。


 (もうすぐだ! もうすぐ助けてあげる!! オキナーーー)と思った瞬間。


 「『遮断』!」

 嗄れた声が響いたーー。

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