乙女の戦い

◇◇コウヤ目線◇◇


 シュミレーターを攻略したあとーーー。

 時の間に錬金術師と技師が入った。

 ガスマスクのゴーグルに熱源と匂いを映写できるように改良するためだ。

 改良に一週間はかかるらしい。その間、一日外の世界で過ごす休みをもらえた。

 作戦が始まる前に、隊員達とその家族が過ごせるように配慮したようだ。

 コウはオキナの情報が入ったと連絡が入り王宮へ。

 そして俺はーーー


◇◇ナナミ目線◇◇


 タッタッタッタッ!

 ハァ、ハァ、ハァ、ハァーーー。

 小走りで面会室へ向かう。


 コウヤ様が面会に来てくれた。

 昨日の手紙で『休みがもらえたから顔だすわーー』って書いてたから、そろそろかな? って思ってたけど、なんかドキドキしてしまう。


 「ようっ、どした? 息切らして。そんなに焦んなくても良かったんだぞ?!」

 面会室に入るとコウヤ様がいた。

 リョウも一緒だけどーーー。何故かステラが先に来ている。


 「ご機嫌よう。ナナミ。遅かったわね?!」

 フフフッて悪戯っぽく笑った。

 「コウヤ様が来るから、オシャレに時間がかかったのかしら?」と冷やかして来る。


 「ーーーそんな事ない!」

 もうッ、恥ずかしいじゃない?!

 ステラが悪戯っ子の笑顔で耳打ちした。

 「リョウ様は私が引き受けるわ。

 ナナミッ、いい? プランAよッ。頑張ってね」


 プランAーーーステラの考えた、コウヤ様攻略作戦だ。

 

 その一、お手紙と手作り料理(この前のレモン・パイね) 


 その二、写真と『大好き』アピール(香水の小技は私が考えたのだ)


 その三、コウヤ様とリョウを分離する。コウヤ様はリョウに遠慮するからステラが引き受ける。


 その四、軽く甘える攻撃。男気のある人に効果的! ーーーらしい。


 その五、癒やし攻撃。男のひとは何歳になっても母親の癒やしを求めている! ーーーらしい。

 『ヘルサイトの薔薇』の受け売りだから大丈夫なのか?!


 えーと、もうなんだか自分のこと嫌いになりそうだからここら辺にしておく。


 リョウから、コウヤ様の好みと性格を聞き出して『ヘルサイトの薔薇』に出てくるキャラにダブらせた結果がこのプランAなのだ。

 ーーー大丈夫なのだろうか?


 「ともかく行きましょ!」

 ステラが軽くウィンクして歩き出す。

 「おう! この前のお礼だ。店は予約してあるからゆっくりで良いぞ」

 コウヤ様がゆっくり歩き出した。

 なんだか照れ臭いので私はその後ろをついて行く。


 しばらく歩いていると、ステラとリョウが顔を見合わせた。

 ステラが「ねぇ......」って、リョウをつついている。


 「師匠っ、実はッスね。このあと自分とステラさんは、服を見に行くんスよ。食事は適当に食べますんでナナミと二人で行ってください」

 リョウが満面の笑顔だ。


 「ん?! そうなのか? もう予約入れちゃってるんだろ?」


 「申し訳ないっす。実は二人の分しか入れてないんス」

 どうやら、予約はリョウが担当したらしい。


 リョウがコウヤ様に耳打ちしてる。

 「......そこんとこ気をきかせてくださいよっ! いい大人なんだしーーーこの前ーーーバラしますよーーー」

 なんなんだろう? バラすって......?


 「そっかーーーなら仕方ないな? コレでなんか好きなもの食ってこいよ」

 コウヤ様はそう言って金貨を二枚渡した。

 結構な金額だ!

 四人家族で五日は生活できる!?

 

 「いいんですかーーー?」

 とか言いながら、ステラは私をチラッとみてウィンクした。事前にリョウと示し合わせていたみたい。

 ステラGJ!

 私はコウヤ様にバレないようにウィンクを返した。


 「なーんか、気を遣わせちまった様だな」

 ステラとリョウを見送ると、コウヤ様はのほほんと呟いて「じゃあ、行くか?」と歩きはじめた。

 ここからが、私の戦いだーーー。


◇◇◇


 食事を終えて、紅茶とデザートが運ばれてきた。

 「ーーー家族と離れて寂しくないか?」

 紅茶にちょっと口をつけると、コウヤ様が尋ねた。


 「寂しくないって言えばウソになるけど、友達もできたし大丈夫だよ」


 「そっかーーー。ここで一人前になっときゃ、何かあっても食っていけるからな」

 デザートのチーズケーキを突こうとして「食うか?」

って差し出して来る。


 「何かって、何?」


 「もしもの時の何かだよ」


 「もしもの時は守ってくれないの?」

 プランAその四、ちょっと甘えてみる攻撃!


 コウヤ様は苦笑いしながら

 「ああ、そうだなーーー」と言って口をつぐんだ。


 「コウヤ様は寂しくないの?」

 「なんで?」

 「ずっとお一人だし、私とも会えないじゃない?」

 ちょっぴりアピール!

 

 少し考えてコウヤ様が答えた。

 「そうだなーーー。寂しい時もたまにある」


 「どんな時?」


 「戦いが終わって、みんなが家族のところへ帰って行くときかな?」

 紅茶に砂糖を入れるか入れないか迷った挙句、元に戻しながら答えた。


 「そうなんだーーー。そんな時は私のところに帰って来れば良いよ。いっぱいかまってあげる」

 二ヘッと笑った。

 「辛かった事も、キツかった事も全部私が受け止めてあげる」

 テヘヘへーー。ちょっと照れ臭い。

 プランAその五、癒やし攻撃だ。

 

 「そうだなーーー。ひと山越えたら、そうさせてもらうかな?」

 コウヤ様は照れたようにヘッて笑う。

 

 そうそう! そうしなさい。

 あなたの帰って来る場所は私なのよ。


 「ともかく、今度の山はちょっとでかい山だ。コレを越えたらお前とも、ゆっくり話さないといけないな」


 「そうなの?ーーー危ない山なの?」

 「気にするな。魔王と比べりゃ大した事ない」

 「もしもって事ないよね?」

 心配になってきた。


 「簡単じゃないが、お前が心配する事はないよ。もうすぐ片付く」

 紅茶の残りをクイッてあおった。


 「危なくなったら逃げてきて。私が守ってあげる!」

 こんな時、なんて言えば良いんだろう?

 私は胸がドキドキして来た。


 コウヤ様はハハハッて笑った。

 「ああ、そん時は頼むわ。いつとは言えんがひと山越えて来る」

 それでも不安そうな私を見て

 「あっと言う間に片付けてくるわ」

 ーーーと言って笑った。


 「じゃあ、行ってくらぁ。学園まで送る」

 そう言ってコウヤ様は立ち上がった。


 「待ってっ、まだ私なんにもお返しできてないし、まだ何にもーーー」


 コウヤ様は右手で眉毛をコリコリかいて、やがてニヤッと笑った。


 「無事に帰ってくるって。心配してんのか? そうだ! お返しならアレが良いな。レモン・パイ。ありゃあ美味かった」

 ウンウンってうなずいてる。


 「え? そんなんで良いの?!」

 ああってうなずく。

 「最高だよーーおまえのレモン・パイ。

帰ったらいっしょに食おうぜ!」


 そう言ってコウヤ様はニパッと笑った。

 

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