出 陣 !

◇◇コウヤ目線◇◇


 ナナミと別れ、時の間の宿舎に戻って来た。


 「寂しくなったら私の所へ戻って来れば良いってか? ずいぶん大人になったもんだ」

 苦笑いしながら写真立てに写るナナミをチョンと小突く。


 ふと見ると、机の上に伝言が置いてある。

 コウからの伝言だ。

 『オキナが囚われている場所が特定できた。

 朝からブリーフィングをする。ハチ〇〇時に訓練所のミーティング室に集合の事』

 と書いてあった。


 「いよいよか......。とっとと山を越えなくちゃな」

 ふぅーーーと深く息を吐く。


 んーっと伸びをすると壁に貼ってあるカノン・ボリバルの写真に目をやる。


 「てめぇも待ってろ。もうすぐだ」

 パァンッと、写真を殴りつけた。


◇◇ミーティング室にて◇◇


 コン、コン!

 司令室のドアをノックする。

 「コウ大佐、コウヤ入ります!」

 ドアを開けるなりニヤっと笑う。


 (コウのヤツ、また心配で泣きそうになってるんじゃねぇの?)

 冷静なくせに泣き虫だ。

 心配になってちょっと様子を見に来たってワケだ。


 コウが少し緊張した顔を上げた。

 「今日は一番乗りだな。コウヤ、やっとーーー

やっと居場所がわかったよ。やっとだーーー」

 俺を見つけて、強張った笑顔を作った。


 「......不安なのか? なら、大丈夫だ。

 オキナは絶対生きている。それを救出するのはこの世界で最強の俺とおまえだ。助けてくれる仲間もいるーーー。だから不安な顔をするな、部下の前ではシャンとしてろ」


 「うん......。ウン。そうだなーーーそうだ! コウヤ、恩に着る!!」

 そう言って少し柔らかくなった笑顔を見せた。


 八時前に部隊のメンバーが集まってきた。

 点呼が始まる。

 「全員! 起立!! コウ大佐に敬礼!」

 

 コウが全員に敬礼を返すとブリーフィングが始まった。各自に資料が配られる。

 「早速だが、オキナの居場所が判明した。

 手元の資料を見てほしい」

 パラパラと目を通す。


 「抑留地点よくりゅうちてんはカナン森林地帯の奥地、ボリビアン集落。

戸数十二戸、住人は約五十名。いずれも非戦闘民だが、魔獣の生息地域でもあり、戦闘に手慣れている。よって危険と判断した場合、自衛の為の戦闘は許可する」

 二枚目に獣人の戦闘スペックが記載されている。


 結構ヤバイ。人族の軍人たちと変わらない。


 「三枚目の資料が工作員が撮影した写真だ。

 この十二戸のうち中央の砦からオキナの反応が確認された」

 魔眼を上空に飛ばし、俯瞰ふかんで見えるように集落全体を撮影した写真が添えられていた。


 中央の砦を囲むようにほぼ円形に家屋が配置され、外敵から襲撃された時に、中央の砦に逃げ込めるようになっている。

 中央の砦は外周を厚い土壁と外堀が掘られていた。


 「今回、魔法陣を発生させる座標は中央の砦、正門の真前まんまえだ。

 正門を閉じられる前に、敷地内に侵入する」

 ホワイトボードに映像を映写して魔法陣の位置をキュッ、キュッと印をつけた。


 「侵入したら王宮への逆侵入を防ぐ為、一旦魔法陣は閉じられる。

 そして一定の時間を経て脱出用の魔法陣を発生させる。発生箇所は集落の外、五十メートル先だ。発生する時間は約六十分」


 映写した映像にキューーッと脱出の経路を書き込み道の最後にキュッと魔法陣の位置を描いた。


 「事の成否に関わらず脱出用の魔法陣は閉じてしまう。つまり、この六十分で救出しなければ、我々は敵地に取り残される事になる。」

 コウは資料から目を上げ全員の顔を見る。


 「ここまで質問はないか?」


 サンガ中尉が手を上げる。

 「作戦の開始時間はーーー?」


 「深夜ヒト〇〇時に突入を開始する。闇に紛れて奇襲し一気にカタを付ける」

 コウが緊張した面持ちで答えた。


 「深夜の襲撃では視界は効かない。同士討ちの可能性が高いのでは?」


 「匂いと熱源で探知する魔道具を使用する。闇に紛れて侵入しても問題にならない筈だ。

 同士討ちは、ゴーグルが味方のマーカーに反応して表示するので問題ないと考えている」


 「了解しました! あと脱出の経路なんですが、道中は暗闇です。方位石を経路に配置していただければ助かります」

 サンガ中尉は敬礼して着席した。


 「了解した」

 コウがメモを取るようレモン情報官に告げ、続ける。


 「魔道具に慣れるのと深夜の襲撃に備え、あと三日、外の時間で半日弱、訓練を実施する予定だ」


 「編成は?」

 俺が一番気になる部分だ。

 互いに背を預け合うわけだから、中段を守るためにも正面と最奥はコウと俺が適任だと思う。


 「訓練同様、奇襲を正面と側面。それぞれ私とサンガ中尉が担当する。一番奥にコウヤとリョウくんだ。救出班はロン少尉が指揮してくれ」


 そしてーーーと続けた。

 「現場の指揮官はサンガ中尉とする。総指揮はコウヤに任せる。作戦全体の責任は私が持つ」

 (なーーー何を言ってる?!)

 俺はちょっとあわてた。


 「何言ってるんだ? コウ。お前が大将じゃなきゃおかしいだろ?」


 「私は当事者だ。冷静な判断ができない可能性がある。最悪の場合、撤退もあり得るーーーその時期を逃す恐れがあるからだ」


 「そんな事あるわけないだろ? 少なくともおまえが指揮した方が間違いない」


 そうだ。少なくとも俺の知ってるコウはいつでも冷静に対処して来た。


 「今回の訓練を振り返って出した結論だよ。

 コウヤーーー私だって人間だ。感情に駆られて、すべてぶち壊しにしてしまうかも知れない」


 そうなのか? 抑えているだけでそんなにキツイ状態だったのかーーー?!


 「了解した......」

 「ほかに質問はないな?」


 一同を見回すが、ほかの連中も納得しているようだ。


 「では、ブリーフィングは終了する。これより三十分後、魔道具を用いた訓練に入る。一同解散!」

 コウが宣言した。


◇◇三日後◇◇


 訓練を重ねるうちに、手ごたえを感じるようになっていった。一日二戦、合計六戦で訓練は終了した。


 いよいよ出陣だ。

 王宮にある魔法陣の展開された転移室内に全員移動する。

 魔法陣が展開されて、光の滝が逆さまに流れ落ちていた。


 そう言えば、初めて出陣したのもこの部屋だったなーーー。早いもんであれからもう二年になる。


 コウを見ると意外と穏やかな顔をしている。

 「コウヤ。みんなにげきをくれ」

 と微笑んで言った。

 

 (ガラじゃねぇんだがーーー)


 全員を整列させて口を開く。

 「いまさらごちゃごちゃ言う気はねぇがーーー」

 一人一人の目を見て語りかけた。


 「なぁーーー俺らはこの国の戦士だろ? 

 つれぇ目にあってるオキナを助けてやろうや。

 しんどいコウを助けてやってくれや。

 先の大戦ではコウとオキナが、命張ってこの国を守ってくれただろ? 

 今度は俺らが命張る番だぜ。相手はただの誘拐犯だ! 卑怯なクソ野郎どもをぶっ潰そうぜ!!」


 「「「オウッ!!」」」

 全員の声があたりに響き、光の滝の中の中に消えていった。

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