希望と暗雲

◇◇コウ目線◇◇


 「いくらなんでも敵役全滅って......」救出を終えて魔法陣への道すがらの話だ。

 ここにいるメンバーと同じく敵役も軍の精鋭部隊なはずだ。

 それを全滅ってーーー?!


 「サンガ中尉! 詳細を教えて」

 サンガは苦笑しながら報告を始めた。


 「私もあきれてしまうほどの戦果ですがーー」と前置きをする。


 「中でも驚いたと言うかあきれてしまっ

たのは終盤です。金属兵を含む六名をコウヤ殿がほふって敵役は全滅でした」


 「コウヤーーーお前そんなにーー?!」


 「だから言っただろ? お前と俺がそろったら俺たちは無敵だって」

 そう言ってコウヤはニパッと笑う。私のかたわらに立つと言葉を続けた。


 「あとオキナもそろったらって話なんだけどなーー」そう言って軽く肩をトンッと叩く。

 

 「俺たちには欠かせないヤツなんだって良く分かったよ。作戦一つでこうも結果が変わるんだからな」


 パンパカパーーン ♪


 魔法陣にたどり着くとファンファーレが鳴り響いた。思わず苦笑いする。

 「ふざけた演出だなぁ」

 レモン・ウォッカ情報官が満面の笑顔で出迎えてくれた。


 「ふふふッーーーおめでとうございます。コウ大佐。見事に救出成功です」


 「お疲れ様。怪我人は出てない?」

 「三人ほどーーー。序盤のコウ大佐の電撃で気を失っていますが、医務室で治療中です」

 あ!?ーーーやらかしたの私?!


 「訓練シールドで防御されてますので軽傷です。ご心配には及びません」

 ふふッと笑う。良かったぁ! 無意識に魔力を全開にしていたかと思った。


 カミン・デュース諜報官もニヤニヤ笑いで近づいてくる。

 「お疲れ様です」敬礼しながら小声で話しかけて来た。

 

 「まぁ序盤のコウ大佐と言い、コウヤ様と言いバケモーーーん、んん王国最強コンビと良く分かりました。このまま解析に入りますが一旦いったん休憩を挟んだ方が良いかとーー」


 「そうさせてもらうよ。整列させてこの後の告知を」レモン情報官を呼ぶ。

 「今日の訓練はこれで終わりにします。ミーティングが終わったら会館に食事を準備させて。一区切りのねぎらいをしたい」


 「了解しました!」敬礼すると駆け出して行く。


 ふぅって息を吐く。まだシュミレーターの一パターンがクリアできただけだ。

 だが一パターンは前に進んだ。こうやって一つずつ前に進んで行くんだ。

 失敗は許されないのだから。


◇◇コウヤ目線◇◇


 「いやぁッ! さすがに勇者ですね!!」

久しぶりの酒に酔ったのか顔を真っ赤にしてサンガ中尉が話しかけてきた。

 ミーティングの後の慰労会。最初は遠慮がちに遠巻きにしていた連中も寄って来た。


 「あれには驚きましたわーーーたどり着いたら誰も残っていないんですから」そう言って笑う。

 「そうかい? 気がついたらあんなだったって事なんだがな。俺も必死だったんだぜ」

 カカカカって俺も笑う。

 敵役だったシリュウも加わって来た。

 「守備役のシリュウです。ーーーと言っても瞬殺されたので覚えていらっしゃらないでしょうがーーー」


 チンッ! とグラスを合わせて来た。

 「我々としてはもう少し、金属兵にかかりっきりになると踏んでました」

 ガハハッと笑う。

 「まさか2合で金属兵をほふるなんてありえないでしょう?!」

 大きく目を見開く。

 「金属兵っていやぁーー先の大戦の時なんざ魔人十人を相手に活躍したもんだ。それをたった二合でって思わないでしょう?!」

 こちらも顔が真っ赤だ。


 「それを言うならこちらのーー」サンガに顎をしゃくる。「サンガ中尉の作戦通りって事さ。俺の事を見込んでくれてただろ?」

 ニヤリと笑う。

 「見込んでたなんて、とんでもない! まさか全滅させるなんてーーー」

 

 ふと気になった事があった。「誰かこの中に獣人部隊と一緒になった事があるヤツいるかい?」


 二、三人の手が上がる。

 「ちょっと話を聞かせてくんねぇかい?」こっちこっち!と手招きして呼び寄せる。


 「なぁ。今日までは『遮断』対策だ。俺はむしろ事前に『毒霧』を喰らう方が怖いと思ってる。『毒霧』ってどんな状態になるんだい?」グビリッとリュートを飲みながら聞いてみる。


 「先の大戦では味方でしたから印象でしかお話出来ないんですがーーー」同じ戦線にいたシンという上等兵が答えてくれた。


 「何しろ『毒霧』を撒いて置くと敵がまとまって攻めて来て明後日あさっての方向を攻撃し始めるんです」

 

 「幻覚を見ているような感じか?」

 気になる部分だ。


 「そうなんですが、『幻覚』だと誤認している感じじゃないですか? 方向感覚が麻痺したり、敵を味方と思ったり、その逆だったりーー。でも『毒霧』を撒いた後の敵は違う世界を見ているような感じなんです」

 上手く言えないんですけどーーーと顔を赤らめて口籠もる。


 「恥じる事は無いよ。印象で良いんだけど、具体的に喰らった敵の動きはどうなったんだい?」


 「十五、六名の小隊でしたが隊列を組んで粛々しゅくしゅくと押し寄せて


 「押し寄せてんじゃねぇのかい?」


 「そうなんです。押し寄せて行ったんです。我等が仕掛けた罠の方向に向かって、索敵や探知をしながらーーー」


 (おいおいっ! ーーー『正常』な状態で『誤認』させられて『誘導』されるってわけかい?!)


 話を聞いていた全員が押し黙った。

 ここにいる全員が軍の精鋭部隊だ。

 ギリギリを生き抜いて来た彼らだからこそ、ギリギリでミスを誘導される恐ろしさを知っていた。


 パンッと手を叩く音がした。

 「ハイッ、注目ーッ!」コウがにこやかに微笑んでいる。


 「解析が終わったよ。明日からは『毒霧』と『隠密』の異能が加わるパターンでシュミレーターを作ったからね! 全員気合いを入れて行こう!」


 全員の酔いが覚めて行った。シンとなった会場のせいで俺の呟く声が響いた。


 「......泣けるぜーーー」


 希望と暗雲が立ち込める予感と今日までの疲労がごちゃ混ぜになった呟きがあちこちで漏れた。


 「「「泣けるぜーーー」」」

 恐る恐る見たコウの顔が般若の顔に見えた

のは言うまでもない。

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