列車に乗ろうとしただけなのに

 呆然ぼうぜんと、立ちすくむ俺たちを残して列車は走り去って行った。


 チクショウッと足元の小石を蹴飛ばした。


◇◇コウヤSide◇◇


 「師匠ーーっ、どこまで歩けばイイすんか? もう丸一日歩いてヘトヘトっすよぉ」

 リョウがブー垂れている。

 「やかましいッ、これくらいで泣き言言うな。修行と思えっ、修行と」


 襲撃現場しゅうげきげんばの検証と聴取から解放され、迎えの列車が来たかと思ったら故障で立ち往生。

 次の駅までもう近いからって言われたから、歩いていくと襲撃された路線はしばらく運休と

来たもんだ。


 「再開はいつになるのかね?」

 ヒクつく頬を押さえながらたずねると、

「安全が確認できるまで列車の運行を差し控える様お達しが来ています。

 乗り継ぎ馬車をご用意していますので、そちらをご利用ください」と案内された。


 ーーー所まではまだ良いのだが、ソイツがまた故障で立ち往生。

 前世の日本なら訴えているぞ! 全く!!


 「どうなってやがるんだ!? 故障続きじゃ

ねぇか」

 泣きっ面に蜂だ。仕方なく次の駅まで歩く事にした。幸い魔獣が目撃されていない地域だったので、気楽に歩き出したが道に迷った。


 ーーーで冒頭に戻るってわけだ。


 「師匠を信じた俺がバカだった。なぁにが地図があるから大丈夫なんすか?」

 リョウがブー垂れている。

 通信石でサイカラに、地図を送って貰っていたが目印になる物が無いとわかりにくい。


 「やかましいっ、とっとと歩け。日が落ちる前に街まで着かねえと野宿だぞ」


 やがて日が落ちた。


 俺とリョウは暗い森の中にいる。

地図によれば、この森の先が目的の町キノクシの筈だ。


 「あー腹減ったぁ、師匠っ、腹減ったっす」

 次から次とこのガキわっ。

 辺りは真っ暗で、魔光石の照らす二、三メートル先しか視界が効かない。


 ギャー、ギャーッ。正体不明の鳴き声がする。魔獣か?  


 「ーーーヤバくないっすか? 師匠!」

 さっきまでの威勢はどうした? 辺りをキョロキョロ見回しながら、近づいてくる。


 「おまえヘタレっぷりも俺に似てきたな? ここまで来たら開き直るしかねぇだろ?」

 根性無しめ!


 「師匠にヘタレって言われたく無いっす。師匠の教えに素直なだけっすよ」

 懲りずにブツクサ言っているリョウをほっといて、索敵を展開する。

 

 チリチリと毛穴を刺す様な反応があった。

 どうやら敵がいるらしい。

 アオーーーウーーッ、ワウーーーウッ。

 遠吠えが聞こえる。ワイルドウルフだ。

 軽く十五、六は反応がある。しかもかなり、動きが早い。


 「どうやらワイルドウルフだ。囲まれてしまうとマズイ。このまま突っ切るぞ!」


 「お手当て弾んでくださいよ! 師匠と付き合っていたら命がいくつあっても足らないんすから!!」

 不満タラタラな割に不敵に笑っている。


「その割に楽しそうじゃねぇか?!」

 走り出しながら尋ねてみた。


「冒険は嫌いじゃないっすからね!」

 俺と並走しながらもう戦闘体勢だ。


 「おまえがヘタレってのは取り消す。とり会えずここを突破するぞ!」


 「了解!」


 ガサガサと藪を駆ける音がする。どうやら囲い込みに入ったらしい。


 構わず走り続けると目の前が急に開けた。幸い月明かりであたりが見渡せる。

一箇所だけ大きな岩の突き出た小高い丘が、目についた。


 「おいっ、あそこまで駆けるぞ」

そうリョウに告げると、リョウも同じ考えだったのかコクリと頷く。

 

 一気に駆け上がると岩を背に抜刀する。

 ウウウッーーーッ

 低い唸り声を上げながら、ワイルドウルフが姿を表した。一匹、二匹、三匹ーーー

 十五、六か?


 すぐに襲って来る事をせず、遠巻きに囲んで隙を伺っている様だ。

 嫌な連中だ。威嚇しながら弱るのを待ってて、確実に仕留めるつもりらしい。


 丘の周りにも索敵の反応がある。脱出するにも森に入れば方角がわからない。

 岩によじ登り周囲を窺う。森の向こうに、人家の明かりが見えた。


 パシュ!


 方位石を点火しそちらの方角に投げる。

 道標だ。これなら暗い森でも、方角だけは見失わない。同じ方角に二、三個投げた。


 「このまま俺たちが弱るのを、待つつもりらしい。方位石で方角の当たりをつけた。

 民家がある筈だ。俺が突っ込むから、俺の背を狙う奴を討ち取れ」

 リョウに告げると、方位石を投げた方角へ移動する。


 「行くぞ!」

 なぁぁぁ!

 変な雄叫びを上げながら、ワイルドウルフに突っ込む。一番手前の奴を斬り伏せる。

 二、三匹斬りつけるが動きが早い。サッと身を翻して襲って来る。


 ガウッガァ!

 振り回す剣を避けて、腕に噛み付いて来た。

 ガチッと、手首を返して牙を受け止める。

 奴が剣に噛み付いたまま、後ろに下がろうとするところを剣先を揺さぶって引き剥がす。


 間髪を入れず左手から飛びかかってくる。亀で受け止めて腹を切り裂いてやった。

 ギャン! 悲鳴と血の匂いがする。 


 フッ、フッ、フッ、フーーーッ。細かく息を吐きながら辺りを見渡す。


 リョウも一匹仕留めた様で、ピタリと俺について来る。方位石の反応から、方角はあっている様だ。 このまま駆け抜けるぞっ。


 囲い込みを抜けた。ここから先はリョウに先行させる。俺が殿しんがりとなって、リョウを先に逃す。


 「先に行けッ、ここは俺が食い止める。方位石の誘導する先に民家がある! 走れ!!」

 俺はワイルドウルフの群れに向き直った。

 ちょっと危険だがやむを得まい。


 俺は左手の亀からシールドを展開した。

 「あんまり得意じゃないんだがーーー『ファイア・ボール』!」

 俺の下手くそな魔法が炸裂する。


 バレーボール大のファイア・ボールが出現した!ーーーんだが、地味ーに地を這っている。

  

 キョトンとするワイルドウルフ達。


 ん? 

 もっと凄い事になると思ったんだがーーー。

 

 もうこうなりゃヤケクソだ!

 「なぁぁぁ!!」

 一斉に襲いかかるワイルドウルフを、滅多やたらと切り倒して行った。


 ーーーもうどれくらい経ったのだろう?

 やがて遠くから人の声と松明たいまつの明かりが見えてきた。どうやら、先に行かせたリョウが

助けを呼んでくれたらしい。


 ワォーーーン!


 遠吠えが聞こえるとワイルドウルフ達は、霞のように四散して闇に消えた。


 や、やっと街に行ける。

 列車に乗るのも楽じゃない。


◇◇


 「ーーーってわけだ」

 俺は話し終えると、ズズッと茶をすすった。


 「そうかーーー大変だったんだな」コウが目の前にいた。

 ナナミに会う前にコウを尋ねていた。オキナの事が気掛かりだったからだ。


 「オキナは生きているんだな?」


 「ああ。マーカーの反応を確認したそうだ。

コウヤ、すまんーー手を貸してくれないか?」

 いつもと逆の状況に戸惑う。コウの顔が心労の為かひどくやつれている。


 「当たり前だ。この前の借りもあるしな。心配するなってっ。俺とおまえが揃えば無敵だ」

 少しでも元気づけてやりたかった。


 俺の馬鹿噺ばかばなしでいつもの呆れ笑いを期待したんだが全く効果無しだ。


 不安で仕方ないって顔だ。

 コウのこんな顔を見る為にここに来たんじゃない。


 「さあっ。役者は揃ったぜ。おっ始めよう!」

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