追い詰められて

 あれは今から三日前だ


◇◇


 「却下ですね」


 サイカラの冷たい目線が刺さる。

 「真面目に考えたのですか? コウヤ様」

 俺は追い詰められていた。


 議事堂の隣に領主館がある。俺の居住地だ。

 築百年の石造りで前世でいえば古びた図書館といった感じ。その一画ミズイの執務室。


 宰相で引き抜いたサイカラに、俺は追い詰められていた。

「コウヤ様。夢物語でも見たのですか?」

「やっぱそうなる?」


 はぁーっ。

 サイカラの言葉に項垂うなだれた。


 『財政・軍編成・景気対策』俺の領地ミズイの三大懸案だ。徹夜で仕上げた三百ページ に及ぶ議案書をバッサリ切られた。

 なんでコイツは俺にそこまで厳しいんだ?


 「企業誘致? 今まで出来てない事を?

 またやろうと? いつまで? どこの企業を?  誰が担当して? どうやって? それにかかる予算は?」


 胃が痛いし!


 「そこは領主様。具体的でないとーー」

 サイカラの情け容赦ない口撃が、俺のメンタルを削ってゆく。


 「わかったっ、わかったって。俺がボンクラなのは自覚してます...... 。

 で、サイカラさんよ。なんか良い知恵あんだろ?」


 ふっ‥‥‥。

 銀斑のメガネが光る!


 「三つも課題抱えている原因がよく分かりました。原因は、あ・な・た・です。少しは自分で考えてください」


 考えた挙句が、さっきのバッサリだよ!


 「なぁ! 頼むって! サイカラ先生」

 サイカラはむーって唸ってる。

 「甘やかして良いものかどうか......? 」


 だからなんで?

 おまえは俺にそんなに厳しいの?


 「ダンジョンの観光化。キーワードはそれです。ここミズイで一番多い物は?」


 「魔窟ダンジョンだろ? でも魔獣は出るわ、下手すりゃあ魔人は出てくるわ『生きて帰れる保証は致しません』なんて、観光になるわけ無いだろ」


 「それをアトラクションに変える手段を、我々は持っていますよね?」


 はぁん?

 んなもんあるわけねぇじゃん!


 「魔眼と金属兵‥‥‥」


 なんだ?

 そのチョピリヒント、見たいなのわっ!


 「我々の軍備に、金属兵を導入しましたね」

 「はい......」思わず目を逸らす。


 金属兵とは体長三メートルの自立型戦闘ロボットだ。マオ討伐の後、火力のショボさをカバーするため十五億インで購入した。


 「マオ討伐のあと魔眼も導入しましたよね」

「......」


 魔眼とは、自在に視点を動かして見る事の出来る魔道具だ。カメラ付きのドローンと思えば良い。五億インもしたのだがほとんど使って無い。はっきり言って税金のムダ遣いだった。


 「今使ってますか? 」

 「時々......かな⁉︎ 」


 「稼働率三パーセントです。二十億インかけて。ムダ遣いでした」


 ごめんなさいッ、だってあの後も紛争あったんだものッ、ヘナチョコ軍備しかなかったしっ、必要になるって思ったんだものぉ。


 「それを有効に使いましょうって事です。金属兵は見た映像を転送出来ますよね?」


 ん? そなの?


 「その映像を、魔眼で観せたら魔窟ダンジョン冒険のアトラクションになりませんか? 観光の目玉になりませんか?」


 ‥‥‥前世のVRMMOか!?


 「更にダンジョンと言えば冒険者。こちらには、褒賞金を積んで魔石を採掘してもらいます。その売却益を国庫の補填に。もう一つ。希望者は、軍の兵士に登用し兵士の補完をするってどうです?」


 軍の兵士不足と、魔石の売却益で財政も一挙解決? そして観光のインバウンドで、景気の浮揚を図るってか?!


 「サイカラ......おまえ天才だな」

 徹夜明けで変にテンションが上がって抱きついてしまう。


 大好き!


 「コウヤ様おやめくださいッ、コウヤ様ってばっ」


 「お茶です。少し休憩なさっては———」カチャッとドアが開いた。


 サラだ。


 引き継ぎ、メイド兼ボディガードとして雇っていた。手にしたティーセットをガチャンッ、と落としやがった。


 おまえ、そのティーセット高いんだぞッ!


 「.....コウヤ様ーーーそちら側だったのでか?」


 違う、断じて違うっ。まて、ば、馬鹿ッ。ドン引きするな!


 「良いのです。私もBL嫌いじゃありませんから。愛は自由でーーーそして背徳こそ燃え上がる」


 違うッ、その生暖かい目をやめてーー!


◇◇


 サイカラが冷たい目線で告げた。

 「何事も現場です。今から魔窟ダンジョン

調査に向かってください。適当に魔人が魔獣が出たらラッキー。アトラクションになるか判断してください」


 え?

 今から?


 「......って俺が、危ないだろうがよッ!」


 「ほほう? どなたかアテがおありで?」


 むむっ! 泣きたいッ、泣きたいくらいの人材不足ひとでぶそく


 「はぁ......せめて、リョウは連れて行って良い?」


 「ご随意に」


 まぁ、なんて冷たい目線でしょう!?

 のんびりスローライフの予定が、もはやブラック商会が可愛いく見える!!


 いやぁぁぁぁぁぁぁ!

 俺は絶叫した!


次回 誘 拐

一方! ラブラブのコウはおもわぬ事件に?!

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