急 襲!

 ◇◇コウヤ目線◇◇


 「のぉぉぉっ!」

 左から空気を切り裂き、ギラリと光る刃が俺の頭上を通り過ぎて行った。


 「何やってるんすか!? 師匠!」右から押し寄せる槍衾やりぶすまを、弾き返しながらクソ生意気に叫んでいるのはリョウだ。


 「やかましいっ」

 腹立ち紛れに、左から来た黒装束のニンジャ野郎を斬り倒した。


 背中にゾクリとした気配を感じ、しゃがみ込みながら体を反転する。


 「シッ!」 突き出された剣を躱し、そのまま剣を突き出す。

 「ぐわッ」真っ赤な口を開け、賊は倒れ込んだ。俺のミスリルの剣が敵の下腹を貫いていた。


 右目の端に影が映る。突き刺した剣を引き抜く暇はない。体当たりの要領で、突き刺した剣ごと前に飛んだ。突き刺した野郎と転がって、右から突き出された槍をやり過ごす。


 「だぁ!」


 左足で敵の胸板を踏みつけ、剣を引き抜きながら反転すると槍使いを睨みつける。


 「てめぇらッ何もんだ!? 俺を領主と知って襲ってきたかッ?!」

 もちろん返事など期待していない。問われて思考する僅かな隙が欲しかった。

 それほどコイツの槍は鋭く、相当な手練れだ。


 (ここまで来ると暗殺部隊か?)


 「あいをけっとは思わんかったな」

 癖のある訛りだ。南部の出か?


 槍使いはニヤリと笑い、槍をしごくと腰を落とした。薄暗い森の中だ。ヤツの白い歯が浮かび、黒い闘気が燃え上がった。


 ガサリッ


 落ち葉を踏みしめる音がした。

 (来るッ)


 槍先の白い先端が光り、突き出された。俺は左手の亀で軌道を僅かにずらし、槍の引き際に飛び込む。


 「シッ!」短い気合いと共に突き出したミスリルの剣が空を切った。俺が詰めた分だけ飛び退いた様だ。


 そうかい? ならばッ!


 腰を沈める。つま先を地面にめり込ませ、前屈みになる。


 ズドンッ、と旋風をまとって奴が飛び退くより早く接近し、その勢いのままに右袈裟に斬りつけた。


 「のをッ!」


 ヤツも槍の柄を盾に剣を受けるが、加速した体当たり同然の剣筋を受け切れる筈もない。

 剣先が首筋に食い込む。


 ギリッ! と歯を食いしばり、盾にした槍の柄で押し返して来る。

 頑丈なヤロウだ!


 腰をジリジリと落とし足腰の力を溜めて、不意に剣を引く。押し返そうと力を込めた所をかされて、槍を持ったままバンザイになったのヤツを

 「フンッ」と貫いてやった。

 左足で蹴倒して、剣を引き抜きそのまま首筋に突き立てる。


 辺りを素早く見渡すと、リョウが囲まれていた。

「リョウ!」声をかける。

 ケガをしている様だがまだ戦える様だ。こちらをチラリと見るが、また正面の敵に視線を戻す。自力で突破するつもりらしい。

 リョウを中心にできた輪が広がる。


 矢のように飛び込んできた敵をバックラーでいなし、右袈裟に振りかぶる。

 「ん?」ーーーと見せかけてスネを払った。

 黒装束の敵は不意打ちをくらい、ドウッと倒れた。


 (上手くなったなぁーーー)

 振りかぶった際敵が上体をそらし、足元から注意が逸れたのを見逃さなかった。


 (ん? リョウ、後ろッ)


 「シッ!」細かい息を吐くと、背後から襲い掛かろうとしていた黒装束に斬りつける。

 「んぐっ!」とくぐもった悲鳴をあげると、体を退け反らせて倒れ込んだ。


 「攻撃の後がガラ空きだぞ!」


 「フン、見えてましたよ!」


 相変わらずクソ生意気なヤロウだ。だが頼もしくもある。


 左手を翳す。あたりにシールドを展開......するつもりが、全く発生しない。

 (どうなってる?)


 考えても仕方ない。トラブルはつきものだ。

 「存分にやり合おうか!」


 「ご老体にはキツく無いっすか?」


 「リョウッ、調子に乗んな」


 「うへぇ、怖いっ、怖い」


 ニヤニヤ笑いながら斬り込んでいった。

 ふぅ......フッ、フッ、細かく息を吐き、スゥーーーッと鼻から息を吸う。


 途端に左手の黒装束が、斬り込んできた。 

 (掛かりやがったっ)


 剣の強いやつほど呼吸を読む。息を吸い込む瞬間を狙って来る。俺のいたワナだ。


 ガン! と左手の亀で斬撃を擦り上げ、溝打ちを突く。


 「ガァ!」絞り出す様な悲鳴をあげて、崩れ落ちた。そのまま右手のヤツに背を晒し誘う。


 「フンッ!」気合いと共に、ガサッと木の葉を踏み潰した音がした。


 (案の定、乗ってきたっ)


 斬りつけて来た刀を、振り向きざま叩き落とし下から首を刎ね飛ばす。


 「フッ、フッ!」


 細かく息を吐きながら、次の獲物を狙う。小さく体を縮めたヤツが、体ごと突撃して来た。

 ガガガッっと亀で受け止めて、軌道を逸す。


 (ーーーん?)

 その刹那、別の黒装束が飛び上がり上空から斬り

つけてきた。後ろ足を軸にクルリと反転しかわす。

 着地と同時に左袈裟に斬り伏せた。


 「......ッ?!」


 敵に動揺が広がる。

 (たった二人と舐めていたのだろう? さぁどうする?)


 ピューーッ!


 短く指笛を吹き賊たちは散っていった。ガサガサ音を立ててリョウが戻ってくる。

 「逃して良かったんすか?」不満気にブツクサ言ってやがる。


 「バァカ、本気で追い詰めたらケガじゃ済まんぞ。死に損ないが一番怖いんだ」


「そんなもんスかね?」


 (ーーーん?)

 リョウが足から血を流していた。俺は黙って、ポーションストッカーから赤ポーションを取り出して振りかけた。白い晒しで巻いてやる。


 「しばらく大人しくしてろ」


◇◇

 俺たちは魔窟ダンジョンの調査に来ていた。

 あと三十分も歩けば魔窟ダンジョンに到着するってところで襲われた。


 黒装束の頭巾を剥がす。


 (ほほう?)


 中から現れたのは狼顔の獣人だった。

 (先の魔王討伐でも、魔人相手に奮戦したと聞いていたがーーー?!)


 味方じゃ無いのか? なぜ俺たちを狙った?!

 取り敢えず他の手がかりを探す。


 チャリン......!

 首からドッグタグのチェーンが出てくる。

 引きちぎりポッケに入れると、リョウに向き直る。


 「金臭くなりやがった。調査は打ち切る。魔眼を森の周り二キロ各所設置して、暫く観察する。再開は、安全確認後だ。戻るぞ」


 「いいんすか? このまま帰ってもーーサイカラ宰相怖いっすよ?」


 うっ! むむむ......。


 「......アイツ俺には厳しいもんなぁ」俺は遠い目になった。


 「なんでだろうなぁ......」


 あれは今から三日前の話だ。


次回 追い詰められて

俺は絶叫した!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る