第62話 し な ず

 「寄越せぇぇー! おまえのからだぁぁ」

 髪の毛を逆立てて襲いかかってきた。


 俺は全身に鳥肌が立った。


◇◇


 横突飛びに転がる。

 バクン!

 歯と歯を、噛み合わせる頭蓋の嫌な音がした。

 食いちぎるつもりらしい。

 俺は海亀を前にかざし、左構えで腰を落とす。

 ヤツーーーキシボシンだったか?

 キシボシン自体の攻撃能力は、そこまで高くなさそうだ。

 問題はあの脱力系の黒い霧だ。

 あれを吐き出す前に仕留める!

 狙いは次の攻撃をかわしたあと。

 顎の継ぎ目。

 こめかみを、ミスリルの剣でブチ抜いてやる。


 キシボシンは、空中でクルリと反転すること襲いかかってきた。

 カパッ! と大きく口を開けると突っ込んでくる。


 「んッ!」


 今度は転がらず低い体勢のまま、横っ飛びに飛ぶ。

 着地と同時に足を踏ん張る。

 爪先、足首、膝で急ストップした負荷を受け止め

反転する。

 大臀筋だいでんきんが膨れ上がり、足からの力を腰の回転に乗せた。


 「んんッ!」


 高速で振り返ると、まだ的はそこにあった。


 「んんんんっ! つあああっ」


 的はかなり上。

 だが、こちらに食いつきにかかる分こめかみの位置は下がる。


 「だぁっ!」


 地を蹴り飛び上がるように、ミスリルの剣を鍔元まで突き立てた。


 「ぎゃあァァァァァァーッ!」


 振り払おうと暴れるが、鍔元まで刺さった剣は簡単に抜けない。


 もう一発!

 「んんッ!」

 俺は片足でキシボシンを蹴り、剣を引き抜く。


 「ぎゃあァァァァァァーッ!」

 口から黒い霧を撒き散らし始めた。


 しくじった!


 「コウヤ! 退け。仕留める!!」

 コウが叫んでいる!


 「集え。集え。大気と火の盟友よ。

 ふるえ。ふるえ。大地の核よ。

 イカズチをまといて核となせ。

 この核は対となりて真! この真は絶!!

 この絶は大気と火を纏いて恒星となす!」

 発動!【フレイム・コア】」


 カッ! シュ‥‥‥、シュゴォォォーッ!!


 シールドで囲まれた球体の中で、白い炎が踊り狂った。

 引火するように、次々と炎が吹き荒れる。


 ブゥワン‼︎


 密閉された空間に、灼熱の光の球体が出現した。


 シューッ、シューッ!

 残る熱気に顔をしかめて伺い見る。

 焦げる匂いと、跡形もなくなった一帯だけが残った。


 つ‥‥‥とコウがよろめく。

 「コウ。大丈夫か‥‥?」

 ヨロヨロと駆け寄る。

 無尽蔵に魔力が供給されていた魔王戦と違い、今回は自前の魔力だけで倒さねばならなかった。


「心配するな。大した事は無い」


 コウは軽く微笑んで、手で制するが大した事ないはずがない。

 空っぽになった魔力のせいで、酷い貧血のような症状としばらく頭痛に悩まされる事になる。


 「リョウ、ナナミ! 索敵してくれ。

 まだ残党がいるかもしれん。変わった事があったらすぐ呼んでくれ。悪いが‥‥‥

 少し休む」

 俺はポーション・ストッカーから、回復ポーションを取り出してコウに放る。

 コウは空中で受け取ると口に煽った。


 魔力まで戻るわけではないが、少しはマシになるはずだ。


◇◇リョウside◇◇


 相変わらずバケモンだなうちの師匠。

 綺麗なお友達もバケモンだ。

 オレ良くあんな人に喧嘩売ったよな。

 絶対目を合わせないようにしよう。

 索敵サーチをかけながら、オレは二人から距離を取って行く。


 コロン。チャリン。


 金属音と足に何か当たった気がして、背をかがめる。


 なんだ?


 見ると、ソテツの種のような塊りがついたペンダントが転がっていた。


 手に取ってみる。綺麗な石だといいな。

 ナナミにプレゼントしよう!


 だがそれは綺麗とは程遠い、ミイラ化した生首がぶら下がっていた。

 こ、これ!

これってさっきお姉さんが倒した‥‥‥!


 ガサガサのソイツが、ニタリと笑った。

 「ぼぉぇぇぇーーっ!」

 薄気味悪い声を発すると、黒い霧を吐き出した!

 オレは煙が逆流する様に、ソイツの口に吸い込まれてしまった。


◇◇ナナミside◇◇


 「ぼぉぇぇぇーーっ」

 気味の悪い声がした。

 見るとリョウが、黒い霧に巻かれている!

 「リョウ! 逃げろ!!

 おまえまでバケモンにされちまうゾッ!

 リョウ、リョウー!」


 黒い霧が収まると、大きな首が現れた。

「捕まえたぁァァ!これであと体の分だけぇ、取り込んだらァァ! 復活するぅ!」


 「りょほほほほぉう!」


 バケモノは辺りを見渡す。


 半開きの据わった目と、私の目があった。


(負けるもんか! 私だってなんか出来るに決まってる!)


 バケモノがパックリと口を開けた。

 口の中は真っ暗な闇が渦巻いていた。

 「ファイヤ・ボール!」

 私は詠唱を叫ぶと、中空にバスケットボール大の熱球が現れた。


 バケモノが飛んでくる!

 私はファイヤ・ボールを上空に打ち上げた。


 (みんな! これに気付け!!)


◇◇コウヤside◇◇


 上空に光の玉が打ち上がった!

 何かあったのか?

 あちらはリョウとナナミが行った方向だ!

 魔力切れで、ふらつく頭と力の入らない体にムチ打って駆け出す。

 「嘘だろ?! さっき焼き尽くされたはずだ!

 ウソだろぉ! クソッ!」


 目の前には、さっき倒したはずのバケモノが中空にうかんでいた。


 ヤバイ! 全滅だけは避けねば!


 息切れが酷い!

 頭痛はガンガン音を立てて、俺の意識を刈り取ろうとする。


 足を取られ、よろめいた。

 (く、クッソ!)


 ソイツの口が目の前の視界全部を覆う!

 (ち、ちくしょう!)


 そう思った刹那、バケモノが弾けとんだ。

 はるか後方から、特大の光のライトニングが直撃していた。


 地響きがした。


 ギギィーー! プシーッ‼︎

 トレーラーが停止する様な音を立てて、ヤツは俺の前に立ち塞がった!


 ハンとコビンに頼んでいた伝言が、やっと届いたようだ。


 「ずいぶん早かったな!」


 「危機一髪の登場。ヒーロー見参! ってか?」

 サイカラがニヤリと笑って出てきた。


 バスンッ! バンッ!


 金属兵が、キシボシンを思い切り殴りとばした。


次回 か ら く り

俺は親指を上げるとニヤリと笑う!

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