第38話 し ん ぱ い

 から〜ん♪ から〜ん♪

 ストライーーク! ストライーーク!

 ド・ストライーーーーク‼︎

 ノック アウト‼︎


 「ナナミの母キタエ・ムラド・ルイです」

 キタエを見てポーっとしていた俺はナナミに

小突かれた。

 「母上に見惚れてるんじゃねぇよ!」


 「いや、んん!! 礼には及ばない。

 たまたま俺も巻き込まれた口だ。

 俺はコウヤ。んでこっちはサラ。

 早速なんで悪いがここの部族長にも挨拶したい。

 今日の宿を借りる礼を言いたいんだ。」

 そう告げるとキタエは悲しげに首を振った。


 「部族長カイ・アヒデ・ルイは今魔窟ダンジョン

に入っております。

 ーーー私の夫です。

 留守を任されてますので許可を出しました。」

 少し息を整え

 「ナナミお二人をゲルに案内してあげて」

そう言ってゲルの中に戻って行った。


 んー。なーんかーーー?


 「なんだか元気ないな。おまえの母ちゃん。

 父ちゃんいつから魔窟ダンジョンに入ってんだ?」


 ナナミの目に不安が陰っている。

 「父上、んん! カイ様なら大丈夫だ!!

 誰よりも強いからな! おまえが心配する事ではない!」

 不安を断ち切るようにキッパリ言い放つ。


 あんまり大丈夫じゃ無さそうだなぁ?!

 「なぁ、良ければ詳しく教えてくんねぇか?

 ひょっとしたら力になれるかもだぞ?

 こう見えて軍部にも顔利くし。知り合いもいるから大丈夫だぞ?!」


 不安げなナナミに、そして何か起こりかけているこの集落に。

 面倒だからと知らんぷりはできねーや。


 「軍部はキライだ! あんだけ父上が危険だと調査をお願いしたのに!!」

 ナナミは俺をにらみながら吠えた。


 「金にならないから来ないんだ!

 この魔窟ダンジョンは魔石が取れないからだなんて!!」


 魔石はこの世界では高く売れる。

 ゴシマカスのエネルギー源だ。

 俺の前世の石油と思えば良い。

 なんだがーーー


 なんだ?

 そんな事あるの?


 魔石を生まない魔窟ダンジョンってあるの?


 魔素が染み込んで魔石ができる。

 魔石から魔素が放射されてまた魔石ができる。


 やがて凝縮され魔窟ダンジョンになり深層部は魔素の濃度が上がり続け空間すら干渉し魔界と繋がる魔口となる。


 これを人口的な術式で発生させ空間移動に利用するのが魔法陣だ。


 魔口からは魔素が溢れ続けやがて魔獣や魔人の侵入し始める。


 だから魔窟ダンジョンで魔石が取れないわけが無いし。

 意味がわからん。


 「もう十名もやられてるんだ! みんな良い

ヤツだった!

 連れ去られて魔人に変わった。

 変えられたんだ!

 なんらかの方法で!

 だから父上はその謎を解き明かし魔人化を食い止めるために魔窟ダンジョンに潜った。

 父上は強いんだ! きっと戻ってくるんだ!」


 ナナミは唇を噛みしめ俺を睨みつけた。

 握り締めた拳はワナワナと震えている。

 ぶつけようの無い怒りが吹き出していた。


 「おまえなんか! おまえなんか!

 ケチョンケチョンにするくらい父上は強いんだ! だからもうすぐ戻るんだ!」


 見開いた瞳からポロポロ涙が溢れて。

 声もかすれて。


 そっか......。

 心配でしかたなかったんだな。

 本当は潰れそうなくらい不安だったんだ。

 部族長の娘としてずっと我慢してたんだ。


 いい子だ。

 本当にいい子だ。


 俺は思わずナナミを抱きしめていた。

 「すまねぇ! 悪かったよ。俺がなんとかしてやっから!明日にでもおまえの父ちゃん探しに行って

 やるから。泣くんじゃねぇ!

 大丈夫だよ。大丈夫だ。

 おまえの父ちゃん強いんだろ?

 きっと大丈夫だよ。きっと俺が連れて戻るから泣くな!」


 突然の抱擁にナナミはビクッと固まったが

堰を切ったように泣いた。


 「おまえなんか、おまえ、ウック!

 お父ちゃん! お父ちゃん!!」


 「おりこうさん。良い子だ。

 おりこうさん。良い子だ。良い子は泣いちゃ

いけないぞ。おりこうさん......」


 ぽんぽん。ぽんぽん。


 まるで幼児をあやす様に俺は優しく背を

叩いてやった。


 ウック! ウック‥‥..

 やがて落ち着いたのか静かになった。


 「離れろ! ズズッ、どさくさに紛れて。

離せ! バカ!」


 鼻水を啜りながらナナミは俺を引き剥がす。


 「大丈夫か?」

 黙ってコクン とうなずく。


 「よし! もぉう大丈夫だ! 大船に乗っかったと思え。これからアレコレ手を打つ!」


 俺は走り出した!

 よし! 決まった!! 絶対助け出してやる!

 俺が助けてやるんだ!


 「コウヤ?」

 「コウヤ様?」


 「どこに行くんだ? おーい! コウヤー!!」

 「暗くなってきましたよー! 危ないですからー! どこ行くんですかぁー?」


 ナナミとサラの声が後ろから聞こえる。


 あれ? どこだ?

 どこ行くつもり? 俺?


 黄昏に包まれる草原のなか俺を見つめる別の人影があった。

 その瞳は殺意に満ちて怒りのオーラに包まれていた。


次回 で し

俺は思わず口走る!

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