第26話 砂漠のゲキセン!
砂漠の世界だ。薄明かりの中視界に広がるのは一面の砂、砂、そして静寂。敵の罠にまんまと嵌められた。
このまま放置し続ければ、敵は易々とゴシマカスを侵略できるわけだ。
二時間ほど前に遡る。
静止衛星『魔眼』が第三四天王アンモスの所在座標を突き止めた。
毎回のことだが静止衛星『魔眼』の精度には恐れ入る。この静止衛星があればこそ、ゴシマカス王国は強気に出れた。
静止衛星を攻撃できる長距離魔法は存在しない。他国はいつも見ているぞと、脅されているようなものだ。
だが魔王軍は逆に、転送元を割り出し拠点をことごとく葬って来た。
相手が悪かったとしか言えない。
そこでコウヤとコウに命運を託したゴシマカスは、ダミーを含め五箇所から転送し急襲することにしたのだ。
「コウヤ! 速攻で決めるぞ」コウが檄を飛ばす。
「わかりやすいねーーーコウちゃん」
コウが勝負を急ぐのもわかる。
こんどの第三将軍アンモスに関しては、事前情報がまるでないのだ。
ただ挑んだ者全てが消息不明。
こうなると奇襲攻撃を仕掛けて倒すか、魔眼の観察結果から推測するしかない。
戦況により即時撤退も作戦に入っていた。だが敵が転送元を突き止める前に、仕留めないとまた拠点が潰される。コウは焦っていた。
転送による視界の歪みが晴れた時、そこには第三将軍アンモスは確かにいた。
「いらっしゃい.....」
『やばいっ、待ち伏せだ! 罠の中に飛びこんじまったッ』
そう思った時には、この砂の世界に飛ばされていた。そして、二時間後今に至るってわけだ。
「お腹減ったね。コウ」
「さっきから十回は聞いてる。弱音を吐くなっ、男だろうが」
「男だってお腹減るんですぅーーー」
「おまえ......。ここは魔素がない、魔法が使えないんだ。魔力供給も外から遮断され、無力化した。ちょっとは事態の深刻さを考えろ!」
「敵もいないのに魔法必要?」
「いたらどうすんだって! 黙っててくれーーーバカが移る」
「はいッ、頂きました。バカが移るーって俺のことかいッ?!」
せっかくボケてやったのに、コウはジロリと睨んだきりもう口も聞いてやるもんか!と黙っている。
「なぁーーーコウ!」
「なんだ?!」
「ほれ」
保存食の干し肉を差し出してきた。
「カリカリしても始まんないの。小腹満たして出口探そ」
「どっから持ってきたんだ? 支給物資には無かった筈だぞ」
「んーー? こっちのかぁちゃんが持たせてくれた。腹が減ったら食えってさ」
グゥーッと腹の虫が鳴る。そう言えば腹も減っていた。コウは「焦っても仕方ないか……」とコウヤから貰った干し肉を口にした。疲れた体に干し肉の塩味が染みた。
「ありがと‥‥‥」
コウヤはフラフラと手を振り、明かりの差す方へ歩いて行った。
「なぁ‥‥‥コウ」
「なんだ」
「誰かいるぜ‥‥‥!」
砂ばかりの風景の中に人影があった。敵か? それともダミーの別の兵士か? 戦闘態勢を整えて近づく。
「そこにいるのはわかっているっ。武器を捨てて両手を上げて出てこいッ。三秒で攻撃する! 三、二、.......」
コウが声をかけた。
「虚しいーーー全てが虚しい」地の底から響くような声だ。
「やばいっ、敵だ、アンモスだッ」コウヤは叫ぶとコウを庇う様に前に出て、後手で下がれッと手で合図をした。
「この世は全て空虚だ。虚ろだよ」
「何がだよッ、意味不明な事言ってんじゃねぇよ」言い返しつつ、素早く手槍を背から外し低く身構える。コウもハンドソードを引き抜いた。
「無意味だ‥‥‥。魔力も封じたよ。か弱い人間が我に叶うとでも?」
「やってみなきゃわかんねーだろがっ」
コウヤが低く吠える。
「コウッ、ここは任せろ。下がってくれ」
魔力が使えない魔導師などただの人だ。口惜しいがコウヤに任せるしかない。
「頼んだーーー」コウは悔しそうに唇を噛んで、近くの物陰へと移動した。
アンモスが近づいてきた。
「わかり切ったことなのに何故抵抗する?
さぁ、魔王オモダルさまに降伏せよ。命ばかりは助けてあげよう」
「それはありがたい話だな?! で? なぜ一思いにやらない?」
「生も死も虚しいだけだ‥‥‥。生きることには何の意味もない‥‥‥ならば死も同じ。
大人しく従えーーーやがて我らが魔王オモダル様が迎えに来てくれる‥‥‥」
「御託が多いなーーー。ひょっとしておまえも魔力が使えなくて困っているんじゃないのか?」
「‥‥‥」
「えっ? あたり?」
「虚しい‥‥‥」
「え?! あたりなの?! 第三将軍じゃないの? おまえ笑えるんですけど?!」
「うるさいんだよッ、おまえわッ! おまえらを飛ばすのに魔法陣デカくしすぎたんだよッ!
俺まで落ちちゃったじゃんか。そらそーだろ?! ひょっとして飛ばし損ねた日にゃ、燃やす気だったんだろ?
特に後ろの女ッ! 四天王燃やしてんじゃねーよ。おいブサイクッッ、おまえだってギャオの頭吹っ飛ばしてただろ! あぶねーって思うだろ?!」
急にまくし立てるアンモスに、コウヤもコウも困った顔しか出来ない。
「おかげで俺まで戻れないじゃんか! 今までは良かったよ。普通の兵士だもの。怖くないもの。
普通に砂漠へ転送でさっ、さあーってなモンよ。
でもおまえッ、おまえはねーわ! 燃やすものッ。俺、砂の魔人よ?! 燃えちゃったらガラス質のピカピカになっちゃうじゃん。あぶねーって!」
「で? どうやって戻るつもりだ?」
「戻れるわけねーじゃん。一応ココ俺の世界だから、俺死んだら戻るかもしんねーけどさ。俺が俺を倒せるわけないでしょ? そら自殺になっちゃうじゃん。自殺したら戻っても死んでんじゃんッ!
バッカじゃないのおまえら?!」
「き・ほ・ん・の・突きーーっ」
アンモスにコウヤは手槍を突き立てた。アンモスはサラサラと崩れていった。
「‥‥‥俺、倒してんじゃ、ねーよ」
視界がグニャリと歪んで元の将軍の間に戻った。
「人選ミスだよな‥‥‥。魔王オモダル‥‥‥」
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