第14話 ふたりってけっこう難しい
いよいよ最終段階だ。
コウヤとコウ。
軍の最小単位にも満たないこの二人が魔王への必殺の刃となる。二人が互いに連携し相乗効果で攻撃と防御を二倍にも三倍にも引き上げてゆく。
この段階で二人の息を合わさねばならないのだが、困った事にまるっきり合わない。人としての相性の問題だ。
「突っ込んでいくのが早いって! 私が魔法詠唱する時間を稼ぐのが、おまえの役目だろう?」早速コウが声を荒げている。
「あなたが遅いんですぅって!」
コウヤが口を尖らせて反論する。
「詠唱するタイミングと攻撃を合わせてっ。もうっ、少しは考えろ」
コウもコウヤの発言がカンに触るらしい。コウヤの戦いのイメージが大雑把すぎるのが原因だ。
勇者タガと魔導師カミーラを相手に模擬戦をするはずだった。ところが、開始二秒でこの有様だ。勇者タガが呆れ顔で口を挟んできた。
「事前に打ち合わせしただろ? コウヤ、おまえが牽制してる間にコウが詠唱を終えるってな。息を合わせろ。頼むぞ! それじゃ仕切り直しな」
シッ!
そんな話はお構いなしで、コウヤがいきなり仕掛けて来た。
ガチンッ! と勇者タガは余裕で打ち返す。
不意打ちに近い形でコウヤが始めたものだから、コウも慌てて魔法詠唱を始める。魔導師カミーラはニッコリ微笑んだままだ。
シールド展開を終えた時にはコウヤが組み伏せられ、コウの目の前には魔導師カミーラが放った光の矢が静止していた。
「くぅ......」
魔導師カミーラは小首を傾げて聞いた。
「二人とも何がしたいのぉ?」
コウヤもコウも互いにそっぽを向いて黙っている。
(なんでこうも相性が悪いんだ?)
勇者タガが渋面をつくり、頭を掻きながら指示を出す。
「まず指示だしはコウからしてくれ。コウヤは視野が狭い。全体を俯瞰で見れないから、位置どりができないんだ。コウヤ、コウと息をあわせろっ。もう一回だ」
一人一人ならそこそこ仕上がって来ていた。なのに二人となるとまるで違う。
それでもチグハグな動きを少しずつ修正し、いくらかタイミングがあってきた。
何回も繰り返す。流石に息が上がって来る。なのに勇者タガも魔導師カミーラも涼しい顔だ。
(どんだけバケモンなの? この二人って......)
コウは疲れてボンヤリしてきた頭で思う。
(まぁ、こっちはコウヤのフォローだけで手一杯になっているんだけど。全く、なんにも考えてない大馬鹿ものにね)
勇者タガが声をかける。
「もうへたばったか? 魔王は待ってくれんぞっ、もう一回!」
「‥‥‥」
「タガちゃん!」
魔導師カミーラが勇者タガに声をかけた。
「ちょっと向こうでお話ししない?」
見るとコウが真っ赤な顔をして腕組みしている。
一方コウヤはマイペースだ。
さぁっ来いっ、バッチこいー! って顔で中腰のまま無駄にやる気をみなぎらせている。
(うむ‥‥‥。困ったな)
動きを合わせても気持ちがチグハグだ。勇者タガも魔導師カミーラを見て頷いた。
「ちょっと小休憩な。十五分後に再集合。わかったな?」勇者タガは声をかけて、ミーティングルームに姿を消した。
コウは時の間の空を睨みつけた。コウヤへの叱責が口を突いて出そうになる。
(何をやってるのよ。だからーーったじゃない? 前に出すぎだって。あなたが先に突っ込むから、シールド張ろうとしても間に合わないのよッ! どんだけあんたのフォローに引きずられると思ってんの!)
だが、こんな叱責は逆効果だと前世で嫌と言うほど味わっている。欠点を挙げつらうほど反発を生む。
『そりゃあ、あなただからできるだけでしょ』とか、『先輩は上司の覚えめでたいから頑張ってください。凡人には難しいんで』とかーーー。
散々足を引っ張られた。誰しも人は自分を守りたいのだ。攻撃すれば反発する。
根気強く伝えていくしかないのだ。気持ちが伝わるまでーーー。
「ふーっ」気を落ち着けてコウヤを見る。
コウヤはぶつぶつ言いながら剣を振るっていた。動きながら憑依の詠唱を繰り返しているようだ。
二、三発殴られた動作をすると、サイドステップをふみながら回避の動作をしている。左手(海亀)を翳しながら突っ込んでは詠唱を繰り返す。
やがて全身が輝き【軍神 アトラス】憑依が完成した。
(何をやってる?)
コウは謎の動きを見ていた。
【軍神 アトラス】のままで虚空への攻撃を繰り返していた。何も無い虚空に向かって。
「......あっ?!」
コウにも戦っている相手が見えた気がした。
神速【フラッシュ・ソード】
シュバ、シュバ、シュパパパッ! 空気を切り裂く音を立てて、やがて目で追えないほどの剣速になる。発生したカマイタチが地面をめくり上げて着弾していく。
(ーーー見えた!)
コウにもコウヤが戦っている相手のイメージが見えた気がした。
「魔王オモダルだ......」
コウの唇から呟きがもれた。
(コウヤはひょっとして、最初から魔王オモダルを想定してた?)
さっきからコウヤはこちらのタイミングより、早く突っ込んで、早く引いていた。
(だから私は引きずられたんだ。私は、勇者タガと魔導師カミーラしか見てなかった)
その二人から及第点を貰えなければ、魔王オモダルどころの話では無いから当然と言えば当然だ。
(甘かったのは私だ)
コウは唇を噛み締めた。
(自分に合わせてコウヤを動かそうとした。それでは魔王にかなうはずがないじゃないか?)
コウは息を吸い込むと魔法詠唱を始めた。最短でシールドを展開する。
(コウヤのイメージする魔王オモダルの攻撃を阻止する。今やるべき事はそれだ)
コウヤが体勢を低くすると突っ込むと、魔王オモダルの幻は手を翳し
「シールド! 前包囲ッ」
コウがシールドを展開すると、コウヤに向けた光の矢を弾き飛ばした。
シュターーーンッ!
コウヤの剣は魔王オモダルの幻に突き刺さり、幻は霧散していった。
(やった!)
コウは拳を握り締めた。
【軍神アトラス】の憑依が解けると、コウヤは虚空を睨みながら息を弾ませている。
「やったじゃないか?!」コウは近寄ろうとして足を止める。
コウヤは憑依が解けてなお、パチパチと火のはぜるような音がしていた。
汗が滝のように流れる。時折魔素が飛散して光を放ち、軽く痛みを伴うためか全身を硬直させていた。
広い肩が上下している。
胸筋が盛り上がり、首から肩への僧房筋が盛り上がる。
「ふーっ! ふぅーーーー」
引き締まった腹筋が波打ち、呼吸を落ち着かそうと大きく上下していた。
(‥‥‥綺麗だ)
不意にそう思った。
コウはコウヤに見惚れた。視点を徐々に下にずらし慌てて後ろを向く。
コウヤは衣装が弾け飛び、スッポンポンだった。
「ハイッ、小休止終わーーーってコウヤ? 汗だくでーーー何してんだ? いいから早くなんか着ろ! ほれっ」
勇者タガが大柄なタオルを投げてよこすと、コウヤはガシガシと頭からタオルをかぶって汗を拭いていた。
「まずは前を隠せ! バカッ」コウは顔を赤くして背に向けて叫んでいた。
コウヤは前を隠しながら次のステージに進む。
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