第13話  誰のために......?


 「てめぇ覚えてろよっ、顔覚えたぞ!」拘束されたまま男が吠えた。


 「ハイハイあと二、三発食らわしちゃおうか? 記憶消えるくらいの打撃で」

 コウヤがニコニコすると男は黙り込んだ。


 ふぅ、気持ちイイッ。これって俺TUEEEーーーじゃない? 良くなくない?

 ビバッ、異世界! 地獄の訓練も無駄じゃなかった♪


 拘束した男をギルドに突き出すと、食い詰め者の冒険者だった。

 冒険者ギルドでは登録した冒険者が犯罪を犯した場合、被害者に見舞金(慰謝料)が支払われる。そのための積み立てがあるそうだ。

 ギルド側としては犯罪者と一線を画す仕組みで、ある程度の社会的信用を得ていた。


 「ご苦労様です。ご協力ありがとうございました」ギルド職員から丁寧なお礼と礼金をもらい、ちょっといい感じ♪ なコウヤ君。


 「おばちゃんの分もよろしくねー♪」と念押しもしておく。

 「被害にあった方には調査が終わり次第、見舞金が支払われます。未払いのツケ分もご請求ください」ギルド職員からの説明があった。


 「なのでーーーなにとぞ......ご内密......。できるだけ、見舞い金が、ウウンッ!」

 ギルドも信用商売と言う事か?

 おばちゃんは満面の笑顔で了承していた。手を引かれおばちゃんの店に連れて行かれる。


 「あのね、何度も言うけどね、人違いと思うよ。俺はコウヤ、トウヤくんじゃ無くて」と言っても分かってくれない。


 かあちゃんと名乗る女は不思議そうな顔をして「おまえがトウヤじゃなけりゃ誰なんだい? バカな事言ってんじゃ無いよ。それよりお腹減ってないかい? すぐ美味しいもん作ってあげるから、おいで」

 ーーーと、ころどころ抜けた歯をニッと剥き出すと、ズンズン進んで行く。


 他に行く予定もないし、丁度腹も減ってきたのでそのままついて行く事にした。


 五分も歩かないうちにおばちゃんの店はあった。


 広さ三十畳はあろうか? 開店前だけにひっそりとしている。


 トイレの脇を抜け、厨房に入る手前に引き戸があった。ガタガタと引き開けると、二階に上がる階段がある。


 トントントンッと! ーーーん?

 絵が飾ってあった。


 幼子と両親、十歳の男の子と母親、二十歳ほどの兵装をした青年。少しコウヤに似ていた。


 階段の突き当たりは、踊り場になっている。左手の扉の鍵をガチャガチャ開けると、おばちゃんの暮らす住居のリビングに入る。


 質素ではあるが小綺麗にしていた。食卓を兼ねたテーブルと椅子がニ脚。


 「ふーん......」


 おばちゃんはバタバタとカーテンを開け窓を開ける。「何をぼーっとしてんだい? サッサと座わんなよ」


 「小綺麗にしてんな」あたりを見回しながら席につく。おばちゃんはもう台所に駆け込んで何かゴソゴソ始めていた。手持ち無沙汰になって部屋の中を見回す。

 風景画、おばちゃんの絵。明らかに素人画だがなかなか上手い。


 「トウヤは絵が好きだったのか? 」と聞くと、おばちゃんはキョトンとした顔で「何言ってんだい?! 稼いだ金ほとんど絵具代に突っ込んでたじゃないか。まぁ、変な遊びするより良かったけどさ」と教えてくれた。


 恋人だろうか? 若い女性の絵もある。


 「これは? 」


 「それはリズちゃん。あんたがいないうちにもうお嫁に行ったよ。子供も三人ーーー。まだあんたも間に合うんだから早く次を捕まえなッ」

 どこも親は同じ事を言うらしい。いい人いないのかって。


 その隣にチェーンがぶら下げてある。

 手にとって見ると死亡識別票だった。文字は読めないが予想はついた。


 軍人は所属を示すために、生きている間はずっと身につけている。生きている間はーーー。


「そっかーーー。そうだったか」


 うまそうな匂いがしてきた。

ガチャガチャとテーブルに皿を並べる音がする。


「出来たよっ、ご飯だよ」あんた、これすきだったろ? って顔でニコニコしている。トウヤ君の好物を作ってくれた様だ。 


 コウヤはチェーンを戻すと席についた。シチューらしい汁物とパン。ベーコンのような肉が美味しそうに湯気を立てている。


 「いただき!」

 ガツガツと次々に平らげていく。

 「美味いっ、うんまっ!」大袈裟にかき込むと、おばちゃんを見て親指を立てた。

 おばちゃんはニコニコ笑っている。嬉しいんだろうなぁ。久しぶりの親子の団欒って感じだ。


「あのな、かぁちゃん!」


「なんだい?」


「あのな!」

 おばちゃんが嬉しそうに笑った。


(よしっ、今日からあんたはこちらの世界のかぁちゃんだ。そうに決めた)


 コウヤの目が優しく微笑む。互いに笑いながら今日の騒動の話や、訓練の話をした。


 「んじゃ、行ってくるわ」


 「なんだい? 今日は泊まって行かないのかい?」


 「これでもゴシマカス防衛の切り札なんでな。鬼軍曹と戦ってくるわッ」

 席を立つとおばちゃんに戯けて、騎士の拳で胸をたたくの敬礼の真似をする


 おばちゃんはニッコリ笑うと「いざとなったら逃げてきな。かぁちゃんは強いんだからっ。かぁちゃんがやっつけてあげる!」

 細い腕を袖をたくし上げて、力瘤を作るフリをする。

 ーーーへへっ。コウヤは、ちょっと泣きそうになって、慌てて笑顔を作った。


 (守るのは国じゃない。こんな人たちなんだ)


 コウヤの目が虚空を睨み前を見た。

 「んじゃ、行ってくるわッ」


 次はいよいよ最終段階だ。コウヤは寄り道からやっと戻り次のステージに進む。

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