第10話 どうせなら

 魔力強化は魔導師カミーラに頼んである。

まずは魔力を練り上げるところから......おいッ 」


 コウヤは残像を残して消えていた。もはや勇者タガの事など頭には無い。


(次は魔導師カミーラ? カミーラ先生?!)

 魔導師カミーラ。

 伝説の魔導師である。何よりセクシーダイナマイトである。

 

 黒ずくめのやたらと体に密着したレザースーツ。はちきれんばかりの胸元、見事にくびれた腰からすらりと伸びた足が艶めかしい。


 (苦行の後にはご褒美をーーーッ)

 煩悩の塊と化したコウヤは、弾丸となって疾走した。


 「カミーラ先生? いやさカミーラッ、軍神アトラス憑依できましたッ。だからあんな事やこんな事ッ あんな事ぅぉぉぉぉぉぉ」


 どんな事をしてもらいたいのか分からないが、それこそ尻尾が振り切れんばかりの勢いで魔導師訓練所に飛び込んだ。


 「ファイヤ・ボール! 」

 コウの声が響いて来た。


 「アイス・シールド!」

 魔導師カミーラの詠唱が応える。


 バンッ、パパンッ、と乾いた音を立てて、炎と冷気がぶつかり合い空中で弾ける。


 「もぉ、コウちゃんもっと塊をイメージしなきゃ。いい?  塊をぐぅーって固めてぇ、ぽんって燃やす感じ? 恋といっしょよ。思いをためてぇーーーえいっ、好き好き! ってすると燃え上がるでしょう? 」


 「カミーラ先生ーーー。説明の後半から全く分かりませんが? 」


 「えー? わかんないのぉ?! じゃ、嫌いな人イメージしてぇ。固めてぇ、固めてぇ石炭みたいにしちゃってぇ……ボンッてやってみて 」


 シュゴォーーッと爆炎が発生した。


 「ぶぁっちっ、あっ熱っ、死ぬぅぅ」


 爆炎はコウヤに引火したまらず転げ回る。

 魔導師カミーラ先生がすぐ消火してくれたから良いものの、死ぬかもしんないって一瞬覚悟したコウヤだった。


「コウちゃんは嫌いな人のイメージが、強いみたいね......」


(いま俺見てなかったか? ボンッてする時、俺見てなかったか?)コウヤがジト目で二人を見る。


 「う、うん!」

 カミーラ先生は咳払いをしながら近づいてきた。


 「コウヤくんには次の課題よ! ふふふッ、ジャーン! お待たせしましたぁ。シールドの授業よぉ」


 (初めて聞いたのですが?)


 「シールドって今見てたでしょう? 簡単に言うと防御の盾を魔力でぇ作ることッ。魔力防御と武力防御があるんだけどぉ〜。特別サービスッ! レア・シールド伝授しちゃう。魔力も武力も防御しちゃう優れものよ! 」


 フン! と胸を張る。

 ぶるんと揺れる!


 ジト目がハートマークに切り替わり、カミーラ先生にコウヤは釘付けだ。


 「カミーラ先生! さぁやりましょう。もぅ、やる気スイッチ入りまくりです! 」

 鼻息の荒い弟子もどうかと思うが、やる気が出たのは出たらしい。


「コウちゃんはもう習得できてるから、ファイヤ系とアイス系の反転魔法練習しててね〜」


 カミーラ先生がコウヤにトコトコ近づいてきた。

 「コウヤくんはこっちこっち」

 袖を引っ張り鏡張りのトレーニングルームに連れてきた。


 「コウヤくん? ちゃんと軍神アトラス憑依ちゃんとできたかな?! カミーラ先生見てみたいぞッ! 」


 「ふふふ......お見せしましょう。

 これも私の実力のほんの一部に過ぎませが......」

 もったい振りながら魔法詠唱を始める。


 「集え。集え。わが盟友たちよ。その力を我が身と我が剣に与えたまえ。我が身は金剛! 我が剣はイカズチ。我が名はーーー軍神アトラス」コウヤは金色の光に包まれ、軍神アトラスが出現した。


 魔導師カミーラ先生がホウッと息を飲む。

 顔が上気してピンク色に染まる。

 「ふふふ......」

 チラリとピンク色の舌で唇を舐め、胸元のジッパーをゆっくり下げていく!

 谷間が大きく見えた!

 ーーーと思ったら、首元まであっさり締めてしまう。


(な、なんなんだー?!)

 煩悩が軍神アトラス憑依を解除してしまった。


 「コウヤくんすご〜い! でもぉ一分じゃダメ!! 物足りないなッ! 霊力で召喚したら魔力で憑依時間をもたすの。

 暫くここ使ってぇ、五分持たせてみてぇ」


 憑依の霊力集中で、魔力を出し切ってへたり込むコウヤの前に、ちょんっとカミーラ先生が座り込んで顔を近づけてきた。


 甘い香りに包まれる。

 (顔近いです......)


 「コウヤくんーー。できるかなッ?

 先生、満足したいの! 満たして欲しいのぉ」


 コクコクうなずくコウヤを見てニッコリ微笑む。

「じゃ! 十分頑張れるねッ。ふふふ」


 ウインクして出て行った。


 (十分って......増えてないか......? って俺、弄ばれてない? まあーーーしゃあねえか。ここでやらなきゃ男が廃るしな)


 どうして男が廃るんだか分からないが、コウヤは

んんーーっと背伸びをすると霊力の錬成に入った。


 (なんやかんや言って、カミーラ先生スパルタだよなぁーーー)


 そのまま座禅を組んで目を半眼にする。

 ここからは集中力だ。

 鏡張りのトレーニングルーム。

 自分の視線が邪魔する。


 うっすらと自分の姿を、中空から眺めるイメージで意識を集中する。

 深淵の海底に潜ってゆく感覚......


 二日後、ほぼミイラになったコウヤは、軍神アトラス憑依の継続時間を十分に伸ばせた。


 そしてシールド伝授も煩悩を刺激しまくられ、わずか1日で成し遂げる!


 恐るべし! 魔導師カミーラ!!


カラカラになってコウヤは次のステージに進む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る