第7話 金に目が眩み
その翌日ーーー。
メイドたちにテキパキと着替えさせられ、コウヤたちはブロウサ伯爵の主宰する『救国財団』に案内された。
コウヤとコウを連れて、首都を案内するらしい。
「さーさあ、今日の小遣いだ。遠慮なくジャンジャン遣ってくれぃ」
ずっしり金貨の入った袋をもってきた。
「今日は好きなものを買って、食って、飲んで。贅沢してくれよぉ。馬車も、ガイド兼ボディガードも1人ずつつける。安心して楽しんでくれ」
「そんな事言って後で返してくれ! なんて言うんじゃないの?」
「‥‥‥ってけっこう入ってんじゃん?!」
「なぁにをおっしゃる!? これはほんのお礼だ。お越し頂いた事のナ。ちなみにこの金貨だけで、家が二軒は買える」
軽くウインクする。
(うっそぉーん! ビバッ、異世界!)
「魔王討伐の暁月には、この十倍は出す!」
スッ、とブロウサは耳元に顔を寄せ
「女も金も思いのままだ。ーーーなんせ英雄になるのだからな!」と囁いた。
昨日の絶望の淵から一転、コウヤのテンションは
天国まで跳ね上がる。
「ふふふっ、ブロウサお主も悪よのう?!」
コウはそんなコウヤを見て、呆れた顔をしていた。ブロウサ伯爵にも、不審な顔を向ける。
そんなに美味い話があるものか......。このブロウサ伯爵は怪しい! って顔だ。
ブロウサはそんなコウの目線に気づいたのか、
「オオそうだ、あなたにはプレゼントがある。この国の宝石エメラルダスだ」と宝石箱を
「見てほしい。この輝きを! 国宝級だ。もっともあなたの美しさの前では、霞んでしまうがな?!」
驚くコウの顔を見て、ワッハハハハーッ! と大笑いしながら、油断無くコウの顔色を伺う。
コウはさして興味がない様で、ブロウサ伯爵を見ながら口を開いた。
「で、なんだ? この対価は。私に何を求める?」
「まあまあ、硬い事抜きでーーー」
ブロウサはもみ手をしながら笑った。
(ここから手駒になってもらうんだ。投資と思えば安い買い物よ。奇貨置くべし‥‥‥だ)
爽やかな笑顔に切り替える。
「ほんのお近付きのしるしだ。貴女にはこの宝石がよく似合う。ひょっとしてお気にめさなんだかな?」
「い、いやそう言う事はないんだが‥‥‥」
「そうと決まれば出発しますぞっ。教会、そして賑やかな市場! 観光が終われば、王侯貴族たちとのパーティですぞぉ。楽しくなりそうですなっ! わっははーーっ」
やたら豪華な馬車に押し込められた。
石畳の敷き詰められた道路は、よく踏み固められていて滑らかだ。大きな振動もなく、馬車は快適に街中を駆け抜けていく。
馬車に乗り十五分も走ったところで、聖教徒教会に到着した。
真っ青な空に光り輝く女神像が、突き刺さっていた。女神像を支えるのは、視界の端から端に収まりきらないほどの巨大な聖シャルル教会だ。
直方体の角をつなぎ合わせた凝った造り。壁面には歴代の殉教者の像が彫られ、巧みに装飾に取り入れている。
礼拝堂まで案内されるといつの間にか、コウヤとコウを残して誰も居なくなった。
正面には女神アテーナイの像が安置されている。
ステンドグラスから入る陽光が映え、しばらくの間二人は見惚れた。
アテーナイの像が輝きはじめ、二人に語りかけてきた。
「よくぞ来てくれた......。コウヤ、そしてコウ。
二人にはツライ使命を与えねばなりません」
絶対的な存在感。
触れようものなら、弾け飛んでしまう。
「この世界は滅びかけています。魔王オモダルの支配する『ノース・コア』も、です」
「ん? コッチはともかく、魔王オモダルの国は滅びた方がいいんじゃないの?」
素朴な疑問でーす。っと手を挙げる。
「オモダルこそ、この世界と魔界の守護者なのです」
二人の目の前に、2つの世界が描き出された。
双子世界『ゴシマカス』と『ノース・コア』。互いに魔口で繋がり、『ノース・コア』は魔素を『ゴシマカス』世界は酸素を供給し合う。
「始まりは『ゴシマカス』の急激な発展でした。
魔素を圧縮し、何倍もの魔力を生み出す技術を開発したのです‥‥‥。
急激な発展の対価は、大量に発生する魔素ゴミ。
魔素ゴミは全て魔法陣に投棄され、魔界ノース・コアに流れ込みました。
さらにノース・コアでは、ゴシマカスから魔素を吸収され魔素が枯渇し、怒り狂った魔王オモダルは、開戦へと踏み切りました。結果はゴシマカスの敗北です」
女神アテーナイは続ける。
「前回のゴシマカス敗戦で賠償と、魔素ゴミ浄化のクリーナーを開発し和解したはずーーー。ところが今度は魔素の搾取と、これまでの魔素ゴミの回収を求めて侵攻を始めました。
本当の目的は人間そのものを、滅ぼそうとしている。魔王オモダルを止めて欲しい。頼みましたよ」
そう言って女神アーテナイは、もとの女神像に戻った。嵐の去ったような感覚が終わり、シンと鎮まり帰った聖堂に、清らかな歌声が響いてきた。
見ると、手にキャンドルを持った子供たちの合唱団が入ってくる。
「祈りか‥‥‥。面倒くさい事に巻き込まれちまったななぁコウ」
コウは返事もせずに、歌声に聴き入っている。
歌声が終わると、子供たちが駆け寄ってきた。
「勇者さまっ、魔導師さま!」
手に手に花や手紙を持ち「プレゼント〜」と、近づいてくる。
手紙を広げて見ると『ボクたちの世界を守って』と書かれてある。
「大丈夫だよ。大丈夫! きっとみんなを守ってあげる」コウはしゃがみこみ、子供たちひとりひとりの頬を撫ぜていた。
目を潤ませながら「大丈夫、大丈夫だよ」
と繰り返しながら。
『ありゃりゃ? ヤル気になっちゃってるよ、コウさんは。なんかーーー重いんですが......』
コウヤは何故か寒気を感じてブルッ、と身震いする。
「コウヤッ、またどっかいきやがったな? 戻って来たら、タダじゃおかねぇぞ」
同じ頃、あの脳筋バカが、時の間で吠えていた。
コウヤはまだ、本当の地獄を知らなかった。
コウヤは知らぬ間に次のステージに進む。
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