第11話 神の鱗片
「まぁ、まずは無難に情報集めとかだろうな」
ジークロックは、俺の独り言に答える。
「情報収集っつってもなぁ……」
何をすればいいのか思いつかない。
こんな経験が無いからなのか、全然頭が回らない。
キョロキョロと辺りを見渡していると、
「先ずはだな、しばらく寝泊まりできるところを探そうぜ、兄弟」
こういうことに慣れてるのか、ジークロックが提案してきた。
何?コイツも心読めるの?
「寝泊りっても何処にそんなもんが………」
あんの?と、言い終わる前に、ジークロックが
「ほれ、あれ」
と、端的に言う。
指の先には、かなりボロボロの"何か"が建っていた。
ボロボロすぎて、"建物"っていうこと以外、何なのか分からない。
ホントにこんな所で、寝泊り出来るのか?
「………何あれ」
トゥリノが、屋根より少し上を指さして言った。
「教会……だね……」
指の先には、十字架が刺さっていた。
教会と分かったところで、何も変わらない。
俺の不安が口からこぼれた。
「ホントに………こんな所で?」
ジークロックは、何が不安かわからないといった顔で聞いてくる。
「どうしたんだ兄弟?なんかあったのか?」
「……なんも……ないけど……」
引き気味に答えるけど、ジークロックには伝わらなかった。
「大丈夫か?先に入ってるぞ?」
そう言って、不思議そうな顔をしてジークロックは、廃教会に入っていった。
ジークロックが教会に入っていったことを見計らって、隣に来て言う。
「まぁ彼は、"元ホームレス"だし、大目に見てあげてよ」
「なんで、んなこと知ってんの?」
少し不審に思って、疑問を投げた。
「ま、まぁね!これでも一応、……神だからね」
俺の問いに答えてくれたものの、言葉が出にくいように感じた。
トゥリノにも、何か思うところがあるかもしれない。
……………もしかして、トゥリノもホームレスだった?
それは、流石にないか。
神だし。
にしても、"神だから"って、全人類の個人情報を全て把握してるのか?
神には、プライバシーって概念がないのか?
神、怖ぁっ!
教会に入っていくトゥリノを見ながら、そう思った。
中に入ると、外見同様に、もしかしたらそれ以上に、ボロボロにくたびれてる。
余りの景色に、神秘さえ感じた。
「えぇ……」
………ごめん、嘘。
神秘のかけらも感じんわ。
こんな所で、暮さなきゃなのか……。
「ホントにこんな所で過ごすのか?」
かなり引いていると、何を勘違いしたのかジークロックが顔を近づけて、
「おいおい兄弟、もしかしてビビってんのか?」
と、言ってくる。
おちょくってんのかコイツ。
引いてんだよこっちは。
「ビビってねぇえよ、コノヤロ」
………取り合えず一番最初に浮かんだ寝る場所を決める。
と言っても、教会なだけあって椅子やら祭壇やらで、まともに寝る場所すらない。
仮に寝るとしても、ガラスの破片やら瓦礫やらで、次の日の朝までまともに生きている自信がない。
「なぁ、トゥリノ?ここにベットなんてあるわけないよな?」
一応聞いてみる。
まぁ、何となく答えはわかってるんだが。
「わかってるでしょ?ないよそんなの、それよりもコルンとかもっと色々考えることあるよ?」
こるん?ってなんだ?と口に出すよりも先にトゥリノが答えてくれた。
「あぁ、コルンって言うのは、この世界のお金だよ」
「…あぁ、うん、ありがと……」
ホントに勝手に心読まれるのが怖い。
なんでわかんだよ、コイツ。
「まぁ~、神だからね!」
「それで全部済ませようとしてんだろ」
「ハハハ、ソンナコトナイヨ~」
図星なのか雑に誤魔化してるトゥリノを見ながら、思う。
コイツが何を考えているのかわからん。
何も考えてないのかもしれん。
神ってこんなに自由なもんなのか。
コイツだけだと思いたいが。
「それで?
「どっか稼ぎ口探せばいいでしょ」
そう言うと、ジークロックがニカッと、とても爽やかではあるが同時に邪気がありそうな笑みを浮かべる。
「だったらいい方法があるぜ!兄弟!ちっこいの!」
「一応聞いとくね…"ちっこいの"って誰の事かな?」
質問しているトゥリノの顔は笑ってはいるものの確実に何かヤバ目のオーラが出てるが、そんな事はお構いなしと、ジークロックはトゥリノの肩に手を置いて言う。
「お前のことだぜ?"ちっこいの"」
「はぁ……僕の名はルミオス・トゥリノ。"ちっこいの"はやめてもらえると嬉しいかな」
流石は神様。
あんなに怖かったオーラが、一気に消えて、気づかれないように握っていた拳も力が抜けていた。
もしかしたら、本気で怒ってなかったのかと思うほどオーラの引き(?)が早かった。
「まぁ、人間に本気になる程、神として落ちぶれてないつもりだよ?」
「誰に言ってんだ?ちっこいの」
「優希にだよって、だからちっこくないって!」
「いや、兄弟何も言ってないよな?」
衝撃でいつ壊れてもおかしくないのに。
仕方がない。
「少し落ち着こう…」
"軽め"に拳を握る。
「…かぁっ!!」
軽く握った拳を、ジークロック目掛け飛ばす。
「ごぉぶ!!」
見事にジークロックの鳩尾にクリーンヒットした。
…のはいいが、勢いで教会の壁にぶち当たる。
衝撃で亀裂が走る。
「あ」
そういった時には遅かった。
一通り亀裂が走り切った壁が、崩れ落ちる。
不安定な積み木みたいに、1つが壊れると全体が台無しになる。
「あ~あ~、崩れるよ~」
そのゆるっぽい言葉とは裏腹に、教会は轟音を立てながら崩れる。
しかし、俺の行動が分かっていたかのように、さも当然のように、トゥリノは冷静だった。
ただ冷静に、静かに、右手を水平に上げる。
誰かに助けを求めるかのように、誰かの助けに応じるかにように、音もなく持ち上げられた右手は、その声に応えるように少しだけ空間を歪める。
「This World Time is "STOP"」
その声に応じて、右手にあった歪みが一気に広がり、景色がモノクロに変わる。
「え?」
状況が呑み込めないジークロックと俺は、同時にトゥリノの方を見る。
教会の崩壊と轟音は止まっている。
「This World Time is "REWIND" and "RESTART"」
そう言い終わった瞬間、景色が逆再生しだす。
「どうなってんの?」
「危なかったから、時を巻き戻したんだよ」
逆再生の中、何食わぬ顔でしれっと言う。
壁に走り切った亀裂が小さくなっていく。
完全に亀裂がなくなると、徐々にモノクロの世界に彩りが戻ってくる。
「これからここが拠点なんだから、あんまり雑に扱っちゃ駄目だよ?」
景色が元に戻った時、教会も亀裂が入る前の状態になっていた。
よくわからん理論にはなるが、神だから何でもありなんだろう。
……そう言うもんなの?神様って。
俺に気にせず、それから……と続ける。
「あんまり、"力"任せにしないでよ?何とかなったからいいけど」
「悪いなトゥリノ、力加減間違えた」
トゥリノは「もぉ~、気をつけてね」と軽く流す。
そんな傍らでジークロックは、呆然と立っていた。
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