第10話 邂逅



   ■



久しぶりに街に出てきたはいい物の、何やら街の住民が騒がしい。

今日は何かのお祭りでもあったかな?


「なんの集まりなんですかね?」


ゴクが、後ろから聞いてくる。

僕の隣で、アホ毛をピコピコさせながらベルルが言う。


「お祭りですかねー?賑わってますね~♪」


「僕の記憶が正しければ、今日は祭りなんかじゃない気がするんだけど…………」


お祭りにしては、屋台なんかも出てない。

しかも、よく見ると警護軍の兵士とかもいる。

これはまるで、お祭りと言うよりも…………


「野次の集まりみたいですね」


と、ゴクが僕の気持ちを代弁した。

近づいていくと、こっちに気づいた農民が話しかけてくる。


「アンちゃん達、こんな所にどうしたんだ?」


「コイツ!」今にも飛び掛かりそうなベルルを、落ち着かせながら聞く。


「何があったんですか?」


「さっきまで"あそこ"で"喧嘩"があったみたいなんだ」


と、親指で指された場所には…………


「…………何もない?」


何もない。

本当に何もない。

周りには、建物や、半壊した建物が、

のだが、やはり中心っぽい"ここ"には何もない。

まるでそこだけ別次元に飛ばされたみたいに。

"喧嘩"でここまでのことになる事はないだろう。

いや、絶対ない。

…………後で、ゴクハクに復興作業を、手伝わせるか。

しかし…………


「へぇ…、この街ローガンドで"喧嘩"ねぇ……」


今度はベルルが、僕の気持ちを代弁した。

確かにこの街ローガンドは、大きな(しかも、周りの建物が壊れるほどの)喧嘩(?)をする人なんていない。

精々、痴話喧嘩ぐらいなものだ。


「敵襲…………ですかね」


「そうだったとしても、色々と腑に落ちない事がある」


「例えば?」


興味を持ったゴクが、聞いてくる。

ベルルは、興味がないのか街の人と喋っている。

 

「例えば…………」


そう言って、ゴクに見解を言おうとした、その時。

聞き覚えのない、声が耳に届いた。


「おや?どうしてこんな所に塔の管理者の代理人様が?」



   ★



街の中心より、少し離れた街の入口っぽい場所に降りた。

やっと、空の旅が、終わった。

マジで、死ぬかと思った。

いや、マジで。

飛んで(僕は抱えられて)来た場所には、少しだが見覚えがある。


「こ……こ、どこで…すか?」


空の旅のせいで、ぐでんぐでんになりながらも声を絞って聞く。

あぁ、マジで無理。ホント無理。

それに引き換え、ようは子供みたいにはしゃいでいる。


「最初にしては、よく耐えた方だと思うよ。ここは私の街ローガンドだ」


「ご……せつ…めい、ど……も」


マイクルさんは「はっはっは!」と、高笑いする。

人が衰弱してんのに、何が面白いんだか。


「ここで少し休むと良い。それでは、私は行ってくるよ」


もうぐでんぐでんに耐えられなくなり、地面に突っ伏す。


「おぅ、べぶぉ!ぶふぅ……」


ようが、顔を覗き込んでくる。


「あ~、楽しかった!響弥きょうや、大丈夫~?」


「お……前……、知ってん…だろ………、僕が……ああ言うの……無理…だって……」


なん…の……嫌味だよ……コイツ…………

絶対…呪って……やる……


響弥きょうや君、大丈夫?」


マリアさんは、僕のおでこに手を当てて、何やら魔法を唱えている。

すると、忽ち僕のぐでんぐでんが治った。


「あ……ありがとうございま…す」


そう言って、マリアさんの差し出してくれた手を何の気なしに"掴む"。

"掴む"と言う行為が、出来ている。

いつもの僕であるなら、ギャーギャー言うのだろうが、今はそんな元気はない。

よって、脳内が混乱するのみ。

やったね!


「……あれ?透けてない?」


「さっきのは、透けないように魔法をかけただけなの」


「え?じゃ、ぐでんぐでんが治ったのは……?」


「それも魔法なんだけど、態々、詠唱するほどでもない魔法よ?」


「え?魔法って詠唱いらないのあるんですか?!しかも"透けないように"って出来るんですか?!もっと早く言ってくださいよ!!」


「君のは"体質"だから、一生治らないわよ。それこそ死ぬまでね。さっきのは、一時的に実体化させただけなの」


やっぱりか………、失礼だけど期待はしてなかった。

しかし、死ぬまでこの状態とは…………。

"この世界"に来て、1日も経ってないから、"魔法がある"って事ぐらいしか知らなかった。


「ニルワードはリワードより手軽に使えるけど、効果が薄かったりするのよ。その分、さっきみたいに緊急だったり、応急処置だったりは十分にできるの」


「にるわーど?と、りわーど?って何ですか?」


「ニルワードは無詠唱魔法で、リワードは有詠唱魔法なの」


「へぇー、魔法って結構便利ですね」


状態異常を治すとか、凄いゲームとかの魔法っぽい。

凄いファンタジーっぽい。

あ、ここ自体がファンタジーだった。


「もう立てるかしら?」


「あ、ありがとうございます」


野次馬の向こう側で、マイクルさんと知らない人達が、何か話をしている。

さすが、土地の領主ローガンドだ。

こういう時こそ、本領発揮って感じなんだろうな。

…………きっと。

取り合えず、周りを見渡す。


「………え?」


ぐでんぐでんがひどくて気が回らなかったが、よくよく見てみると、


「何だ………これ…」


それ以外の言葉が、出てこなかった。


それは何故か。


街がから


"街であった"であろう"何か"に吹く風は、そこにあったであろう"建物"を懐かしむ様に、僕の横を通り過ぎる。

余計な体質風の性質を持ってるせいか分からないが、そんな気がする。

………気がする。

…………気がするだけ。


響弥きょうや?何してんの?」


「いや、何もしてないよ」


しかし、そこにあるのは本当に異様な光景。

まっさら以外の何物でもない。


「何をどうやったらこんな事になるのかな?」


ようが聞いてくる。

本当に、ここでどんな事があったのか。

そして、こんな事をした人達が"この世界"で、何気ない日常を過ごしている。


「さぁ?そんな事、僕達が知らなくてもいんじゃない?」


ちょっと怖いけど、微笑ましい日常を、送っていて欲しい。

………色んな意味で。

…………本当に。


「……さてと、マイクルさんのとこに行くか」


ようが、嬉しそうについてくる。


「そーだね!何話してんのかな?」


「さぁ?でもまぁ、聞いといた方がいんじゃね?」


と言って、マイクルさんの方に歩いて行く。



   ▲



空を飛びながら、着地点であろう集落に目を向ける。

まぁ、"ただのジャンプ"なんだが。 


「あそこが、さっき言ってた集落?」


集落を指をさしながら、トゥリノに聞く。


「うん、そうだよ。集落にしては、結構大きいんだ」


ジークロックが頷く。


「確かに、街と集落の中間ってところか?」


「まぁ、そんなところだよ。降りるよ、二人共」


と、言って、トゥリノは音もたてず軽く降りる。

俺とジークロックは、流れ星の如く轟音と共に着地する。

"流れ星"って言っても、精々、地面がへっこんだ位なんだがな。

ただ………


「降りたのはいいが、ここはどこらへんだ?」


自分できょろきょろしても分からん。

トゥリノが、一緒にきょろきょろする。


「ここは……中心よりちょっと離れた所だね」


すると、ジークロックがボソッと言う。


「丁度いいじゃねぇか」


「丁度いいの?」


トゥリノが、不思議そうに聞き返す。

ま、二人はほっといて………


「何しよか?」

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