第7話 出会い


 僕は、マイクル・ローガンド・ウィスプさんに付いて行っている。


「何処に行くんですか?えぇっと、マイクル・ローガンド・ウィスプさん?」


「"マイクルさん"でいいよ、ようちゃんにもそう呼んでもらってるしね。………そうだね、何処に行くかは、だよ」


そう言って、僕を案内する。

ふっと、思ったことを聞く。


ようとは、何処で出会ったんですか?」


ようはここに来たのは、"3日前"と言っていた。


「また後にでも、話そうと思っていたんだ。折角だし、歩きながら話すよ」


「ありがとうございます」


なんだ、後で話そうとしてたのか。

もしかして僕が、あんな感じだったからかな?

そうだったら悪いことしたな、と思いながら話を聞くのだった。



   ★



 その日はいつもどうりの晴れだった。

澄み渡る青空、綺麗な雲。

そんな空を見上げて、一人の少女は呟いた。


「…雲が……綺麗…………いや待って違う、ここ何処?」


空が綺麗過ぎて、危うく現実逃避をするところだった。

いや、若干してた。完璧してた。


「ど、どうしよう?」


見知らぬ土地で、ただ一人。


ケーキ屋に入ったと思ったら、いきなり意味の分からん何にも無い白い空間に出て、"名前が無い"綺麗な女の人に、いきなり「おめでとうございます」とか言われて、ドアに案内されたから、入ってこの状況………。


「ワケワカメンタルなんですけど…………」


自分が豪く戸惑っている事が分かった。


「どうすれば………」


何もする事が無いもんだから、適当に歩く事にした。

歩き続けて1時間ぐらい経ったその時、気付けば森の中にいた。

もう少し進んだぐらいの所に、建物的な何かが見えた。

"建物"の方向に歩いて行って、目を見張った。

目の前には、白い壁に青い屋根のかなりおっきい洋館が建っていた。


「おっきぃ~~」


まじまじと見てると、中から小太りな男性が出てきた。


「どうかしたのかい?」


「い、いや、なんでもないです」


少女がそう答えると、小太りな男性は言葉を続けた。


「お嬢さん……もしか………して……」


小太りな男性は、一回言葉を切り、少女の言葉を待った。


「どうかしましたか?」


少女のその言葉を聞いて、小太りな男性は言葉を零した。


「"異世界人"………かい?」


少女は、その言葉の意味が、解らなかった。


「はい?」


少女はもう一度、今度は明確な質問を投げかけた。


「"異世界人"って何ですか?」


小太りな男性は、少女の質問に答えずに、


「あー、いやなんでもないよ」


と、あからさまに誤魔化した。

少女は、誤魔化した意味が分からなかった。

しばらくの沈黙が、流れた。


…………その沈黙を破ったのは、小太りな男性の方だった。


「お嬢さん、住む場所はあるのかい?」


「ないですけど………」


そこで、小太りな男性は提案をした。


「もしよかったら、我が家の養子ウチのコにならないか?」


「…………はい?」


少女は、思わず聞き返した。

小太りな男性は、そんな事はどうでもいいと言わんばかりに、勝手に話を進める。


「もちろん、それなりの扱いをさせてもらうよ」


「………え?あの?」


最早、少女の言葉は全然男性に届いていない。

男性は、ここに来て初めて自分の名前を名乗った。


「あぁ、私の名はマイクル・ローガンド・ウィスプだ」


少女も、つられて名乗った。


「わ、私は音野 陽おとね ようです!」


男性は、少女の名前を聞き高らかに笑った。


「はっはっはっ!そうか!お嬢さんようちゃんと言うのか!」


男性マイクルは、満足そうに「これからもよろしく!」と笑った。

少女は、その言葉で折れたのか、はたまた、この状況を良く思ったのか少女も満更でもない感じだ。

しかし、少女は言った。


「住まわせてくれるのであれば、一つお願いしてわがまま言ってもいいですか?」


マイクルは、「もっちろんだよ!」と、少女のお願いを聞いた。

少女は、安心してお願いわがままを言った。


「多分………3日後の14時………半過ぎ位に、神無 響弥かんな きょうやって言う男の子が来る…………と思うんですけど…………」


「その子……は、どうしたらいいんだい?」


マイクルは、反射的に聞き返した。

しかし、すぐ違和感に気づいた。

確実に未来さきの事なのに、余りにも"正確"過ぎる。

言葉を濁らして、14時半"過ぎ"と言っているが、確実にもっと細かい時間まで分かっている。


「えっと……その子もここに住まわせて下さい!お願いします!」


マイクルは考える。

今は、物凄く自分のこの、ローガンド・ウィスプこの街と自分の地位の名を引き継いでくれる、未来ある子供が欲しいのだ。

しかし、少女を見る限り確実に15歳はありそうで、年齢的には大丈夫そうだが………


「"異世界人"……か」


この世界の暗黙の了解上、貴族・権力者は、自分よりも強いか同等の武力を持つ者でないと、家の引き継ぎをしてはいけない事になっている。

それは何故か?

自分より弱い者に家を引き継がせた場合、他の貴族は勿論、最悪盗賊等の輩に家を潰されかれない。

要は、ナメられる。

しかも、最近はかなりの力を持った賊が出てきている。


「どうしました?」


少女は、考え込む男性を覗き込む。

しかし男性は、気にせず考える。

異世界人は、基本的には強い、いや、強過ぎる。そこは問題ない。

…………問題は、その"強過ぎる力"を上手く扱ってもらえるかどうか…………

マイクルは、考えるのを諦めた。

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