第5話 始まり


   ▲



 「じゃ!異世界行ってくる!」

ガチャと優希ゆうきが、後ろ手にドアを閉じる。

閉まったドアを、眺めながらトゥリノは言葉をこぼす。


「………よかったの?わざわざ《死後の世界ベガ・アンドラ》から出てきて………ここに来て…………ここにいるって言う事が、どう言う事か分かってるよね?雅希まさき


霊体、つまり魂の《別の世界》での行動は、存在の消滅に関わる。

《別の世界》に居過ぎると、少しずつ体が透過していき、最終的にはどの《世界》からも、元々いない者とされる。自分の体が消える。人の記憶から消える。消滅する。


「………勿論、分かっているよ」


「………そか、分かってて……なんだね……」


「……すまないな、わざわざここに連れて来て貰って……」


「……こっちの方こそ、ここに連れて来て……」


「………………」


「…………」


無言が続く。

大きな何も無い空間に、静寂が溶け込む。


「………そろそろ、戻るよ」


雅希まさきが、口を開ける。


「………そうね、そろそろ戻るわ~」


紗世さよさんも、口を開けた。

無言のままトゥリノは、閉まったドアを開ける。


「……………またな」


「あんまり来るなよ?」


「……分かってるよ」


「じゃ~ね~、先行ってるわよ~」


手を振ってドアに吸い込まれる紗世さよさん。

完全に吸い込まれた事を確認して、雅希まさきがまた口を開いた。


「………優希ゆうきを………頼んだよ……"相棒"」


トゥリノは、相棒の"相棒"という言葉に嬉しさを感じながらフッと鼻で笑って、答えた。


「頼んでばっかりだな……分かった…………頼まれたよ、"相棒"」


それだけ聞いた雅希まさきは、同じように鼻で笑ってドアに吸い込まれた。

完全に吸い込まれた事を確認して、トゥリノは何も無い空間で、独り呟いた。


「………少し、頑張るか…」


ドアをくぐった。



   ▲



 「ここは……」


そこは、余りにも異様な光景だった。

何処かで見た事ありそうな、場所に来た。

でも………

…………思い出せない………

しかし、すごい場所に出た。


「大通り……」


転生したのだから、てっきり赤ちゃんからだと思っていたがそうでもないみたいだ。

体の感覚も、肌の色も指の長さも体の全てが、と全く同じである。

先ずは、ここでの自分のを確認する。

真後ろに、ガラスのショーケースがあった。

中には、安そうな剣や盾、弓なんかが置いてあった。

商品を眺めるふりして、自分の姿を確認する。

そこで俺は、感嘆か呆れかよくわからん声を出した。


「こ………これは……」


うなじの所まで伸びている黒い髪。

まぁまぁな高さの身長。

赤茶色の瞳、ツリ目気味な目、ちょっとキツ目の顔。

服は、汚れた青を基調としてあるTHE村人と言わんばかりの物。


「……お……俺だ………」


の事を呟く。

瞳の色と服以外、全部、細かい所までなんら変わっていない。


「……マジ………か…よ………」


俺は、また感嘆か呆れかよくわからん声を出した。

王都らしく、大通りの奥には、屋敷か城みたいなのが建っている。

少し歩く。

取り敢えず、何かを何とかせねば……………って


「何しよ、いや何すれば………?」


脇道に入る。


こう言う所は色々あって、面白いから好きだ。

すると、デカいに当たった。

そのはこっちを向いて、予想外な事をいってきた。

ん?動いた?


「よぉ、兄弟!こんな所でどうしたんだ?」


「ぅうおっ!喋った!」


辺りがビル(?)しかなく、陰っているせいか全身がよく見えないが、かなりの巨漢である事が分かった。

ガタイが凄く良い事も、分かった。


「失礼な………俺も人間だぞ?」


巨漢がそんな事を言っている。


「メンゴメンゴ~」


俺はそう言って、本題に入る。


「ここで生きるためには、どうしたらいい?」


と、聞くと巨漢は、ニッと笑ってその笑顔に似合わない事を言った。


「俺の手下になることだ!」


「わーお」


俺は、興味が無いオーラをムンムンに出しながら言った。

すると、巨漢が恐怖心を煽るような低い声を出した。


「さぁ、始まりだ」


すると、周りの建物の窓やらドアやらから、いかにもな人達が歓声を上げる。

「待ってました!!!」

「ジークロックさん!!やったれー!!」

「いいぞー!」

などと、声があがる。


「俺は ストル・ジークロック よろしくな」


巨漢が自己紹介をしてきたから、俺も自己紹介する事にする。


「ご丁寧にどーも。俺は、能間 優希だいま ゆうき


「変わった名前だな……聞いた事がない…」


ジークロックは、言葉を続いた。


「まぁいい、"負けた方が勝った方の言う事を聞く"ってのでいいか?」


「勝手に戦う事にすんな、いいけど」


ジークロックは、「よしっ!」と言って足元に魔法陣らしき物を展開させた。

そのを中心として、俺らの周りに半径25mぐらいのドームが生成された。


「準備、完了!さぁ始めるぜ!!」


ジークロックは、ゆっくりと構えた。


それを見て、俺は、ただ嗤った。


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