第4話 帰還、そして……



   ■



 白色の中、僕は進む。

奥にみえる《あっちの世界》の《扉》を目指して。

白い空間の中。

(ハクゴクは元気にしてるのかな?他の皆も大丈夫かな?心配し過ぎかな?)

と、考えていると《あっちの世界》の《扉》に着いた。

ガチャと、音を立ててドアノブを捻る。

ドアの先には、異様な、しかし見慣れた景色が広がっていた。

二つの声が、同時に耳に届く。


「お帰りなさいませ!章哉しょうや様!」


「ただいま。ハクゴク


僕は、優しく言った。


「元気にしてた?ハク


「もっちろんです!」


ハクと呼ばれた少年は、僕の言葉に対し、優しい顔を満面の笑みに変えて答えた。

昔より、少し髪の白みが増して、純白に近い色になっている。

体も、背が少し伸びて体格も男の子らしくなっている。


ゴク、ちゃんとハクのサポートはちゃんとできた?」


「まぁ………できる範囲では。安心して下さいよ、問題はございません」


ゴクと呼ばれた青年は、僕の言葉に対し、苦笑で返した。

昔に比べて、大人びた風格がムンムンに出てきている。

その風格が凛とした顔を引き立てて、イケメンに磨きがかかっていた。

この11年間で二人共、面影を保ったままいい感じに成長している。


「私には、何もないのですか?」


ゴクの後ろから、一人の少女がぴょこっと顔を出した。

頬を膨らませて、「むぅ~~」と唸っている。


「ごめんごめん。お土産は持って帰ってきてないんだ」


少女は、もっと頬を膨らませ、


「そういうのではなくてですね!!」


「ただいま、ベルル」


僕は少し笑いながら、言った。

ベルルと呼ばれた少女は、可愛らしい満面の笑みで


「お帰りなさいませ!!」


と、言ってきた。

この子、本当に16歳なのだろうか。雰囲気が幼すぎる気がする。


「ここは本当に変わらないな……出て行って11年も経ってるとは思えない」


章哉しょうや様がいつ帰って来られてても懐かしんで貰えるように、内装や外装は勿論のこと

ゴミの位置一つ変えておりません!」


ハクが胸を張って言ってるが……


「確かに、懐かしい感じはするけど……」


僕は言葉を濁て言う。


「さすがに………掃除してない…なんてことは……」


「そんな事はありません!ゴミが一つでも増えてしまっては、11年前と同じではなくなってしまいます!」


「そ、そうか………」


いや、なんか地味に凄い。

地味に、むっちゃめんどくさくて凄い事してる。

ここまでしてくれるとなんか、申し訳なくなる。

屋敷の中を懐かしみながら、巡る。



   ■



 壁にかかっている時計も、階段に置いてある花瓶も、自分の部屋の内装も何も変わっていない。

確かに何も変わってないなと、再度確認する。

ぐるぐるとまわっていると、一番と言っていいほど懐かしい場所にたどり着いた。


「……ここは」


「……ロビーですね」


いつの間にかついてきていたハクがぽつりと言った。

その装飾のいきわたった部屋には、二つの石像が立っていた。

一つは、筋肉質の男の石像。

大の字に体を張って何かを、守るように立っていた。

男のごつい胸には、手のひらサイズの魔法陣が掘ってある。

もう一つは、美しい女の石像。

こっちは、杖を持って何かに向かって、魔法を使おうとしている。

何処かの、何かの一場面を切り取ったように動きがある。

石像を眺めながら呟いた。


「もう………11年か……」


もう一度声に出して確認する。

余りにも信じられないから。

から、11年も経っているなんて。


「早いですか?時間が経つのは……」


隣でハクがそんな事を言う。

「ちょっとおっさん臭いよ」と、僕は笑って返す。


「もう少しまわってくるよ」


僕は、その場から退散した。

あそこであのまま、石像あれを見ていたら嫌でも思い出すから。

の事を………



   ★



 「あの野郎~~いってぇな!……ん?女だから…"あのアマ"か?」


僕は起き上がって、そんなどうでもいい事を、考えていた。

本当は、もっと重要な事を考えなきゃダメなのに。

取り敢えず、周りを見渡す。

中世のイタリアだかアメリカだかの感じがする。

行ったことないけど。

「ふぅ~」と溜息をついて


「取り敢えず、海外旅行みたいな感じでいいのか?」


まず、どうするか考える。

(宿か?……ん?僕は今お金持ってるのか?)

ポケットを探る。ひっくり返す。確認としてもう一度。

………何も無い……

それもそうかと項垂れる。

(仕事するにしても、戸籍みたいなのってあるのか?そもそも名前とかどーすりゃいいの?)

知らない地に来る事が、こんなにも恐ろしい事だと産まれて初めて知った。

勇気を振り絞って一歩を踏み出そうと足をあげたその瞬間。

遠くから、今いっちばん聞きたくない声が聞こえた。


「お~~い!響弥きょうや~!」


その声が聞こえた瞬間、声から遠ざかるように、ダッシュで逃げる。

逃げながら、叫ぶ。


「来るなああぁぁぁぁ!!!」


「逃げるなあぁぁぁぁぁ‼」


相手も、負けじと叫ぶ。

声の主が追って来る。


「お願い!!待って!わかんない場所に出ちゃう!!」


その声を聞いて、僕は足を止めて振り返る。

後ろを見ると、ようがぜぇぜぇ言いながら近寄ってきた。

息が整ったのを見計らって、問いただす。


「どういうことだ?お前は僕より少しだけ先にドアに入っただけだよな?そんな短時間で、ここに詳しくなるなんて……」


「えっ?あたしは3日前に来たけど?」


「どうしたの?」と僕の顔を覗き込んでくる。

……が、気にせずに考える。

確実に、時間がずれている。

考えても、僕の脳みそじゃ分からなかった。

他に頼れる人はいないし、ようについていく事にした。


よう、宿か何か泊まれる場所ってどっかないか?」


ようは腕を組んで、フフンと鼻を鳴らした。


「もっちろん!!あるよ!」


「お前……何処にそんな金があるんだ?」


「その事は後でちゃんと話すよ!ついてきて!」


ガシッと腕を捕まえられた僕は、そのままように引っ張られながらついて行った。


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