第3話 転生



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「すまない…君に…頼まれたのに…優希ゆうきをこんな目に………」

「いいよ仕方ない、そういう事だったんだろ」

「か、仮にも自分の息子が死んだんだぞ?!」

「ホントにいいんだよ?今こうやって、会えてるんだから、ね?紗世さよ?」

「ま、雅希まさき?本気でそう思ってるんじゃ……」

「あんまりうるさいと、あの子が起きちゃうわよ?」


 誰かの声がする。誰かが呼んでいる気がする。

目が覚める。

瞬間、目に入る景色は異様だった。

白い、全てが白い。

……が、人影もある。


「ここは?」


 周りをよく見ると、鏡が6方向に立ちふさがっている。

上から見ると、正六角形みたいな感じ。

天井と床は、白に染まっていた。

寝たままだと、この部屋(?)の全貌が分からない。

「よっこらせっ」と顔を上げると、そこで人影の姿がハッキリした。


「父………さん?母さん……?」


赤茶色のゆるふわが、肩まで伸びている小柄な女性が言った。


「ほら~、起きちゃった~」


ボサボサの黒髪、角ばった眼鏡がシルエットの高身長な男性が、


優希ゆうき、おはよう」


と一言。

 相も変わらず二人共、優しそうな顔をして、白衣を着ている。

最早、普段着である。しかも、白衣の中に着ているTシャツまで同じ。わーお。

と、もう一人立っていた。

白い髪、頭のてっぺんにアホ毛がちょこんと生えていた。

顔は、男女とも分からない中性的な顔をしていて美形。

顔の横には、白黒のネコ耳らしきものが垂れていた。

155㎝以下だろうか、小柄で執事服を着ている。

……………うぉ!ネコ耳!?

人かアイツ?

しかし、声は何処かで聞いたあの声だった。


「こんにちは、優希ゆうき


そう、あの女性の声(?)だった。

……が、しかし。


「えっと………猫じゃなかった?」


と小声でつぶやくと、


「おぉ!流石は雅希まさきの子供だ!一瞬で僕だって気づいたよ!」


と、喜んでいる。

こいつ、何者?俺を殺す気じゃ………

なんて、バカな事を考えていると、


「改めまして、こんにちはと初めまして、能間 優希だいま ゆうき君」


 後ろでは、頑張って~!とかキャ~!とか、聞こえる。

超うるせぇ。そもそも何を頑張るんだよ。

小柄な執事は、そんな外野を無視して話を進めた。


「僕はとある世界で、《創造神》をしているんだ」


「そーゆーの間に合ってます、ごめんなさい」


「っと、待って!ホントホント!ホントの本当に神様なの!」


「胡散臭いな………」


証拠を見せろと言わんばかりに、睨みつける。


「証拠?そんなのはないよ?」


「……っぇえ!?」


心を読まれた…………気がする。

なんだこいつ。

ますます、何者か分からんのだが………。


「そかそか、まぁ最初は皆そう感じるから」


また、心を読まれた…気がする。

今度は、後ろから


「違う違う!"気がする"じゃない、読んでるんだよ、コワイよな~」


父さんアンタが言うか!」


 何なんだこいつら?疲れるわぁ。

ん?ちっと待て?今更だけど…………


「ここ何処?」


「ぷっふ!ココハドコ? アタシハダアレ?だって母さん~」


「ふふっ本当にね~」


「おい!ちょ!んな事言ってねぇよ!」


「"今更だけど…………"って、ホンット今更だね~」


「クソ猫!あんたのせいだろ!サラッと人の心読んでんじゃねえぇぇ!」


と、三人と一匹(?)で騒ぐ。話が進まない。

早く説明しろ。


「分かった、ここは《君がいた世界》と、《君がこれから行く世界》の間」


だから、心読むなよコノヤロー。

後ろの二人は、まだ笑ってる。

……が、気にしない。


「間?そこは、狭間とかじゃねーの?」


「認識としては、今、部屋と部屋の壁に埋まってるって感じ」


「埋まって………ややこしいけど、なんとなく分かった。《いた世界》と《行く世界》って、ドユコト?」


本当に理解出来たわけではなく、感覚的にそう感じた。

そう感じざるを得なかった。この異様な景色。


「さっき、君はトラックに轢かれたでしょ?そこで死んだんだよ」


何を言っているのか解らない。

いや、待てよ?おかしくないか?

紅い水たまりを、見たのに。

自分の血を、見たのに。

俺は、今、ここで、生きているのだから。


「"生きてる"って認識は、間違ってないんだけど君は今、魂なんだよ。だけど魂の緒が切れてない。けど、あっちの体は、もうじき…………」


「どうなんだよ…………」


「肉体が崩壊を起こす、つまり…………死ぬ」


「…………っ!」


言葉が詰まった。

悔しさと言葉にできない、ならない感情が湧き出る。


「で、提案なんだが、僕の世界に来る気はない?」


「はっ?」


「さっきも言ったけど、僕は《創造神》なんだ」


ここまでくれば、もう解った。

けど、一応聞いてみる。


「それって…………」


「そう!《転生》してみないかって事!」


一つ、聞いてみる。

そうじゃないと、《転生》する気には、なれない。

自分が死ぬ?そんな事はどうでもいい。

面白くなければ、寧ろ、こっちから願い下げだ。


「その世界は、か?」


何処かで聞いた事のありそうなセリフを言ってみた。

小柄な執事は、「さぁ?」と誤魔化してきた。

知っている。こいつは俺が思ってる事を知っている。

俺の言うがどう言う事か解っている。

心が読めるんだから。


「そーだね。解ってる、よ?」


思わず、口がにやける。

覚悟が、決まった。いや、決まっていた。

面白かったら、即受ける。


「………受けるわ、その話。…んだろ?《あっちの世界》って」


小柄な執事は、ニッコリして言った。


「OK!承ったよ!これからよろしくだね!能間 優希だいま ゆうき君」


小柄な執事は続けて、自己紹介をした。


「かなり遅いけど、僕はルミオス・トゥリノ。《創造神》だよ。地球よりも、年上なんだ~」


吹き出しそうになる。地球より年上って事は、軽く46億歳は超えている事になる。わーお。

「さぁ!あっちにある扉に入って~!」と、指示するトゥリノに聞いてみる。


「なぁ、トゥリノ?お前、いくつだ?歳」


暫く、考えてるのか「う~ん」と唸った後に、衝撃的な事を答えた。


「あんまり数えないから、解らないけど……多分、75億2000歳ぐらい」


なんとなく、《創造神》に見えた気がした。

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