御供と浜本 その6
浜本はいつになくイラついている様子だった。とは言え、個人教誨において殊勝な態度を示したことがない。だが、これまでは意地の悪い発言を投げかけて御供の反応を楽しんでいる様子だったが、今回はまるで自分の苛立ちを御供にぶつけているようだった。
「あんた、見ていたらムカつくんだよ」
「すみません……」
「何で簡単に謝るんだよ、バカにしてんのか!」
「いえ、決してそんなつもりは……」
「まあ、俺は死刑囚だからバカにするのは当然だ。だったらそんな善人ヅラ下げて俺の前に出るなよ。その辺の連中みたいに軽蔑の眼差しで俺を見ろよ、この嘘つき野郎、嘘つくのは聖書に反しているんじゃねえのか!」
御供はもはや何と返して良いかわからなくなった。
「だいたいあれだろ、あんたが信じてるキリスト教だってそもそも大嘘だ」
「そ、そんなことはありません! 聖書は神の言葉、福音は真実です!」
「それが騙されてるんだよ。ヒトラーはこんなことを言ったんだ。人は誰でも小さな嘘をつく。しかし大きな嘘は怖くてつけない。だから大衆は大きな嘘に騙されるってな。これだけ歴史上、多くの人間がキリスト教の信者になった。……ヒトラーの論理に拠れば、キリスト教は史上最大の大嘘ということになるんだ」
「そんな、……冒涜するようなことは言わないでください。聖霊を冒涜してしまったら大変です、悔い改めの機会もなくなりますよ」
「悔い改め? 俺はどう足掻いたって吊るされんだよ。だいたいさ、あんたどうせ嘘つくならもっと大きな嘘つけよ。中途半端な嘘つきだから人の心を動かせねえんだよ! あんたの言ってることさ、全部薄っぺらいんだよ。結局自分が可愛いんじゃないか教誨師とかやってんじゃねえ、辞めちまえ! 俺に偉そうに悔い改めとか勧める前に、テメエ自身が悔い改めやがれってんだ!」
浜本の暴言を浴びながら、御供は呆然とした。そしてその言葉の一つ一つが御供の心の奥底をズタズタに切り裂いていった。何とかこれまで浜本の横暴に耐えてきた御供であったが、この瞬間、心底嫌になった。
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