第75話 アレクサンドリア図書館③
「これは禁書扱いですわね」
「クリピー、何が書いてあるの?」
「どうやら、古の悪魔を呼び出す魔方陣集のようですわ」
「ふ~ん、じゃあさ」
「試しにやりませんわよ?」
「え~」
楽しそうな二人だが、話している内容はあまり穏やかではないな。悪魔召喚とか、冗談じゃない。すぐにピーちゃんに灰にしてもらわないと。
「マスター、この本」
「ん? 何々・・・聖剣の作り方!?」
俺の言葉に周囲がざわめく。クリスティアナ様もフェオもみんな寄って来た。
「聖剣って本当に作れるんだ~」
「そ、そうみたいですわね。そんなものを作ることができたら、大変なことになりそうですわ」
クリスティアナ様がブルブルと震えている。確かに聖剣が量産されでもしたら、世界の戦争の在り方が変わってしまうだろう。そして、その被害は尋常ではないはずだ。クリスティアナ様が震えるのも分かる。
エクスは嬉々としてその本を開いた。その本があれば、自分の仲間が増えると思っているのかな?
「ん? 何かたくさん絵が描いてあるね。男の子と女の子かな? どっちも裸になってるから……分かった! 今からお風呂に入るところだね」
横から覗いていたフェオが見たまんまの感想を述べたようである。文字を解読するのが面倒なのか、フェオは絵しか見ていないようだ。
「ん、そうみたい。聖剣はお風呂の中で作るもの?」
首をかしげたエクスはさらにパラパラとページをめくっていく。俺はその挿し絵を見て絶句した。
これ、聖剣の作り方じゃなくて、子作りの本だ。しかも、かなり生々しいやつ!
それに気がついたクリスティアナ様とフェオはリンゴのように赤くなっている。
「ちょ、ちょっと何ですのこの本はー!」
そう言って両手で顔を隠したが、気になるのか指の間からチラチラと本を見ていた。一方のフェオはやはり興味を隠せないのか、真っ赤になっても興味津々とばかりに本に張り付いている。
これは教育上良くない。しかし、そろそろ無防備なエクスにも性教育が必要な気がしないでもない。どうするかな。
「うっわ、見てよこれ。おっぱいが凄いことになってるよ!」
「ゆ、指を、そ、そんなところに入れるだなんて・・・」
おっと、これはやっぱり良くないな。変な知識を覚えられると敵わない。
「これ、マスターの体に生えてた。こうやって使うものだったみたい。これで聖剣が作れる? いや、まだ先が・・・」
「はい、そこまで」
俺は聖剣の作り方あらため、エロ本を回収した。
「ああっ! いいところだったのに!」
「マスター、それは大事な本。その本があればマスターと一緒に新しい聖剣が作れる」
確かに新しい聖剣が作れるかも知れないが、俺達にはちょっと早いのではなかろうか?
「そうだよ。シリウス返してよ~。その本があれば新しい妖精も作れるはずなんだからさ~」
フェオがこんなに関心を示すということは、ひょっとしてフェオは、人間の夜の営みについて、本当はよく知らないのかも知れない。そのうちエクスと一緒に、きちんと教えておいた方がいいだろう。
「この本は没収します」
「ああっ!」
何も知らないエクスが悲鳴をあげた。ちょっと可哀想だが、今は我慢して欲しい。そのうち手取り足取り教えてあげるからさ。
「シリウスのけち! あとで一人でコッソリと読むつもりでしょ! 分かってるんだからね!」
「ち、ち、違う違う!」
俺は即座に否定した。このままではあらぬ噂が立ってしまう。あ、クリスティアナ様が汚物を見るような目でこっちを見てる! 誤解ですよ、ハニー!
「それではこの本は、私がちゃんと管理しておきますわ」
クリスティアナ様はニッコリと微笑みながら俺の手から「聖剣の作り方」の本を抜き取った。
あとにはしょんぼりとした三人だけが残された。
それから数日間は何事もなく仕分け作業が続いていった。
俺達が片付けていた古い本は全て禁書とし、許可がなくては入れない場所に保管することにした。
これにはちゃんと意味があり、禁書とした本は現代語に翻訳し直して表に出すつもりなのだ。
古い本はその存在だけでも価値がある。劣化を防ぎ、後世にその姿を残すためにも必要だと判断した。そのうち博物館でも作って展示するのもいいかも知れない。
館の各部屋には本棚だけではなく、もちろん机や椅子も置いている。
屋敷には使われなくなった机や椅子がたくさんあったので、捨てるよりかは、と説得して使わせてもらえることになったのだ。そのため、普通の図書館よりも設備がゴージャスになったことには目を瞑ってもらいたい。
準備も着々と進み、何とか冬が終わる頃までには形になりそうだぞ、とほくそ笑んでいる頃、それは起こった。
ベッドの上でのクリスティアナ様の様子が何かおかしい。
いつもならばこちらを向いて、俺の腕に体を絡ませて寝ているのに、今日に限ってはこちらに背中を向けている。
これまでなかったクリスティアナ様の塩対応に戸惑いを隠せなかった。
「く、クリスティアナ様? どうかしましたか?」
「べ、別に何でもありませんわ」
どう見ても何もなかったような態度ではないのだが、本当にどうしてしまったのだろうか? 俺また何かやっちゃいましたかね?
「クリスティアナ様、私が何か失礼なことをしてしまいましたか? 悪い点は直しますので、教えてもらえませんか?」
「そ、そんな、シリウス様に何も悪いことなどありませんわ!」
とは言うものの、依然としてこちらを向かないクリスティアナ様。どうにも様子がおかしい。
「クリスティアナ様?」
俺はクリスティアナ様の背中にピッタリと自分の体を寄せ、彼女のお腹辺りに手を当てた。
「ひっ」
ビクリと反応したクリスティアナ様は小さな可愛い悲鳴をあげた。
うん、何となく分かってきたぞ。さてはクリスティアナ様、あの本を読んだな?
「クリスティアナ様、ひょっとして「聖剣の作り方」の本を読みました?」
「ななななんのことですの?」
この感じ、読んだな・・・。さすがにクリスティアナ様には早い内容だったと思うのだが、それで羞恥のあまりこちらを向くことができないでいたのか。
俺はクリスティアナ様のお腹辺りを撫でていた手を少しずつ下へと移動させていった。
「あ、や・・・ちょっと、シリウス様!?」
「ん? どうしたんですかクリスティアナ様?」
「し、シリウス様の手が」
「私の手が?」
俺の手はゆっくりとおへそ辺りを通過していた。
「み、見ましたわ! でもちょっとだけ、ほんのちょっとだけですわ!」
クリスティアナ様が白状した。意外と早かったな。もうちょっと粘ってくれたら・・・いや、ここで良かったんだ。
「クリスティアナ様にはまだ早すぎる内容だったと思いますが?」
「うう・・・でもこれを見ればシリウス様を満足させてあげられるかも、と思ったら、つい・・・ちょ、シリウス様!?」
その言葉に思わずクリスティアナ様をきつく抱きしめてしまっていた。まさかそんなところまで考えていたとは思わなかった。
まだ子供だと思っていたが、俺もそろそろ一人の女の子として、クリスティアナ様と向き合う必要があるのかも知れない。まだ子供だと言い訳をして、逃げていたのかも知れない。
「ありがとう、ティアナ」
「し、シリウス? あっ」
まだどこか恥ずかしそうに俺の名前を呼ぶクリスティアナ様。ようやくこちらを振り向いたティアナに口づけを落とした。
さっきのエロ本の話もあり、ちょっと大人の口づけになってしまったが、許して欲しい。唇を離したティアナの顔はトロンとまどろむような惚けた顔をしている。
「ティアナ、次はどうなっていたんだい?」
「え、えっと、次は寝間着を・・・」
「ちょっと、二人で何やってんのよ?」
「お姉様だけズルイ。私も混ぜて欲しい」
半眼でこちらを睨み付けるフェオ。3Pが希望のエクス。
どうしよう。
「ふ、二人とも、何でもありませんわ! 気のせいですわ! ほら、夜ももう大分更けておりますわ。早く寝ないと、明日に響きますわよ! お休みなさい!」
クリスティアナ様は急いで毛布を頭から被った。せっかくいい感じだったのに。
ポカンと口を開けているフェオとエクスを寝床に促し、俺も眠りについた。
まあ、当然のことながら、空が白み始めるまで寝付くことができなかった。
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