第74話 アレクサンドリア図書館②
こうして始まった図書館作り。だが、思った以上に大変な作業になりそうだった。
「これ、何語?」
【我が主よ、それは現在エンシェントエルフと呼ばれているエルフの祖先が書いた書物ですな】
何それ、古い。一世代前の文字でも読むのが大変なのに、それよりも遥か以前となると、読める人はいないだろう。
「ちなみにクロは、これ、読めるの?」
【もちろんですとも。何々、人参、じゃがいも、牛肉・・・これは料理の本ですな】
何でそんなものが・・・。何だがよく分からないけど、珍しいので買っちゃいました感が半端ない。これはあれだな、金持ちの道楽だな。
【ピーちゃん】
「ああ、ピーちゃんにはお願いしたいことがあるんだよ」
俺は声を落としてピーちゃんに囁いた。
「もし、本の中にヤバそうな本があったら燃やして欲しいんだよ。今見たように、理解できないけどコレクションで買った本もたくさんあると思うんだよね。その中には解読されるとよろしくない本も混じっていると思うんだよね」
【ピーちゃん・・・】
「仕方がないよ。これでも王国初期から続く公爵家だからね。自慢するわけではないけれど、お金は無駄にあったはずだからね。無駄遣いもかなりしていたと思うよ。ま、それを正すのも、子孫の仕事のひとつさ。図書館作りに役に立つのは間違いないしね」
【ピーちゃん】
「ありがとう。それじゃ、頼んだよ、ピーちゃん」
俺はピーちゃんの頭を撫でて、本を分ける仕事に戻った。
まず俺達は本の区分け作業から入った。種類ごとに、と初めは思ったのだが、それよりも前に書かれている文字ごとに分ける必要があったのだ。
「思ったよりも色んな文字がありますのね。私達が読める本と読めない本に分けるだけでも大変ですわ」
床にも棚にも山のような本。さすがに大変である。
魔法で分けようかと思ったのだが、区分するための情報が少なくて、難しかった。
背表紙で分けようにも、背表紙が書いてあったり、なかったり。中を確認するとなれば、一冊一冊本を開いて見なければならず、それなら手作業と変わらない。本の表紙は本が重なっているため、分からない。電子化してくれれば簡単にできるのに。
こうしてチマチマとした作業が続いていった。もちろん、俺達だけでなく、使用人にも手伝ってもらっているが、人手不足は否めない。公爵家内部での作業なので、外から人を雇えないのがネックである。
区分け作業だけで数日かかったが、ようやく文字ごとに分けることができた。そしてそれにより、ある程度の年代ごとに本をまとめることができたことになる。
「こっちの部屋が最近の本、こっちがちょっと前の本、そして向こうが古い本だね」
「こう見ますと、本の数が急に増えたのは最近のようですわね」
「そうみたいですね。だからこそ、古い本が貴重なんですよ。大事にしないといけませんね」
まだ積み重なった状態ではあるが、当初よりかは大きく前進している感じがする。
「よーし、次はいよいよ中身の確認だね。何が出るかな、何が出るかな~♪」
フェオはご機嫌に鼻歌を歌っている。俺としては何も出ないで終わって欲しい。ここでまた何かあると、また俺のせいになりそうだ。
最近出版された本の分類は使用人達に任せ、俺達は、数は少ないが解読が困難な古い本の分類を担当することになった。
「えっと、これは怪獣図鑑かな? うわ、昔は本当にドラゴンとかいたのか・・・その時代に産まれてなくて良かった」
「こちらは植物図鑑のようですわね。絵が描いてありますが、パッと見たところ、どれも見たことないものばかりですわね。秘薬の材料などになるのでしょうか? あ、こちらの植物は何かウネウネした気持ち悪い蔓を持ってますわ」
パラパラと本をめくり、内容を確認していく。
今では暗号と化してる文字を解読するべく、クロに頼んで文字の解読表を作っておいてもらった。ひょっとしなくてもこの表は、学者にとって喉から手が出るくらい欲しいものだろう。あげるつもりは今のところはないけどね。
解読表があってもなかなか作業は進まなかった。それは、本が手書きであるため、書いてある文字に個性があるからだった。要は字が汚くて読めないものがあるのだ。
まともな本になっていないのもあり、走り書きや、日記のような紙切れもあった。ゴミにしか見えないが、貴重なものだと信じたい。
「見てよシリウス! この本、カッコ良くない!?」
フェオはガチガチに封印されていると思われる本を持ってきた。本には鎖のようなものが幾重にも巻かれており、中央に鍵穴がある、見るからにヤバい代物だった。
「本当だね。ピーちゃんに灰にしてもらわないとね」
チラリとピーちゃんを見ると、待ってました! とばかりにこちらへ飛んで来た。
「待って! 待ってよ!! 凄い秘密が書かれてるかも知れないのよ? せめて中身を確認しようよ~」
フェオが騒ぐから、何だ何だとみんなが集まって来た。クリスティアナ様もこの異様な本を見て顔が引きつり、俺の腕しっかりと抱いている。
「何ですの、この禍々しい本は・・・見るからに開けてはいけない本ですわ」
「クリスティアナ様もそう思いますよね。やっぱりピーちゃんに灰にしてもらいましょう」
【ピーちゃん!】
「ちょ、ちょ待ってよ~! クロ~、これなんて書いてあるの?」
フェオが必死になっている。面白そうなものを見つけたときのフェオは本当に感情豊かな表現をする。見てるだけで飽きないな。
【少々お待ちを。・・・えっと、「パンドラの書」と書かれていますね】
「パンドラの書? それってエロ本?」
フェオが首をかしげてクロに聞いている。エロ本かも知れないが、題名的に開いてはならない本であるのは確実だろう。
「シリウス、早速開けて見ようよ!」
「いや、ほら、鍵がないから無理だよ」
「え~、シリウスは何でも開けちゃう魔法持ってるじゃん!」
くそ、覚えていたか。イタズラに使えそうなことだけは本当に物覚えがいいな。
「灰にしてあげなさい!」
【ピーちゃん!】
「ああっ!」
怪しげな本は無残にも跡形もなく消え去った。パンドラの書って、パンドラの箱の親戚みたいなもんだよね? あれって確か中に災難が入っていたんだよね? そんな危ないものの親戚とか、開けるわけないだろ、常識的に考えて。何でそんな危ないものがこんなところに? まあ、いいか、無事に処分できたことだし。
フェオはまだブーブー言っていたが、甘味をあげたらすぐに機嫌を取り戻した。女の子ってチョロいな。
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