第33話 おでかけ

 改めて見る異世界の街並みは、かつて友人達が噂していた世界とは少し異なっていた。

 人種も人族のみであり、エルフやドワーフ、小人や獣人などは見ることはできなかった。

 古い本によると、今でも深い森の奥深く、暗い地底の奥深くにはそれらの種が存在していると書かれていたが、真偽は定かではない。

「お城もそうだったけど、お外もホント人族ばっかりたよね~。みんな何処に行っちゃったんだろ?」

 長い間お城に閉じ込められていたフェオは、当然のことながら世界の変化を知ることはなかった。疑問に思ったことを口に出し、小さく首を傾げた。

「以前は他の種族も居たのかい?」

 これは昔を知るチャンスだと思い聞いてみた。クリスティアナ様も気になったのか、静にこちらに耳を傾けている。

「前はね~、エルフ族とかドワーフ族、獣人族や魔族なんかがいたよ。もちろん妖精もね」

「色んな種族がいたんだね。精霊は居なかったのかな?」

 確か遥か昔に存在していた、と神話の本に書いてあり、度々その高貴なる存在が描かれていた。

「精霊~?ここに居るじゃない」

 エッヘン、と胸を張るフェオ。確かに力は精霊並みにあるようだが、フェオが精霊だと認めてしまうと、他の精霊達に怒られそうだ。

 しかし、そこで合点がいった。

「なるほど、精霊なのか妖精なのかは人族が勝手に決めたことなのか。精霊の中でもイタズラ好きな精霊達を妖精と勝手に区別して呼んでる訳だね」

「そういうこと。崇め奉ってもいいのよ?苦しゅうないぞよ!」

 段々と調子に乗ってきたフェオ。それこそがまさに精霊に成れなかった所以だろう。まあ、フェオらしくて俺は今のフェオの方が好きだが。

 何処か安心した様子でフェオを眺めていると、今度はクリスティアナ様が疑問を呈した。

「それでは精霊も妖精と同じく世界全体の魔力が減ってしまったから居なくなってしまったのですか?」

「ううん、違うよ?あの子達はあたし達と違ってさ、物凄く考え込む子達だったのよ。あたし達みたいに、落ち込んでも直ぐに立ち直る強い心があれば、まだ残ってる子が居たかも知れないけどね。あの子達は自分達の持つ力を恐れたのよ。好きに使っちゃえば良かったのにね。それで、考え込んだ挙げ句に自分達の力を分散することにしたのよ。それで居なくなっちゃったってわけ」

 精霊も妖精と同様にかなり強力な力を持っていたはずだ。それを好きに使うのはどうかと思うが・・・力を分散したということは、この世界の魔力として還元したと言うことなのだろうか?

「分散、とは?」

 クリスティアナ様もよく分からないようで首を傾げている。

「えっとね~、エルフとかドワーフとかになっちゃったのよ」

「なるほど。エルフ、ドワーフの元をたどれば、精霊に行き着く訳だ。そうして他の種族を作り、力を分散することで、自分達の力を弱めたわけだね」

 そこまでするのは大変な労力が必要だったことだろう。精霊は強く、賢い種族だったのだろう。だからこそ、この世界に強すぎる力があることを恐れた。それは優しい種族だったとも言えるのかも知れない。

 自分勝手な妖精とは大違いだ。

「何よ、そのいやらしい目は!」

「いや、何でもない。っていうか、いやらしい目は別にしてなかっただろう!?」

 冤罪だ。フェオに嵌められるところだった。

 確かに最近、フェオのプリプリのお尻にさらに磨きがかかっているな、とは思っているが、断じて冤罪だ。

「それでは何故、エルフやドワーフ達は居なくなってしまったのでしょうか?」

「その答えなら、以前読んだ本の中にありましたよ。何でも、エルフやドワーフといった古来種と呼ばれる種族は、とても長寿だったそうです。その反面、繁殖力が非常に弱く、その数が増えるのには時間がかかったそうです。そしてそれらの種族も人族と同様に各地で争い事が絶えず、さらにその数を減らしたそうです。そうして残ったのが、彼らよりも繁殖力が高い人族だったというわけです。今でも何処に生き残りがいるのでは?と言われてますが、本当なのかも分からないままですね」

「争い事を起こすのは人族だけではなかったのですね。精霊の持つ力を弱めることには成功したのかも知れませんが、子孫が争い事で絶滅するなんて考えてもなかったでしょうね。何だか残念ですわ」

「精霊はみんな仲良しだったもんね。喧嘩するなんて想像できなかったのかもしれないわ。それに引き換え、あたし達は喧嘩上等!だったもんね。喧嘩してみんなと仲良くなったもんよ」

 当時を思い出したのか、ウンウンと頷くフェオ。喧嘩するほど仲が良いということか。

 だが、ちょっと待って欲しい。計り知れない力を持つ妖精が喧嘩をすればどうなるか。それは恐らく天変地異となり、空も海も大地も大変なことになっただろう。

 エルフやドワーフ達が居なくなったのは彼らのせいだけが原因ではないのかも知れない。気にするといけないのでフェオには言えないが。

 それでもしぶとく生き残った人族は、繁殖力と生命力だけならG並みなのかも知れない。自然淘汰という概念は、ここ異世界でも十分に通用するようだ。


 フェオとそんな攻防をしていると、最初の目的地についた。

「うわぁ、凄い!人がいっぱいいる!沢山よく分からない物が並んでるけど、もしかしてお店!?」

 そう、ここは多くの人が行き交い、沢山の珍しい品々が並ぶ市場。そこかしこから賑やかな声が聞こえる。

「とても賑やかですわね。何度か城下に出たことはありましたが、こんなに人や物が溢れている場所は初めてですわ」

「ここは貴族だけではなく、多くの庶民が利用する市場なのですよ。高級品ばかりではありませんが、種類や物珍しさでは負けてませんよ」

「シリウス、あれが見たい!」

 グイグイと肩を引っ張るフェオに連れられてその店の前までやってきた。

 そこには品質は最高級ではないものの、それなりに質の高い宝石が並んでいた。妖精は光り物が大好きだ。この店に引き寄せられるのも当然と言える。

「クリピーの持ってる物よりもキラキラしてないけど、それでも綺麗よね~」

 フェオの目もキラキラしている。

「これは宝石の原石に近い状態だからね。これにさらに磨きをかければ、もっと綺麗に輝くよ」

 ふと、手前にあるダイヤモンドらしき宝石が目についた。加工は今一つ。現代風に加工すればもっと見栄えが良くなりそうだ。それほど大きくはないが、その分値段も手頃であり、実験に使えそうだ。

「これをいただいても?」

「もちろんですとも!」

 店主はこんな子供が宝石を買うことに何の不信も抱かず、喜んで宝石を売ってくれた。その後も幾つかの宝石を買って、その店を後にした。

「そんなに宝石を買ってどうなさるのですか?」

 不信に思ったクリスティアナ様が聞いてきた。それもそのはず。俺は宝石なんて物には興味がなく、身に着けたことなど殆どない。唯一の例外が腕輪型のエクスである。

「いやね、ちょっと自分でアクセサリーを作って見たいと思いましてね」

 俺はニタリと笑った。その顔に何か良くないことを思い浮かべたのか、クリスティアナ様の顔が一瞬だけ引き吊ったが、すぐにまた元の笑顔に戻った。

「どのような物が出来上がるのか、楽しみですわ」

「ほんと、どんなオーパーツができることやら」

 フェオがまたか、と肩をすくめた。大変失礼な奴だ。さすがにアクセサリーでは騒ぎにはならんだろう。と、たかをくくっていた。

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