第34話 大量!大人買い!

 続きて我ら一行は王都一の規模を誇る本屋へとやって来た。

 ハッキリ言うと、この世界の印刷技術は低水準だ。いや、印刷技術だけではない。王国が誕生してからもう何千年も経つと言うのに、技術水準が低いのだ。技術の進歩が極めて遅い、とも言えるのかも知れないが、その訳には思いあたる節があった。

 それは魔法の存在である。

 全ての種類の魔法を使うことはできないが、全員が何かしらの魔法を使うことができる。

 生活に密着し、とても便利で、とても頼りになる魔法。その便利さゆえに、技術の進歩を犠牲にして、魔法の進歩を最優先とした結果、今の状況になっているのではないだろうか。

 そういった事情もあり、現在の印刷技術では本の大量生産はできないでいた。そしてその媒体も紙のみである。一応は石碑から進化はしているようだが、更なる進化は当分先だろう。

 本を複製する魔法を開発中らしいのだが、1ページ毎に違う内容が書かれたものをどうやって複製するのか、未だにその方法が解決しないらしい。さらには全ての本が手書きなため、毎回違った文字を判別する必要があり、そのために新な文字判別の魔法が必要になるという有り様。

 共通規格の活版印刷を考え出した人は本当に偉大である。異世界に来て初めてその有り難さが身に染みた。

 俺が提案すれば?という話ではあるのだが、それはそれ。これはこれである。もし万が一暇になったら考える。

 そういった訳で、一冊一冊丁寧に複製される本は庶民にとっては高級品であった。

 そのせいもあってか、王都には図書館がそこかしこにあり、連日多くの人で賑わっていた。

 ちなみにこの後に行く予定である。

「う~ん、家よりも本の数が少ないね」

 入った瞬間にフェオのこの一言。

 率直な意見をどうもありがとう。店主の驚きと怪訝な表情の入り雑じった複雑な顔が見えた。

「本は貴重で一品物が多いから、購入すると次に入荷するまで本屋から無くなっちゃうんだよ。だから本の数が少ないのは、この本屋が皆が欲しくなるような本を揃えている証なんだよ」

 俺の素晴らしいフォローによって店主はみるみる機嫌を取り戻した。

「シリウス様、ご無沙汰しております。長らくこちらにいらっしゃらなかったので、愛想を尽かされたのではないか、と危惧しておりました。その、あの、お連れの方はもしかして・・・」

「ああ、紹介するよ。俺の婚約者のクリスティアナ王女殿下と妖精のフェオと聖剣エクスガリバーだ」

 スズイと三人を押し出した。

 店主は・・・目玉を飛び出してひれ伏せた。

 そうだよね、妖精の紹介がなされると思っていた所に、王女殿下と聖剣だもんね。

 こうなることは分かっていたが、これからも連れてくる可能性が非常に高いので我慢して欲しい。

「頭を上げて下さいませ」

「苦しゅうないぞよ」

「・・・」

 エクスはどうやら反応に困っている様子。こんな時にどんな顔をして、どんな受け答えをすれば良いのか分からないようだ。

 エクスにはどちらの受け答え方を選んで貰ってもいいが、個人的にはフェオのような受け答えではなく、クリスティアナ様のような慈愛のある方を選んでもらいたい。

「まさか、これほどまでにいと貴き方がいらっしゃるとは思いもよらず、大変な失礼をいたしました」

 きっと、さっきのちょっと無愛想な態度のことを言っているのだろう。

 この本屋の店主はその品揃えに自信を持っており、フェオの本が少ない発言にムッとなったのだろう。その気持ち、分からないでもないが、お客様あっての商売だということもご理解いただきたい。

「気にしておりませんわ。それよりも、本を見せていただいても?」

 優しいクリスティアナ様の言葉にホッと安心した様子の店主は、もちろんです、と店の中を案内してくれた。

 おお、新しい魔法研究の本が出版されてるみたいだな。こっちは新作の杖一覧か。魔物図鑑は前と同じ、武器は幾つか新作が作られているみたいだ。

 掘り出し物の骨董品の本は・・・古い字体で書かれた日記?のようなもの、何かしらの魔方陣のような物が沢山書かれた本。これは刺繍の図案のようだ。そして古に存在した生物について書いてある本。全部まとめてお買い上げだ。

 大概の本を買っていくので、俺はこの店の上得意様になっている。

 ちなみに魔方陣はこの世界に存在し、主に魔道具に組み込まれている。

 ただし、魔方陣によって発動される魔法は、誰でも使えるという利便性を持つ反面、その魔法性能は低く、実用性に乏しい物が多いのが現状だ。

 大量の本を抱え、ホクホク顔で店内を移動し、更なる本を買い漁る俺を見て、まだ買うのか、とフェオが呆れた顔で見ていた。いや、フェオだけでなくクリスティアナ様も口をポカンと開けてこちらを見ていた。

「シリウス様は図書館でも作るおつもりなのですか?」

「え?ああ、それもいいですね。公爵領に世界最大のアレクサンドリア図書館を作るのを目標にしてもいいかも知れません」

「もう名前まで決まってますの!?」

 モチのロンじゃよ。

 フフフ、新な目標ができた。もっと本を買い漁らなければ。

「クリピー、シリウスを止めた方がいいんじゃない?何かヤバい顔してるよ?」

 俺の顔を見て二人が囁いているが気にしない。

 マイペースエクスが絵本を大量に持ってきたが、将来的に子供達にも来てもらえるようにするつもりなので問題ない。全部買った。

 どうやらエクスさんは文字を覚える所から始める必要がありそうだ。こりゃうっかり。家に帰ったら早速勉強だな。

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