第14話 ブートキャンプ①
「まさかこの城に妖精が封印されていたとは・・・」
「誰、このオッサン」
「こちらの方は私のお父様、ジュエル王国の国王ですわ!」
フェオちゃんのぞんざいな口の聞き方に、クリスティアナ様が慌てて国王を紹介した。
ここは城の中の執務室。普段は限られた人しか入ることが許されない、とても機密性が高い場所だ。
妖精であるフェオと主従関係になったあと、どうしても国王にその事を報告して欲しいとクリスティアナ様専属使用人に頼まれて、この部屋にやってきた。
「ふ~ん、シリウスの方がよっぽど王様っぽいけどね」
人間の国王など知らんと言った口ぶりであり、態度も改める気も無いようだ。
クリスティアナ様がアワアワし出したので、代わりに紹介した。
「国王陛下、妖精のフェオです。縁逢って、主従関係を結ぶことになりました」
「妖精と主従関係を結ぶとは驚いた。妖精などお伽噺の話だとばかり思っていたよ。もしかして、お伽噺の通り強力な魔法が使えたりするのかい?」
国王陛下が読んだお伽噺に妖精が強力な魔法を使う描写が本当にあったのかどうかは分からないが、早速、国王が探りを入れてきた。
「もちろんよ。この国くらいなら、小指でチョイよ」
フェオが可愛い小指とちょこんと弾いた。こちらも本当かどうかは分からない。だが、真意のほどが分からない故に国王陛下は危機感を覚えたようだ。
「フェオ、あまり物騒な事を言ってはいけないよ。フェオの力を借りなくても、ガーネット公爵家だけでも王国と互角に渡り合えるのだからね」
その上で妖精の力も加わる。国王陛下の顔色が一層悪くなった。
「シリウス、あんたも大概物騒な事を言ってるわよ」
これは脅しだ。フェオやこちら何か側に手を出せば、それ相応の報いを受けることになるだろう。
「クリスティアナがシリウスの婚約者で、本当に良かった・・・」
国王陛下は心の底からそう呟いた。クリスティアナがシリウスと結婚すればこの国は安泰だろう。シリウスはガーネット公爵家を継ぐ。そしてクリスティアナの実家はここだ。両者の結びつきはより強固なものとなる。
「魔王の杖?そんな物があるなんて、聞いたことないわ」
城に用意された自室にて、早速、例の杖の事を聞いてみたが、どうやら存在していないようだ。ならば、ゲーム上でラスボスの魔王が持っているが故に、便宜上、そう呼ばれるようになった可能性がある。
つまり、俺が今使っているその辺に売っていたありふれた杖でも魔王の杖と呼ばれることになる可能性があるということだ。
「あとは自分の意思次第、という訳か」
ふう、とため息をついた。魔王の杖を探すだけ無駄かもしれない。なるようにしかならないのかな?
「な~に~?その魔王の杖とか言うのが欲しいわけ?だったら代わりに、フェオちゃん特製の妖精の杖をあげよう」
「いや、いいです」
即答した俺に、フェオがそんな!という顔をしていた。そんなにショックか?だがしかし、何かその杖もヤバイ杖のような気がする。そして、もう1つの可能性に気がついた。
もしかすると人間が勝手に魔王の杖と呼んでいるだけで、本当は違う名前の杖なのかも知れない。そしてそれが妖精の杖なのかも・・・
今後は強力な力を持つとされる杖を全て疑ってかかった方がいいだろう。そして、怪しい杖は、へし折ろう。
「えぇ~つまんない~」
「ちなみに、フェオさんや、その妖精の杖はどんな杖なんだい?」
「ふっふっふ、使う魔法の威力が数万倍になる楽しい杖よ!」
フェオが物凄くいい顔をして、胸を張り腰に手を当てて言った。それヤバいやつー!!!
「数万倍って・・・フェオさんや、君は私を魔王にしたいのかい?」
「あれ?魔王になりたいんじゃなかったの?」
「違いますぅー」
これは勘違いされているな。あとでしっかりといい含めておかないと、あることないこと言われそうだ。この場で妖精の杖をもらってすぐにへし折ったら、フェオちゃん泣くかな?ちょっとそれをやる勇気はないかな・・・
「黄金色の魔力を纏ってるし、いけると思うんだけどなぁ」
「・・・」
口に饅頭でも詰めて、今すぐ黙らせるべきか、真剣に悩んだ。
城に滞在するようになってから数日が経ったが、図書館と自室を往復する日々は続いていた。今は世界中の有名な杖について調べている。
「流石に図書館との往復と、クリスティアナ様との散歩だけでは運動不足になるな。何だか体も鈍ってきた感じがするし、何か運動する方法を考えないと太るかもしれない」
太る、という単語にクリスティアナ様がピクリと敏感に反応した。
「それならば、城の騎士達の訓練に一緒に参加するのはどうでしょうか?訓練施設は城の敷地内にもありますし、そこならいつでも自由に参加することが出来ますわ」
「なるほど、それはいい考えですね。実家にいた頃も騎士の訓練に参加させてもらっていたので、丁度いいですね」
「ふ~ん、人間って、大変ね。私は太らないから運動なんて必要ないわ」
フェオが胸を反らせて答えた。確かに魔力さえもらえれば大丈夫と言っていたし、人の物を食べるのはただの興味からなのかもしれない。でも本当に太らないのかな?ちょっと疑問だ。
「じゃあフェオは留守番だな」
「い・や・よ!そんな面白そうなこと、見過ごすわけないじゃない。そうだわ!訓練してる人間達の体重を重くして、どれだけ耐えられるか試すのも面白いかも!」
さも良い考えだとばかりに両手を叩いた。戦闘民族が量産される恐れがあるので、取り敢えず止めよう。
「フェオ、騎士達はこの国を守れるように真剣に訓練しているんだよ。イタズラするのは控えた方がいいかな」
ダメ、絶対!というと、へそを曲げる恐れがあるのでやんわりと諭した。妖精にへそがあるのかは知らないが。
「え~、しょうがないなぁ」
口を尖らせて不服そうではあったが、理解してくれたようだ。
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