配役を決めて、いよいよ練習です!
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休み中に演目を決めましたし、では休み明けの部活動は、いよいよ練習——ではありませんでした。
「配役……ですか?」
放課後、そしてようやくいただけました部室にやって来た僕は、部長の
配役なにやりたい——と。
演目は、『竹取物語』——いわゆる、かぐや姫の物語です。
そのストーリーのなかで、僕がやりたい役を尋ねられたのですが……困りました。
「それって、立候補で決めるのです?」
「ん〜。本当の劇団なら、脚本家が配役分配するんだろうけれど、私たちは部活動だからねえ。お金を稼ぐためじゃあなくて、楽し〜くお芝居をやりたいグループだからあ、立候補で決めようかなあ、ってねえ〜」
「な、なるほど……」
「と言っても、いきなり考えるのは難しいわよねえ」
「はい。僕はずぶの素人ですし、なかなか良い返事、といいますか、これがやりたいです、というものが……」
僕がやりたいとすれば、男らしくて、そのキャラクターから男らしさを学ぶことが出来る、男の中の男、いわば『人生の教科書』みたいな、たくましい屈強な男なのですが……『竹取物語』、かぐや姫の物語では、そんな僕のバイブルになりそうな登場人物、居ませんよね? たぶんですが。
「てか僕、お勉強不足でお恥ずかしいのですが、そもそも『竹取物語』をきちんと読んだことないんです……」
「あら〜。そうなのお?」
「……はい。昔話として、なんとなく知ってるだけ、って感じなのです」
「そっか〜。ひょっとして、ほかのみんなもそんな感じかしら〜?」
「それは皆さんにお聞きしないとわかりませんが」
「そうねえ。じゃあ配役を決める前に、そのお話からしましょうか。今日の部活は、『竹取物語』を学ぶ時間にしましょうね〜」
「よろしくお願いします!」
「うふふ〜。いいのよ〜」
ああ、静露先輩は優しいです。なんと言いますか、年上の女性の余裕(?)を感じます。
「なにか失礼なことを言われた気がしたわ」
「うひゃう!」
前触れなく。唐突に登場した熊猫さん。
いえ、普通に部室のドアを開けて入室して来ただけなのですが、なにぶんエスパーじみたことを言いながらの入室でしたので、僕的にはワープして来たかのように驚いてしまいました。
「こんにちは、静露さん」
「こんにちは〜熊猫ちゃん」
このお二人の距離感がちょっとわからないんですよね。仲良しと言うほどお喋りしてる印象はありませんし、でも後輩である熊猫さんは、静露先輩に敬語を使いませんし、どんな距離感なのでしょうか。
女子同士の距離感。男子の僕には、一生わかることのないミステリーなのかもしれません。
「なによ? わたしが美し過ぎるからって、そんなに見つめられてもなにもしないわよ?」
「……い、いえ。そんなつもりで見てませんでしたけど」
「そう。なら許してあげるわ」
「……………………」
「許したのにお礼はないの? マナー違反よ」
「……どうもです」
「仕方ないわね。いいわよ」
なぜ僕は許されたのでしょうか。一体、なにを許されたのでしょうか。なにに対してお礼を言わされたのでしょうか。
全部わかりません。
けれど、その……あの、なんと言いますか、その、あれなんです。
先日のおぱぱ(以下略)があったので、目を見て話すことが恥ずかしい気持ちはあるんです。
よくよく考えてみますと、普通、おぱぱ(以下略)みたいなことがあったら、熊猫さんのほうが恥ずかしがると思うのですが、熊猫さんは堂々としていますし、その堂々スタンスが逆に僕を恥ずかしい気持ちにさせると言いますか、なんでしょうね、この感じ……。
これは恋ではないでしょう。当然ですが。
あとが怖い——という感じでしょうかね。
あとで、あの時……みたいに、僕を脅迫してくるかもしれない、と。そういった恐怖感のほうが強いです(ぶるぶる)。
ご本人が気にしていないのに、僕が引きずるのもおかしな話なのかもしれませんが。
だっておぱぱ(以下略)に手を……手を、ふああ!
やめましょうやめましょう!
そんなことを思い出すなんて、破廉恥です!
僕は健全です。健全健全。
「遅れちまったっぺー。いんやあ、掃除当番だったっけ、遅れちまったっぺよー」
次に入室して来たのは、
そして、最後に登場しましたのは、
「おいーっす! おつかれーい!」
やたらと元気の良い、僕の妹とちゃっかりメッセージIDを交換していた
「
と、静露先輩。
「持ってきたよー、
と、軸梨先輩。
「なんです? それは?」
軸梨先輩が持って来たのは、本?
「ふふ〜。さっきメッセージ送っておいたのよ。これは『竹取物語』の本よ〜」
「おおー! 仕事が早いです!」
さすがです! さすが部長です!
「みんな揃ったことだし、さて。今日はこの本をみんなで読みましょうね〜」
幼稚園の先生みたい。なんか素直にそう思ってしまいました。
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