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「これ、おらんちの実家で取れた野菜なんだけんども、良かったら食ってくんろ」
と。キッチンに顔を出した
「こんにちは〜。あら〜。私服も可愛いのね、
と。少し遅れてキッチンに顔を出した
「うわ美少年! 美少年系美少女だ! ひゃー! きゃー! なにこの世界の神秘みたいな兄弟、ちょっと二人でキスして見せて!?」
最後にやって来た
「嫌ですよっ!」
「えー、良いじゃん。姉妹……じゃなくて兄妹のスキンシップをほら、先輩に見せてよー?」
「それ兄妹のスキンシップの域を超えてますから!」
あと明らかに、姉妹って言いましたね。
言い間違いではなく言い切りましたね。
「けちー。けちけちー。二人きりのときは、どーせしてるくせにー」
「してませんよ! 僕たちはそんな淫らな兄妹じゃありませんっ!」
「そうだぜー、軸梨さん。兄貴ちゃんは、エロ本の一冊だって持ってねえんだからよ」
「
「ん? 健全アピールの手伝いに不満なのかよ、兄貴ちゃん。俺がせっかく、良かれと思って、兄貴ちゃんは健全な童貞なんだ、ってアピールしてやってるのに不満なのか? そこは普通、感謝だろ?」
「良かれと思わないで? あとそこは普通、感謝じゃないよ?」
童貞もわざわざ言いふらすことじゃないんだよ……?
恥ずかしがる必要はないでしょうけれど、恥ずかしいからね?
勘弁して……。女子の前で発表するの勘弁して。
男子の前でも発表して欲しくないことだから、それ……。
「そう。あなた童貞だったのね。ふっ」
笑われました。
ことの発端(?)の軸梨先輩は、僕の焼いたパンケーキに夢中です。
さっきまで会話してたはずの軌柞ちゃんも、いつの間にかパンケーキ頬張ってますし。
発言し、僕を笑った熊猫さんなんて、すでに完食してますし。完食したくせに、僕をいじって笑いものにしてきたんですね、熊猫さん。
恩知らずですね。
「まるで恩知らず、みたいな顔をしているけれど、わたし、あなたに恩を受けたと思っていないから、勘違いしないでよね」
「……………………」
熊猫さん、エスパーだと思います。たぶんですが。
それとも、僕って顔色を読まれやすいのでしょうか。でもそれにしたって、心中を覗かれている感は否めません。
「エスパーではないわよ」
否定されました。会話が成立してます。心の声に普通の声が返ってきました。
熊猫さんのエスパー疑惑が固まってきましたが、パンケーキを
「ごちそうさまあ〜」
と。ニッコリしながら両手を合わせ言ってから、続けました。
「さ〜てと。一応部活として集まったのだから、部活動らしい活動をしましょうか〜」
「部活動らしい活動です?」
「そうよー
「じゃあ、その話し合いの前に、食後のコーヒーを用意しますね」
気が利く系の男子なので、コーヒーを用意です。
「おら、お茶が欲しいべー」
「じゃあ葉隠さんには緑茶で。他の皆さんはコーヒーで大丈夫です?」
僕の言葉に皆さん同意しましたので、葉隠さんには緑茶、皆さんと僕はコーヒーを用意しました。
「ところで、演目ってお芝居の内容ですよね? それってどんなおはなしが演目になるんですか?」
僕の問いに答えたのは、軸梨先輩でした。
「んー。どんなおはなしでも、演目にはなるかな。たとえばこないだ斎姫ちゃんが買った『マッチ売りの少女』だってできるし、結構自由よ。やりたいストーリーをみんなで決めて、みんなでやるの」
そう言われますと、ちょっとワクワクします。みんなで決めてみんなでやる。楽しそう。
「昔話とかでも良いって感じ?」
と、軌柞ちゃん。部員でないくせに。
軌柞ちゃんに昔話の話をさせると、長々と文句ばっか言うので、やめてほしいというのが僕の本音です。
「昔話でもできるよ。桃太郎、一寸法師、浦島太郎、竹取物語——この辺は、演目としても昔話の認知度からしても、有名だよね。あまりマイナーなおはなしになると、お客さんの反応も薄くなっちゃうから、演目の認知度ってのは大事かな」
「へえ。なら軸梨さん。『ドラゴンボール』でも良いのか?」
「んー。悪くはないけれど、女子だけでやる演目じゃあないかなあ」
「男子いますけど?」
「あ……女子多めでやる演目じゃあないかなあ」
あ、って。僕が男子という事実をいつの間に失念したんですか、軸梨先輩。
「もし『ドラゴンボール』なら、わたしは
「勘違いだったらすみませんけど、いま熊猫さん、ヤムチャさんをなんて書いてヤムチャと読みましたか?」
「うるさいわよ黙りなさい。
「ひいっ!!!」
熊猫さんは危険です。ヤムチャさんファンを敵にまわしましたよ!
「んだら、『ドラゴンボール』なんだったら、おらはピッコロがいいべなあ」
「その口調で? その口調なら悟空やりなさいよ。全身緑色になりたいわけ? 特殊ね」
「おらに主役とか無理だっぺよー。小っ恥ずかしかー」
「なら私は〜、ランチかしら。くしゃみで変身して、マシンガンを撃ってみたいわあ〜。ふふ」
思いのほか、静露先輩に似合いそうな気がします。
普段穏やかな静露先輩は、なんか似合いそうな気がします。てか皆さん、『ドラゴンボール』好きなんですね。
「当たり前じゃない。男女問わず楽しめるバトル漫画なんて、『ドラゴンボール』と『ハンターハンター』くらいしか知らないわよ、わたし」
確かにどちらも男女問わず楽しめる作品ですが、あんまり作品名をバンバン出してほしくないなー、とか思っちゃうんですけど。
「それともなに? あなたはラッキースケベが盛り沢山の主人公を演じたいというの? トラブル続きの」
「それもう、作品名言ってるようなものですよ?」
あと、ラッキースケベ盛り沢山な主人公を僕が演じれるはずありません。素のリアクションになります。
「そもそもラッキースケベって、現実になくない? そんな体験をする男、この世でどれくらいいるのかしらね。三十五億ぶんのいち、ぐらいの確率じゃないの?」
「熊猫さんの言う通りですと、男性人口に対して、一人の割合になりますね、それ」
「たまにあるじゃない? ほら、パンツの中に顔面が
「漫画の主人公のラッキースケベに文句を言われても、僕は何にも言えませんが……」
熊猫さんは、ラッキースケベになにか恨みでもあるのでしょうか……。
そう思っていたら、熊猫さんが立ち上がりました。
「トイレ借りるわよ」
と。言って立ち上がりました。そして普通につまづいて転びました。
僕に覆いかぶさるかたちで、熊猫さんが転びましたむにむに。
むにむに。むにむにむにむに。むにむに?
「あら、ラッキースケベね」
「おぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱっ!!!」
僕の右手が、熊猫さんのおぱぱぱぱぱぱ!?
ぎゃー!!! おぱぱぱぱぱぱの感触は柔らかいですが、このあと殺される可能性が高すぎるので、ラッキースケベと思えない僕は涙目で震えることしかできません。ぶるぶるです!
「す、すいません! 許してくださいごめんなさい!」
慌てて手をどかします。おぱぱ(以下略)から、手をどかします。
「そんな涙目になられても困るけれど、そうね。わたしからあなたに言葉をプレゼントしておくわね」
三十五億ぶんのいち、おめでとう——と。呟くように言った熊猫さんは、そのままなにごともなかったかのようにトイレの場所を妹に聞いて、トイレに向かっていきました。
慌てた僕が馬鹿らしくなるくらい冷静でした。
だからと言って、おぱぱ(以下略)の感触が消えるわけじゃあないので、顔は暑いです。
「どうだった? 柔らかかった?」
軸梨先輩。その質問は僕の顔色から判断してくださいよ……。
なぜ僕と同じくらい、顔赤いんですか軸梨先輩。なぜ僕の数倍、鼻息が荒いんですか軸梨先輩。
「具体的にどう柔らかかった? 低反発? 高反発?」
「……………………」
軸梨先輩ェ…………。
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