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ピンポーン——と。
ちょうど僕がパンケーキを焼き始めた頃、家内にインターホンのチャイムが鳴り響きました。
「
パンケーキは、焼き目が命です。
僕のお願いに軌柞ちゃんは、あいよー、と。素直に応じてくれまして、玄関に向かって行きます。
しばらくすると、玄関から話し声が聞こえてきました。
「どちらさんなんだあ?」
「国産よ」
「あはは! ウケるぜ!」
どうやら声の感じ(と返した言葉で)
「あなたが妹さんかしら?」
「そうだぜー。国産の妹さんなんだぜー」
「そう。全然似ていないわね。というより、あべこべね」
「よく言われるんだよなあ、それ。まあ兄貴ちゃん、女みてえだからなあ」
「ところで、すごく甘い香りがするのだけれど」
「あー、今兄貴ちゃんが女みてえなことしてて、パンケーキ焼いてるんだぜ」
「ふっ。たしかにそれは、女みたいなことをしているわね。わたし女なのに焼いたことないけれど」
「だよなー! 女みてえなことって、女あんまりやんねえよな! わかるぜー、それ。えーと、誰さんなんだ?」
「熊猫よ。熊猫ひづめ」
「おー! なんか強そうなネーミングだ! 俺は軌柞ってネーミングなんで、よろしくお願いしますだぜー、ひづめさん」
「ええ。テンション高いのね、あなた」
「はっはー! ひづめさんは、眼光が鋭いよな! かっけえ!」
「ありがとう。一応お礼を言っておくわ」
「どういたしましてだぜ。上がってくれよ、ひづめさん」
「お邪魔するわ」
「どうぞなんだぜ」
結構長い会話を玄関でしましたね、妹と熊猫さん。その時間でパンケーキ四枚目に突入しましたよ。軌柞ちゃんいわく『女みてえなこと』らしいですが、たぶんお店とかでパンケーキ焼いてる人って、男性が多いと思うんですよ。てか、そういう職人さん、パティシエやシェフ、って、案外女性よりも男性の方が多いイメージです。だから料理男子を目指し、目指した結果、今に至る僕なのですが——と、『女みてえなこと』と言われた僕は、男だからこそパンケーキを焼いたりお料理をしたりしているんです、ってことを自分に言い聞かせて、メンタルを保つことにしました。
「お邪魔するわよ……って。なにそのパンケーキ。焼き目が綺麗すぎるでしょう。驚きを禁じ得ないわ」
キッチンに入ってきた熊猫さんは、僕が焼いたパンケーキを見て、すぐにそう言いました。
「なんなの、あなたのそのスキル。ちょっとした天才じゃない」
「え……えへへ」
天才とか言われたら、嬉しいじゃないですかー。えへへ。
「ところで、わたしが一番なの? ああ、わたしがあなたの中で一番って質問じゃあないわよ。わたしが一番乗りなの? って質問だから。勘違いしないで」
そんな勘違いをするほど、僕の脳みそはおめでたくありませんので、言われるまでもないです。人類でその勘違いをこのシチュエーションでできる人、たぶん存在しないと思います。
まあ、言いませんけどね。キッチンには包丁がありますから。視線ならまだしも、包丁で刺されたら死んでしまいます。
なので熊猫さんの質問に当たり
「ところでひづめさん。兄貴ちゃんの部屋とか見るか?」
パンケーキにクリームを
「ちょっ、軌柞ちゃん!? なに言ってんの!」
さすがに突っ込みをビシッと。ここは兄として、妹の逸脱行為を見逃す僕ではありません。
「え……、なに……。ひょっとしてあなた、妹のことをちゃん付けで呼んでいるの?
引かれました——え?
妹をちゃん付けで呼んでいると、引かれるんですか?
「まあ姉妹なら珍しいことじゃあないのかもしれないけれど、一応兄妹よね? 兄妹でそう呼ぶなんて、半生を振り返っても、人生を見つめ直しても、わたしは一度も見たことはなかったわ」
「まあ兄貴ちゃん、シスコンだからな!」
「あらそうなの。危篤なお兄ちゃんを持ってしまったのね、妹さん」
「違うよ!? 違いますよ!?」
僕をシスコンにしないでください。
「僕は妹の洗濯物とか見ても、無感情ですからね!?」
「シスコンの捉え方が、イコール変態なのね」
「……違うんですか?」
「その捉え方をしていることが、わたし的にはすでに変態と言わざるを得ないわね」
「まーまー、ひづめさん。兄貴ちゃんはこう見えて、というか見たまんまかもだけど、エロ本の一冊も持ってないんだぜ?」
「ふうん。でもそれ、妹をエロく見ていれば、エロ本の必要はない——ともとれるわね。やばいわねそれ。危険だわ」
「た、確かに! 兄貴ちゃん、俺のことをエロい目で見てたのかよ。んだよ言ってくれれば、ブラくらいプレゼントしてやるのに」
「いらないよ!」
変なこと言うから、クリーム搾りすぎました。これは軌柞ちゃんのパンケーキにしよう。
「仲良し兄妹も、外から見れば相思相愛にしか見えないのね……」
熊猫さんが呟きました。
なんか酷い誤解をされていますが、そんな誤解をされていたら、どうやら他の皆さんも来たようで、チャイムが鳴ります。
「軌柞ちゃん……出てくれる?」
「おう」
なんかその誤解が嫌で、でも今更呼び捨てにするのも気恥ずかしい僕は、地味に落ち込みながら、パンケーキを仕上げるのでした。
パンケーキの上にクッキーのせて、完成です。
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