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 ということで、一夜明けまして、本日は僕のお家に、ご学友含め先輩方がやって来る週末です。


 ちなみに、家に女性を招くことにあたって、僕の精神面は落ち着いています。なにせ女友達の多さは、ちょっとしたJKくらいいる僕ですからね。女性を家に招くことには、案外慣れているのですよ。男友達を招いた数より、女友達を招くことのほうが、圧倒的に多いですからね。


 ロマンチックな雰囲気になったことはありません。ラッキースケベも過去一度もありませんでした。


 男女問わずに。念のため。


 さて。皆さんが来るのは、午後からですので、午前中の僕は、おもてなしの準備です。急な予定と言えば、急だったのですが、おもてなしをしない、なんてことはしませんとも。


 気がく系男子ですからね。僕は。


 おもてなしと言いましても、大したことはしませんが。お菓子でも焼くくらいです。昨夜クッキーを焼きました。お手軽レシピでクッキーを焼いたのです。ボウルにホットケーキミックスと常温の無塩バター、牛乳、たまごを入れて、混ぜ混ぜ。


 ねっとりしてきましたら、生地を広げて、型取り。それで焼いただけです。


 おお、なんてお手軽なんでしょうか。同じ味ばかりじゃあつまらないので、コーヒー牛乳やいちご牛乳バージョンも用意しましたよー。今回は用意してませんが、ミルクティーなどでも、美味しくできますよー。個人的におすすめなのは、抹茶ラテです。


 クッキーだけでは足りないと思いますので、もうすぐ午後ですし、お昼を作ってからパンケーキでも焼きましょうかね。


 お昼は、僕と妹しかいません。両親は遊びに行っちゃいました。仲良しですねー、僕の両親。


軌柞きいすちゃーん。お昼なにかリクエストあるー?」


 キッチンに立ち、リビングでくつろぐ妹にリクエストをつのります。冷蔵庫は空っぽでもなければパンパンでもないですし、聞いても食材がなければ作れませんが、参考にはなるでしょう。


「んー。なんでもいいぜー」


「それ、一番困る、って知らないの?」


「俺が食いたいものをリクエストしたら、兄貴ちゃん作れねえと思うぜ?」


「僕が作れるか作れないか、試しに言ってみてよ」


「アヒージョ」


「なぜブラジル料理……それは無理だね……」


「だろう? だからお好み焼きとかでいいぜ?」


「それなら、材料あるかな……?」


 冷蔵庫を確認して、お好み焼きの食材を探します。豚肉、粉、たまご、キャベツ。うん。


 ありますね。ありましたありました。


 冷蔵庫から食材を取り出し、きちんと手を洗ってから、華麗な包丁さばきでキャベツを千切りです(シュパパパ!)。ボウルに粉と水、たまご、千切りキャベツを入れて、混ぜ混ぜ。ついでにチーズもありましたので入れちゃいます。


 フライパンに油をらして、おたまを使って丸く形どり、上に豚肉を広げます。じゅー。


 じゅー。この音。良いですね、この音。


 焼いてる、って感じがして、テンション上がります。


 ひっくり返すときは、フライパンを振って返すスキルを持っていますので、フライ返しは使いません。料理男子ですのでね。ええ。


「焼けたよー」


 お好み焼きが焼けましたので、リビングのテーブルに持っていきます。ここまでの工程で、妹はなにもしません。リビングで録画したテレビ観ながら笑ったりしてます。焼けたことを教えても、笑ったりしてます。


 まあ、手伝われると、逆に手際が悪くなりますから、スピードを重視するなら、これが最適解です。軌柞きいすちゃんに包丁を持たせたら、なんか危険ですからね。


「おっ。チーズ入ってるじゃねえか。さっすが兄貴ちゃん。女みてえなことやらせたら、右に出る者は居ねえぜ」


「料理を女性の仕事だと思っているなら、考え直したほうがいいよ、軌柞ちゃん」


 女みたいなことをやらせたら、右に出る者は居ないって思って『さっすが』って言ったなら、ぜひ訂正して欲しい気持ちはありますし、もっと違うところで僕に『さっすが』って言って欲しいですが、まあ言っても無駄でしょうし、無駄を省くエコ思考な言わない僕です。付き合いが長いので、無駄なことくらいわかるのですよ。


 妹ですしね。


「そんな風に思ってねえぜ? 女の仕事だったら、俺がやらなきゃいけねえじゃねえか。やだよめんどくせえ」


 理由が酷いです。こんな妹でも、小さい頃の夢はお嫁さん、とか言ってたんですけどねー。


 悲しい成長をげてしまったのですね。


 僕の妹……。


「ところで兄貴ちゃん、昨日クッキー焼いてたけど、誰か来んのか?」


「うん。部活の友達と、先輩が今日来ることになってるよ」


「へー。どうせ女だろ? 兄貴ちゃんの男友達って、最終的にみんな、兄貴ちゃんをエロい目で見るから、女しか来ねえもんな」


「……僕って、最終的に男子からそんな目で見られてるの……?」


「俺の友達も言ってたぜ? 『お前の兄ちゃん、その辺の女より良い女だよな』って」


「そのお友達には、いろいろ説教したいよね……」


「兄貴ちゃんが説教なんてしたら、興奮しちゃうんじゃねえか?」


「変態じゃん! そんなお友達と仲良くしちゃダメだよっ!?」


「男なんてだいたい変態だろ? 兄貴ちゃんも男なら、変態エピソードのひとつくらいあったほうがいいと思うけどな。なにかねえのか? 変態エピソード」


「ないよ!」


 たぶん。たぶんありません。僕認識ではありません(きっと……)。


「んだよー。ひとつくらいあんだろ? なあなあ、言っちゃえよ、兄貴ちゃん」


「……仮にあったとしても、妹に発表するようなことじゃあないからね?」


「兄貴ちゃん、エロ本も持ってねえもんな。俺でも持ってんのによ」


「持ってるの!?」


「なんだよ。妹がエロ本持ってちゃいけねえのか?」


「い、いや……そこにとやかく言うお兄ちゃんじゃないけれど、わざわざ発表するようなことでもないんだよ?」


「隠すほうがやらしいだろ。俺は隠さねえ。全裸でも仁王立ちするし、エロ本も隠さねえ」


「堂々とし過ぎだよ……人として隠して」


「人として恥ずかしいところが、ひとつもねえんだよなあ、俺。はっはっはー!」


 どうしてこんな妹に育ってしまったのでしょうか。


 どうしてこんな妹を見るために、今日家にお客さんが来るんでしょうか。


 妹が恥ずかしくなくても、お兄ちゃんが恥ずかしいからね?


 兄としてなぜか恥ずかしいからね?

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