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本日の帰宅路は、ちょっと寄り道をしまして、スーパーに買い出しに向かうのです。
何度も言ってますが、料理男子の僕は、お弁当の食材を買うのです。サンドイッチが好きなので、パンはほとんど毎日買ってます。
さて。明日のお弁当はなににしますかね。
さすがにサンドイッチばかりでは、バリエーションが少ないと思われるかもしれませんし、男らしい、『ザ・男飯!』みたいなメニューにしたいところです。
んー。『ザ・男飯』って、どのようなお弁当なら、そう言えるのでしょう?
イメージ的には、丼ものをお弁当にすれば、そんな感じもしますが、でもなあ。
どうせならもう少し、手間のかかるお弁当を作りたいんですよねえ。とは言え、サンドイッチはお手軽といえばお手軽なんですけども。具材は手間をかけることも可能ですが、基本簡単なメニューですしね。
んーんー。んー。
丼もの……牛丼、豚丼、カツ丼。
「んー。あ、ひき肉安い」
ひき肉が特売です。じゃあロコモコ丼弁当にしましょう!
ということで、明日のランチメニューが決まりました。ひき肉、玉ねぎ、それと卵も買いまして、ソースは自分でアレンジです。
買い物を終えて、さて。
もうひとつばかり、寄り道をしますかね。
次の場所は、本屋さんです。ちなみにエコバッグ持参の僕です。
本屋さんで買いたいのは、参考書とかじゃなくて、もちろんエッチな参考書でもありません。念のため。
僕が買いたい本は、演劇の本です。
もっと言えば、演劇の演目になるような小説ですかね。
普段はハードボイルドなカッコイイ主人公が活躍する本を好むのですが、僕も演劇部の一員になったわけですし、お勉強するつもりなのです。
ですが、んー。
演劇とかの本って、どこにあるのでしょう?
そもそも演劇って、どのジャンルに置かれているのでしょうか。無知な僕は、なにも知らないので、店内をぐるぐるです。
十二周しました。十二周しても見つかりません。
これは困りました。参ってしまいます。
一応、大型書店(地元では唯一の)に足を運んだのですが、はてさて。十二周もして発見できないのであれば、ひょっとして演劇の本ってないのでしょうか?
そもそも演劇って、どのようなおはなしを演目にするのでしょうか?
悲劇? 喜劇? 西部劇?
さいじょうひで……おっと。いらんことを口走るところでした。
「あ」
そうだ。僕は十二周しましたが、しかし十二周しながら目を向けていたのは、僕が目の届く範囲です。
つまり身長が158センチのこれからに期待サイズの僕は、本棚の上のほうが見えていないのです。
ということで、上を向きます。
「あった……」
ありました。目の前の上にありました。
届きません。背伸びすれば届くとかじゃなく、絶望的に届きません。
ジャンプしても無理です。
「あれ?
と。
僕が試しにぴょんぴょんしていたら、そんな声が。果たして、
「軸梨先輩」
でした。軸梨先輩は、店員さんのエプロンをしていました。
そういえばアルバイトをしている、って、
「軸梨先輩、ここでアルバイトしてたんですか?」
と、服装を見ればわかる質問して、僕がぴょんぴょんしていた悲しい場面を意識から外す作戦に出ました。
「うん。ねー? ぴょんぴょんしてたのって、届かないから?」
全然外れてくれませんでした。残念です。
「……はい。届きません……、来年には届くと思うんですけど、今の僕じゃ届きません……」
「あはは。自分への期待はでかいね」
期待は。つまり身長は違う——という事実を遠回しに突きつけられた僕です。しくしく。
「肩車してあげよっか?」
「えっ! それは恥ずかしいです!」
「だって、台とかないんだもん。あたしが斎姫ちゃんを肩に乗せるか、高い高いするかの二択よ。どっちが良い?」
「ええ……なんですその二択。あの……取ってくれるって選択肢はどうしてないんですか?」
「だってその位置からだと、どの本がどこにあるのかわからないでしょう? 位置というか、斎姫ちゃんの高さだけど」
「うう……」
たしかに、僕の高さでは、店内の照明が背表紙に反射して、キラキラしていますので、タイトルすら、ほとんどわからないんです。
「さあさあ、どっちがいい? 肩車オア高い高い。どっち?」
なぜそんなに嬉しそうなんですか……。
僕の高くない高さに喜びを得ないでください。
どっち、って言われましても。どっちも避けたいですし……。
「はーい時間ぎれー」
「ほあっ!」
結論の出ないまま、でもなんとか結論を出そうと思っていたら、軸梨先輩は僕の背後でしゃがみ込み、一気に肩車されました。ぎゃー!
「ちょ、軸梨先輩! 恥ずかしいです恥ずかしいです! おろしてええええ……」
「早く選んじゃいなよー。ほらほら、早くしないと、あたしの後頭部で刺激しちゃうよ? うりうり〜」
「にゃふ! やめてくらさい!」
「んー。付いてる?」
「付いてます!」
バッチリ当たってます!
なにがとは言いませんが!
しかし店内で大声で(付いてます! って大声で)言ってしまったので、顔面は熱々ですし、皮膚から水分が消し飛んだのかとすら思えます。僕の顔面、砂漠化してませんかね? ってレベルで灼熱です。
そんな状態で、慌てて手に取った本。タイトルを見るためにこの高さにしてもらったのに、タイトルすら確認せずに、てんやわんやで取った本を片手に、羞恥の肩車は終わりました。
「なに取ったの?」
僕も知りません——なんて、良かれと思って肩車してくれた先輩に失礼ですし、手に持った本を確認して、軸梨先輩に報告です。
「えっと……、『マッチ売りの少女』です」
「おー、アンデルセン! いいチョイスだね。似合うと思うわよ、マッチ売りの斎姫ちゃん!」
「……このタイトルで、僕を主演にするおつもりなのです?」
「えー良いじゃん、少女役。少女役ができる男って、魅力的だと思うなー」
「え……ま、まあ、いやってわけじゃ……ない、ですけどね? 別に魅力的って言われたからじゃないですけど、いやじゃないですよ? 本当ですよ? 本当の本当どすよ?」
「どす?」
「噛んでませんけどね?」
嘘です噛みました。魅力って言われてその気になったことの誤魔化しが下手すぎて、勝手に追い込まれて噛みました。ただの自爆です。
「まあまあ、似合うかどうかは、ひとまず別として、とりあえず読んでみたらいいんじゃない? たぶんだけど、きちんと読んだことないでしょ?」
「ですね」
言われてみれば、どんな内容なのかは知っていても、きちんと読んだことはありませんでした。
「じゃあお会計だね。レジまで肩車してあげよっか?」
「結構でし!」
「でし?」
「え? 言いませんか? でし、って」
「言わないんじゃない?」
「そ、そうで……でしか」
やっぱり誤魔化しが下手な僕でした。
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