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なんかものすごくぐっすり快眠できたのか、翌日の僕は元気です!
目覚めが良すぎて、本日のお弁当は朝からナポリタンを作ってサンドイッチにしちゃいました。ナポリタンは冷凍食品じゃあないんですよ。チンではなくて、きちんと調理したのです。そしてサンドイッチは、スライスチーズとナポリタンをパンで挟み込んだ——だけでなく。
ところがどっこい。だけじゃないんですよ。
もうひと手間掛けちゃったのです。
なんとそのサンドイッチをホットプレスして、こんがり焼き目をつけちゃったんです。
ふっふっふ。どうです、このランチメニュー。
料理男子は朝から料理男子なのです。
寝起き具合で、お弁当を作るテンションも上がってしまうそんな僕は、お昼休みに突入しています。現在僕は、お弁当包みを片手に、
今日から部活が始まりますので、その前に自己紹介を
屋上には一人で向かっていますが、同じクラスでお隣の席の
僕は男子なので、教室でお着替えしました。念のため。
「……………………」
……嘘です。本当はあまりにも視線を感じたので、トイレに着替えを持ち込みまして、トイレの個室でこっそり着替えたんですけどね……。
まったく。僕の上半身裸なんて見ても、なんの得にもならないと言いますのに。男の裸がお好みならば、教室でみんな着替えているのに、僕に視線が集まるのは、疑問を覚えて久しい、って話ですよ。ぷんすかです。
思えば小学校の高学年あたりから、そのような視線を頂戴していますので、例の
僕が露出狂だったならば、そのような視線も喜べるのでしょうかね?
僕にそのような性癖はございませんので、理解に苦しみますが。目覚める予定もありませんしね——と。午前のことを軽く振り返りながら、屋上に到着です。
ドアを開けると、お昼の太陽が眩しいです。まだゴールデンウィーク前ですが、しかし今年はなかなかの暑さになりそうな気配を感じる日差しの強さ。とはいえ、だからと言って夏本番が猛暑になるのかどうかは、夏にならないとわからないことですけれどもね。
「
僕が屋上に立つと、先に到着していた静露先輩が僕に手を振ってきました。お隣には
「
と、静露先輩。
ふえ? 葉隠さん、どちらに?
「おわあ!」
静露先輩の言葉で、なんとなく振り返ったら、葉隠さんが真後ろに立っていました。びっくりです。真後ろに立っていたことにもびっくりですし、それほどのサイズでありながら、そこまで存在感を消せることにびっくりです。
さすがボクサー。きっと気配を殺して、パンチするんですね。
なんだかそれは、ボクサーではなくアサシン感も否めない僕の胸中ですが、そんな僕の胸の内を知らない葉隠さんは、驚いた僕に、
「おめさ……驚きかたも、ずいぶんと可愛……いや、なんでもねえべ」
と、言いました。僕の耳は飾りではありませんので、間違いなく葉隠さんは、可愛いと——ずいぶんと可愛いと——、言いかけましたね。
なら、逆に聞きたいですよ。
とても格好良い、これぞイケメンな驚きかた。
そのような驚きかたがあるのでしたら、ぜひぜひ僕にご教授をお願いしたいくらいですが、それを女子である葉隠さんに質問するのも違う気がしますので、大人しく合流するとしますか。
ということで合流しました。
もちろん、熊猫さんも数分後に合流しまして、屋上のアスファルトにレジャーシートを敷いて、五人で輪になるように座ります。輪と言いますか、正確には五角形ですね。
ではさっそく本題の自己紹介かな——と、僕はそう思っていたのですが、しかしそれは後回しになりまして、僕のお弁当を見た熊猫さんが、
「……え、なにあなた、それ、まさか自分で作ったとか言わないわよね?」
と、なぜか引いているようなニュアンスで言いました。引いてるというか、ひょっとしたら驚愕しているのかもしれませんが。
「はい。早起きして朝、自分で作ったんですよー」
「朝からホットプレスしたというの……?」
「はい。しましたよ」
「この小学生の通学帽子みたいに、綺麗な黄色をした玉子焼きも……?」
「もちろんです」
「女子力高すぎるでしょう、あなた」
「ち、違いますもん! これは女子力なんてものではなくて、僕は料理男子だからですう!」
「ものは言いようね。まあ百歩譲って、料理男子だとしても、男子は普通、ウインナーをタコさんにしたり、リンゴをウサギにしないわよ。リンゴくらい、男なら丸かじりしなさいよ」
「えー、ウサギさんにした方がおいしいですもん」
おいしいですよ。ですよね?
ウサギさんにした方が、楽しいですし。
「というか、あなたあれよね。改めて思うのだけれど、こうして女の輪に混じっても違和感ないのよね。女風呂とか入ってもバレないんじゃあないの?」
「バレますよ!」
「あら、そのリアクションはもしかして、バレたことがあるのかしら? 意外とエロいのね。やるじゃない、見直したわ」
「ありませんよ! は、入ったことがありませんよ! どのタイミングで僕を見直しているんですか!」
嘘です。ごめんなさい嘘です。
すいません。本当は入ったことあります。
銭湯に行ったら、僕の見た目では逆に男湯は危険だと番台のおじちゃんに言われて、女湯に案内されたことがあります。でも内緒です。
あと、軸梨先輩。
お願いですから僕と熊猫さんの会話を、そんな微笑ましいスマイルで眺めないでください。僕、男子ですから。軸梨先輩の趣味嗜好から逸脱した存在ですから。
「しっかしまあ、おめさ、料理もできんべかあ。おったまげたなあ。男にしとくにはもったいねえくれえ花嫁に向いてんべなあ」
と、葉隠さん。
「向いてませんんんんん!」
「そやってよ、ちっと
ううっ……。
そう言われましても、性格ですし……。
落ち込みながら思いましたのは、葉隠さん、昨日よりも方言の濃さ増してませんかね……? 気のせい?
言葉遣いは、まあ人それぞれですし、そこにとやかく言うつもりはありませんので、リンゴ食べよ……。おいしー。
「ん〜。たしかに
えー。食べる姿とか言われましても……。
しゃりしゃりもぐもぐ。ごくん。
「じゃあ……どうやって食べると男らしいんですか……? 皆さんが思う、思い思いの男らしい食べ方を教えてください。それを僕が実際にやってみますので! はい! まず熊猫さんどうぞ!」
「なに急に、開き直ったかのように元気を出しているのよ。でもそうね。男らしさね……、やっぱりあれじゃないかしら。焼き肉素手でいっちゃうとか」
「火傷します! はい次、葉隠さんどうぞ!」
「おらも言うべかあ……そだなあ、んじゃあ、こんなんどうだっぺか。白飯を食うときは、炊飯器から直で食うとかどうだべ? 炊き立てのあっつい白飯を冷まさねえで、
「それ罰ゲームです! 次は静露先輩!」
「そうねえ。マグロそのまま丸かじりとかどうかしらあ?」
「買えません! 軸梨先輩の番です!」
「えー。そのままで良いじゃないの。可愛く食べて、可愛く拗ねて、そのままの斎姫ちゃんが一番可愛いと思うよ?」
「あうう……」
良いなあ、軸梨先輩の今の台詞。
それ、男子の台詞ですよ。男子が女子に言って、ときめかせちゃうやつです。
普通に照れてしまいました。なに照れてんですか、僕……。
こんな風に、僕いじりが始まりましたので、自己紹介の時間はなくなりました。
僕いじりが盛り上がって、お昼が終わっちゃいました。
いじられた僕ですが、思いのほか皆さんにツッコミをしたことで、落ち込みダウナーにならず、なんなら結構楽しかったです。
まあ。女子四人にいじられるってことは、少なからず僕に切なさというダメージを与えてきたんですけどね……。ははは……。
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