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屋上に戻ってみると、そこには
「あれ?
「バイトに行っちゃったわよ〜」
なるほど。たしかに時間を使い過ぎましたよね。
なにせ説得を(と言えるほどのことはしていませんが)していたら、もう時間もいい時間になっています。七時を回っています。まだ残っていた太陽もすっかり沈み、月が明かりを照らす時間帯に突入しているのです。
軸梨先輩には、ちょっと聞きたいこともあったのですが、ここに居ないのであれば、本日は、その質問は叶わないことになりました。てかアルバイトしてたんですね、軸梨先輩。
「よく来てくれたわね〜、
と、静露先輩。
「は、はい……、いえ、上手く乗せられちまったん……、乗せられた感も否めねえ……ない、けんども……けれど……」
そう返す葉隠さんは、なぜか僕の後ろに隠れています。まあ、僕の身長(158センチ)では、葉隠さんのサイズ(180センチほど)を隠すことは全然できていませんが。不思議なことですが前にいる僕の方が、隠されている感も否めないです(きっと存在感の違いですかね?)。
隠すことができなくて申し訳ない気持ちすら抱いてしまいそうですが、思い直してみると、僕が申し訳ない気持ちになる必要はない——と、気づきました。でもわざわざ葉隠さんの後ろに周る必要もありませんでしょうし、じゃあとりあえず
「ふふ」
と、静露先輩が笑いました。僕の存在感のなさに、
「慣れない喋り方よりも、普通に話してくれたほうが、聞く私も、話す葉隠ちゃんもきっと楽よお? 私もそのほうが嬉しいかなあ」
どうやら静露先輩は、ぎこちなく話す葉隠さんに失笑したことが判明しました。だけど葉隠さんは、なかなかそう割り切ることは難しいのか、あるいは先輩を相手に話すこと自体が苦手なのか、口ごもってしまいました。
そんな葉隠さんに、静露先輩はスマホを取り出し、堂々としていいのよお——と。呟き、
「全日本中学女子アマチュアボクシングチャンピオンさん」
優勝シーンの記事を表示したスマホ画面を向け、ニッコリと言いました——えっ!?
全日本中学女子アマチュアボクシングチャンピオン!? すごいです!!
肩書きがぱねえです。ひょっとしてボクサーかな、なんて薄々感じたこともありましたが、まさか、そのようなビッグタイトルの獲得経験者だとは……。
「す、すごいです、葉隠さん!」
思わず振り向き、僕はテンション高めに言ってしまいます。僕の背後に、スターがいるんです。そりゃ、振り向かざるを得ませんし、言わざるを得ません。
「……い、いやあ、たまたまだっぺよお……」
照れてます。葉隠さん照れています。
「た、たまたま、対戦相手が決勝まで対戦を辞退したんだべえ。決勝もラッキーパンチが当たって、偶然勝てただけなんだっぺよお……」
それ、対戦相手が逃げ出したんでは……?
決勝はラッキーパンチが当たって、って。
それ、ワンパンで料理してませんか……?
どうやら僕の背後には、とてつもない戦闘力を持った女子が隠れていたことが判明しました(繰り返しますが、全然隠れて切れてませんが)。
「ちなみにわたしは、存在するだけで優勝しているわ」
ここぞとばかりに発言した、
「まあまあ! 熊猫さん優勝すごいわねえ」
流せばいいのに——って。心から心から、心底そう思いましたが、静露先輩はスルーせずにニコニコしながら言いました。
「ええ。あ、ありがとうございます」
照れてません。熊猫さんは照れていません。
単に、まさかスルーされないで称賛されるとは、言った自分でも計算外だったようです。ただの困惑ですね。静露先輩の性格が悪いようにも感じますが、普通に考えてみますと、ここぞとばかりに発言した熊猫さんの自業自得ですよね。
「よお〜し。じゃあみんなで自己紹介でもしましょうかあ——と、いきたいところだけれどお、それはみんな揃ってからにしましょうかね〜」
「もう暗くなっているし、今日の活動はおしまいにしましょう」
おつかれさまあ——と、静露先輩。特に活動と呼べるような活動をしていないのですが、すでに日も沈みましたし、僕は男子ですけど、女子が暗い帰り道を歩くのは安全とは言えません。僕は男子なので安全ですが。今日の活動はおしまい。そう言われれば、納得して
「あ〜そうそう。帰る前に、連絡先を交換しておきましょうか」
最後に思い出したかのように、静露先輩が言いました。
「夜道は危険だから、帰り道は気をつけるのよ。特に
なぜか僕だけ名指しで心配されちゃいました。おかしいですね、この場で唯一の男子ですのに。
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