部員紹介です!

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「ところで、部員はいま何人なの?」


 さっそく、活動場所である屋上に案内していると、熊猫くまねこさんが言いました。


 階段をゆっくりと上がりながら、僕は現在把握している人数(僕と熊猫さんを含めて五人)をお伝えすると、熊猫さんは、


「わたしが入部する理由、きちんと説明しなさいよ。わたしから説明したら恩着せがましい女だと思われてしまうでしょう。しっかりと、あなたが土下座をして頼み込んだ——ってことを素直に伝えるのよ」


 良いわね——と。並び歩きながらも、自分の意志で入部を決めたわけじゃないんだからね、というむねを僕に説明させたいようです。


「土下座は、してませんけど……」


 自分を守るために、現実を歪めないでください。


 自己防衛を極め過ぎです。なんですかその、防衛意識。


「なにか言ったかしら? ぱきぱき」


「い、いえ! 無言です!」


 指を鳴らされましたので、無言だったことにしました。僕も自己防衛のために、現実を歪めてしまいました。


 そんな軽やかなトーク(?)をしながら、僕たちは屋上へ。屋上に出る扉を開けると、沈み始めた太陽が、まだまだ明るさをアピールするようにキラキラです。


「おっ! 来たねー。斎姫さいきちゃん」


 扉を開けて、まずそう言ったのは、軸梨じくなし先輩でした。お昼に見たときも、ボリューミーなヘアスタイルだと思ったんですが、ひょっとして寝癖なのかもしれません。なにせ放課後になると軸梨先輩の髪は、もっとボリューミーになっていたのです。


 じゃあ授業は寝ているんですね。きっと。


 ダメな人ですねえ。


「はい斎姫ちゃん、あめあげる」


「わーい!」


 良い人ですねえ。ぱくり。


 わー。ティラミス味ですー。おいひー。


「ん? そっちの子は、斎姫ちゃんがスカウトしてきてくれたの?」


「ふぁい。はのほは、ふはへほはんへふ。ふらふへいほへ、おほはひのへひへふ」


「あめ出そう? あめを出してリピートアフター斎姫ちゃんしてね?」


 きゅぽん。テイクツーからお届けします。


「はい。彼女は、熊猫さんです。クラスメイトで、お隣の席です」


 僕がそこまで説明すると、並び立つ熊猫さんからひじ打ちが。わかってます。きちんと説明しますって。僕より身長が高い熊猫さん。その身長差で腕を組んでいたら、肘打ちが僕のテンプル直撃なんで、本当にやめてください。脳を揺らさないでください。


 脳を揺らされた僕に、軸梨先輩は「?」と首をかしげましたが、その表情は、なぜか穏やかで、まるで良いものを見ているかのようでした。


 こほん——と。軽く咳払いをしてから、では、僕のスカウト英雄譚をば。


「えっと、熊猫さんは、可愛い衣装にも演劇にも興味はなくて、でも僕が全身全霊のお願いをしたら、優しい優しい熊猫さんは、入部してくれることになりました」


 そう説明したら、熊猫さんから殺気が。


 恐る恐るチラ見したら、今にも僕を殺しそうなオーラが出ていました。ゴゴゴゴッ——!


 ひええ。こわいです。


 たぶん食われます。焼いて食われると思います。ひええ。


 僕が熊猫さんから出る殺気に怯えていると、軸梨先輩は、


「うん、りょーかい。演劇に興味がなくても、やってみればきっと興味湧くと思うから、これからよろしくね、熊猫さん」


 と、言って、熊猫さんに握手を求めました。


「はい。よろしくお願いします。でもわたし、可愛い衣装には興味湧かないと思いますので、あしからず」


 どれだけ可愛い衣装に興味があることを隠したいんですか。


 それもう、逆に発表みたいになってますよ?


 なんて言ったらバーベキューされちゃいそうなので、僕は手に持ったあめで、自発的にくちを塞ぐことにしました。ぱくり。


 僕があめに夢中になっていると、熊猫さんは軸梨先輩から入部届けを受け取り、記入を始めたみたいです。


 さらさらっと書いて、軸梨先輩に渡していました。


「あえ?」


 きゅぽん。あめを取り出し、やり直しです。


「あれ?」


「ん? どうしたの、斎姫ちゃん?」


「いえ、静露せいろ先輩はどうしたのかなあ、って思いまして」


 屋上には、軸梨先輩だけでしたので、辺りを見渡しても静露先輩の姿は見当たりません。


「あー。色星いろせさんは、ねえ……」


 なにかバツが悪そうに、軸梨先輩は頭をぽりぽり。なにかあったのでしょうか?


 まさか喧嘩とか——そんな物騒な想像をしてしまった僕でしたが、続けられた軸梨先輩の言葉で、どうやら揉め事じゃあない、ってことが判明して、胸を撫で下ろします。良かったです。


「今、色星さんは、説得に向かってもらったんだよ……」


「説得ですか?」


「うん。ほら、お昼にもう一人、メンバーがいるって、あたし言ったでしょう?」


「はい。聞きました」


 たしか、昨日軸梨先輩が熱烈に勧誘した一年生とかなんとか。そんな話をお昼に聞きましたね。


「でね、その子が、やっぱり辞めたい、って言い出してね」


「えっ! 大変じゃないですか!?」


 一人欠けたら、部活動に昇格出来ません。


 それは大変です。部費がもらえません。ピンチです!


「うん……だから今、色星さんがその子のクラスに説得に行ってもらったの。あたしだと強引になりがちだからさ。あはは」


 なるほどです。一体、どのような勧誘だったのか、僕は知りませんが、軸梨先輩が強引という部分は、なぜか得心がいきます。


 マイペースがハイペースそうな雰囲気ありますし。雰囲気なので、真実かは不明ですが。


 と——話をうかがっていると、静露先輩が屋上にやって来ました。なんか疲弊しているようですが、首尾はどうだったのでしょうか?


「色星さん、どうだった?」


 軸梨先輩が問い掛けます。


「ん〜。厳しいかも〜。昨日は、入部するって言わなきゃ帰れないって思ったから、入部するって言った、って。そう言われちゃったわ〜」


 どうやら軸梨先輩の強引は、超強引だったことが、その言葉だけでも十分に伝わってきました。


「その子は、もう帰っちゃったんです?」


 僕は言いました。特に解決策などないくせに、言ってみただけです。


「まだクラスにいるわよ〜。他の部活や同好会のリストと睨めっこしていると思うわ〜」


 ふむふむ。


 なるほど。


 ここは、じゃあ、僕がやること。僕がすべき行動は、どのようなものがあるのでしょう。少し考えてみましょう。


 なにもしない——という選択肢はありません。それは男らしくないです。


 なら——ええ。おのずと答えはひとつですね。


 一人スカウトしてきた、言わば期待に応える系男子である僕は、頼まれることがなくとも、さらっと問題を解決しちゃうべきでしょう。こっそりと解決して、丸くおさめるのです。


 これできたら、すごく格好良くありませんか?


 男が惚れる男っぽくありません? 気のせい?


 いや、ここは僕の出番です。困る先輩方、そして部費は欲しい自分のためにも、いざ、立ち上がるときです(座ってませんが)。


 そうと決まれば、ここをこっそりと抜け出し、皆さんが談笑でもしている間にすっきり解決してしまいましょう!


 ということで、抜き足、差し足。


 こっそりこそこそ。


「あ、斎姫ちゃん。その子のクラスは、C組よ〜」


「……………………」


 すぐにバレました。なぜでしょう。


 もしかしたら、内心呟いていたと勘違いして、実は普通に呟いていたのかもしれません。そうだったなら、とんでもないミスです。


 まあ……場所を考慮していなかったので、教えてもらえて良かったとプラスに考えますか。


「わかりました、静露先輩。で、でも僕、ちょっと教室に忘れ物しただけで、頼られなくても解決しちゃって、格好良いところを見せつけよう——なんて思ってませんから、勘違いしないでくださいね」


 これは熊猫さんのキャラです。言ってて気づきました。


 僕が使いこなすには、熟練度が足りませんでした。


「頑張ってね、斎姫ちゃん〜」


 ふむ。忘れ物を取りに行くってことが、嘘だとバレていますね。まあ良いです良いです。


 あめを舐めながら、僕はその一年生のクラスに向かうことにしました。


 頼られなくても頑張りますとも! 


 ふぁい! おー! です!

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