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「さてー。あめは舐め終えたね?」


「はい。ごちそうさまでした」


 しっかり舐め終えました。なので味が残っている棒をちゅぱっとしている僕です。


 僕があめをころころしている間に、お二人は僕の入部届けを用意して、記入までしてくれたようです。手間をはぶいてくれるなんて、優しい先輩方ですね。


「ところで——」


 そんな優しい先輩方に、僕は質問があるのです。


 僕の言葉に、なあに? と、おっとりした口調でレスポンスをくれたのは、長い髪にウェーブのかかった静露せいろ先輩でした。


 そちらを向き、では、質問の内容をくちにします。


「お二人以外には、演劇同好会はいないんです?」


 ここにいるのは、僕をこの屋上まで案内してくれた静露先輩。そして、この屋上ベンチでだらしなく、ぐだっとしていた、ボリューミーな髪型の軸梨じくなし先輩。お二人だけでした。


「ううん、もう一人いるわよ〜。斎姫さいきちゃんと同じ、一年生の子がいるわよ〜」


「一年生です?」


 言ったら悪い気もしますが、こんなマイナー(?)な同好会に、まさか同じ学年の人が参加しているなんて、ちょっぴり驚きです。


 どうやら話をうかがってみると、その一年生は、昨日——つまり入学式当日に、軸梨先輩(ぐだっとしていた方の先輩)が、熱烈かつ猛烈にスカウトしたとかなんとか。


 はー。同好会って、スカウトが基本なんですかね。僕も言ってしまえばスカウトのようなものでした。


「じゃあ、えっと……、僕を含めて、現在の演劇同好会は、四人ってことですかね?」


「そうよ〜。ふふー。あと一人引き込めば、晴れて部活動に昇進できるのよ〜」


 おお。それはおめでたいことです。


 ん。それはおめでたいんですかね?


 ちょっとよくわかりませんが、昇進できるのならおめでたいはずですよね。なら、ハッピーな案件なのでしょう。


 とりあえず、ばんざいしときましょう。


 ばんざーい。ばんざーい。


色星いろせさん、なんかお祝いしてくれてるっぽいよ?」


「そうね〜。急に万歳バンザイしているものね〜」


 お二人がひそひそ話していますが、おめでたいので気になりませんね。


 でもそうですね。部活動に昇進すると、なにかメリットでもあるのでしょうか。僕個人としては、全入部の校則を果たせる、かつ、格好良くなれるのであれば、別段、同好会だろうが部活動だろうが、どちらでも構わないのですが。


 この疑問に答えてくれたのは、軸梨先輩でした。


「まず、部活になると、部室が貰えるよ。この屋上じゃなくて、きちんとした部室がね」


 なるほど。なるほどです。


 たしかに欲しいですよね。部室。


 ん——でも。


「それだけです?」


 部活動と同好会の違いってそれだけなんでしょうか。部室って、そりゃあ欲しい場所ではありますが、それだけと言うのならば、あまりメリットになり得ないようにも思えてしまいます。


「それだけ——じゃないよ、もちろん。部活になれば、部費が出るからね!」


「おおー! 部費ですかー!」


 それは良いことです。明らかなメリットです。


 なにに使うのかわかりませんが、演劇というからには、それなりのセットとか、あとは衣装とかも必要になりますもんね。さすがに自腹ってのは高校生になりたての僕には厳しいですし、上級生のお二人も厳しいでしょう。


「ならあと一人、必要ですね」


 現状は、僕含めて四人。あともう一人はここには居ませんが、どうあれもう一人の勧誘は必須のようです。


「そう! そんなの! 斎姫ちゃん!」


 僕の発言に、身を乗り出した軸梨先輩。勢いで両手をギュッとされちゃいましたし、顔が近くて緊張してしまいます。


 しかし僕の緊張など我関せずのスタンス——なのかは、僕のあずかり知るところではありませんが、軸梨先輩は顔の位置をそのまま、テンション高めに続けました。


「だからね! 斎姫ちゃん! あと一人誰か、一年生からスカウトしてきて!?」


「え……? 僕がですか?」


「うん! きみしかいない! きみだけが頼りなの!」


「僕だけしかいない。僕だけが頼り……?」


「そうなの!」


「そ、そう言われたらあ……ま、まあ、悪い気はしませんが……えへへ」


 悪い気はしません。頼られるイコール期待されている。


 期待に応えるイコール——格好良い。そういうことです。


 まるで世界のことわりごとく、期待に応える男が格好良いことは、説明の必要もないくらいに、歴史が証明している事事です。ほら、ナポレオンとか?


 まさか僕がナポレオンのようになれるとは思っているわけじゃありませんが、しかし頼りにされて、それを断るなんて、ねえ?


 そんなの男ではありません。


 ならば、男である僕は、男の中の男である僕が言えること、返せる言葉は、たったひとつでしょう——はい!


「そこまで……えへへ。言われてしまいましたら、まあえへへ。僕におまか……へへ。えへへへ。がんばります!」


 ちょっと照れちゃって、堂々と宣言することは叶いませんでしたが、期待に応えますよ、というニュアンスは伝わったかと。誠意は示したつもりです。


「ありがとー! じゃあ放課後までによろしくね!」


 午後の授業始まっちゃうから、またね——と。


 軸梨先輩は屋上から去って行きました。


 言い忘れていた気がしますが、現在はいつの間にかお昼に突入していました。いやはや、時間の流れは速いものですね。


「ふふ〜。じゃあ私も教室に戻るわね〜」


 また放課後にね——と。静露先輩も教室へ。


 本当なら紳士らしく、階段に気をつけてください、レディ——とか言いたかったんですが、ベンチから立ち上がりながらウインクされてしまって、ドキッとしちゃったので、言えませんでした。反省です。紳士として反省です。


 それよりも大変です!


 お昼休みに突入していることに気づいたのですが、僕はまだ、お昼ごはんを食べていません。


 不思議なもので、時間を認識すると空腹も認識してしまいます。おなかぺこぺこです。


 ぐう〜。と。おなかが鳴っちゃいます。てへへ。


 ひとまず、教室に戻ってお弁当を食べることにしましょう。勧誘とかそのあたりの方法は、腹ごしらえしてからですね。


 今日のお弁当は、手作りサンドイッチです。


 スイーツ男子である僕は、料理男子でもあるのです。朝早起きして、サンドイッチをサンドしました。ぎゅむぎゅむしたのです。


 ちなみにデザートはリンゴです。


 ウサギさんにしたリンゴですよ。


 スイーツ男子ですのでね。ええ。

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