入部届け!
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部活どうしましょう。
入らなくていいのであれば、僕としては入らないを前向きに検討するのですが、しかし全生徒入部制の学校ですので、気が進まなくても何かしらの部活に入らなければなりません。
中学のときは、バスケを少しだけやっていたのですが、あまりにも身長が伸びなかったので途中で辞めました。辞めるとき、ならマネージャーをやってくれ、って熱意をもって全部員からお願いされた悲しみを今もまだ覚えています。
あれは悲しかった……。
お前がマネージャーをしてくれれば、俺たちは全国だって行ける! って本気で言われました。まあ、丁重にお断りしましたが。
だって、その言われかたって、女子に言うニュアンスだったんですもん。
悲しきかな悲しきかな。悲しいのは僕だけですがね。
と言っても、言うほど悲しんだわけではないんですけども。そりゃあそこそこ悲しみはありましたが、さすがに慣れっこになっていますので。
慣れたいわけじゃあなかったはずなのですがね。
そこはひとまず、人間の適応力ということにしておくとして、さて。
さておき——現在僕は、体育館で開催されている、部活動紹介に参加しています。参加と言いましても全員参加ですし、部活動紹介も、よくある感じの紹介です。色々な部活が、活動内容や部員の数名を紹介するやつですね。
野球。サッカー。バスケットボール。
ラグビー。テニス。バドミントン。陸上。
柔道。剣道。などの運動部。
パソコン。手芸。料理。化学。地学。
軽音。eスポーツ。などなどの文化部。
ふーむ。僕のポテンシャル的に、文化部ですかね。運動は嫌いではありませんが、苦手ではあります。体力にはまあまあ自信があるのですが、技術が追いつけません。なら陸上は……。
それはなんといいますか……。
ユニフォームを着た自分を想像したら……選ぶ気にはなれません。
そうなると、パソコン? あるいはeスポーツかな? 白衣とか着たくありませんので化学とか地学は避けましょう。料理は……エプロンとかちょっと……。ならやっぱり、パソコンかeスポーツになりますか。
んー。ん〜。
んーんーんーんーん〜。
ゲーム……ゲームかあ。eスポーツってどんなゲームなんだろう。
イメージ的に、格闘ゲームのイメージがあるんですけど、うーん。格闘ゲームかあ。
ゲームは好きですけれど、一人でゆっくり遊べるゲームが好きなので、じゃあパソコンかなあ。
パソコンって何するんだろう……?
パソコンするんでしょうけれども。
そんな風に思いながら、パソコン部の紹介を聞いていたのですが、ぷろぐらみんぐ、とかいう専門用語を出されたので、興味はなくなりました。
なんです? ぷろぐらみんぐ、って。
機械に弱い僕が、パソコン部なんて無理な話でした。ぷろぐらみんぐって単語が出た瞬間から、パソコンはやめよう、って誓えるくらいに無理な話でした。
そうなりますと……じゃあ。
もうありませんね。詰みましたあ!
「……………………」
いや。詰みましたあ! とか内心で明るく言ってる場合じゃないです。詰んじゃダメです。全員入部制なのですから、ダメです。
えー。じゃあどうしよう。
悩んでいたら、部活動紹介が終わってしまいました。
これからは、いわゆる新入生勧誘の時間です。
各部活の活動場所や、部室で、それぞれ新入生を対象にした勧誘活動ですね。
とりあえず、それを見てから答えを出しても問題ないでしょう——ということで。
ということで、僕はまず、eスポーツが果たしてどのようなゲームで活動しているのかを探るため、eスポーツ部の活動場所であるパソコン準備室にやってきました。
端的に言いますと、僕向けではなかったです。
ダメです。格闘ゲームはやったことある僕ですが、FPSはダメです。まず血が流れちゃうのがダメです。
つまりつまり——詰みましたあ!
…………詰んでしまいました……。
「うわー。部活どうしよう……」
困りました。どのくらい困ったかと言うと、人が少ない校舎裏にある自動販売機で、いちご牛乳を買ってちびちび飲んでしまうくらい困りました。
いちご牛乳おいしいです。甘いのは好きです。
いちご牛乳って、飲むと微笑んじゃいません?
頬が緩みます。ゆるゆる〜。
「きみは男子なのかな?」
「げふげふっ!」
大変です! いちご牛乳を飲んでゆるゆる微笑んでいたら、背後から声が掛けられてしまいました! 大変恥ずかしいです!
「だ、大丈夫う……?」
話しかけてきた、女子生徒が、僕の背中をすりすりしてきます。大変です! 良い匂いがします!
良い匂いがします——なんて、紳士である僕の発言ではありませんので、当然口にしませんが、急に話しかけられてびっくりして、そしてむせてしまったので、涙目になりながら、
「……けふっ、らいひょるふれす」
と。言いました。念のため訳しますと、大丈夫です、と、言いました。
「いちご牛乳飲んでるなんて、かわいい〜」
いちご牛乳飲むとかわいいらしいです。じゃあもう飲むのやめます——って言いたいけど、いちご牛乳はやめられる自信がありません……。
僕がいちご牛乳をやめられない問題に苦しんでいると、その女子生徒は、いちご牛乳飲んでなくてもかわいい——と、僕にダメージを与えてから、さらに続けました。
「ところで、部活は決めちゃったかな〜?」
「ま……まだです!」
若干慌てて返してしまったのは、ものすごい至近距離で顔を覗き込まれたからです。あと、僕はいつまで背中すりすりされているつもりでしょうか。
「そうなの〜? じゃあきみ〜!?」
まるで僕の心の声が聞こえたのか、女子生徒は背中から手を離し、元気に両手を合わせて、満面の笑みで、言いました。
「演劇同好会とかどうかな〜!?」
「……え?」
同好会? そんなのもあるです?
「私は演劇同好会の
自己紹介をされたので、僕も流れで名乗ることにして、名乗りました。名前と学年。それしか言うことはありませんしね。
しかし同好会ですか。なるほど。
それでも入部扱いになるっぽいですし、じゃあ他にも同好会があるのですかね。ならば他の同好会とやらも見学したりしてみたいものですが、うーむ。
「きみならきっと」
僕が他の同好会の可能性に気づくと、静露先輩は、また近距離に顔を置いて、続けました。
「カッコイイ王子さまとか、似合うと思うわよ〜? どう? どうどう〜?」
「入部します!」
一応言っておきますが、静露先輩の近距離があまりにも魅力的で、匂いにつられた蝶々みたいに僕が入部を即決した——わけではありませんからね?
カッコイイ王子さま。
王子さまはどうでもいいとして——カッコイイ。
「僕、格好良くなれますか……?」
「なれるわよ〜。きみならお姫さまにだってなれる逸材よ〜!」
「お姫さまは勘弁してください……」
「ふふ。ならこれから、私たちの活動場所にいらっしゃい」
こうして僕は、わけがわからないまま、自分の意思で、演劇同好会に入部することになりました。
つい格好良くなりたくて。
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