大人になるということ。

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大人になるということ。

バスの中で数時間寝て起きたら外は雪景色だった。何年振りの雪だろう。少なくとも4年くらいは雪を見ていなかった。そのせいか、唐突に現れたこの雪に覆われた世界は、僕の中からなにかとても懐かしい感情を呼び起こした。まだ少年で外で遊び暮れていた頃の今すぐに外に飛び出て行きたい、という衝動を伴う感情だ。


ただ今回はすぐには外に飛び出なかった。先ずは身の回りの貴重品をリュックに仕舞いそれを背負って降り、靴が濡れないようにそっと地面に足をおろし、そして滑って転ばないように、服を汚さないように歩いた。


いつから僕はこんな俺になったのだろう。いつ僕は感情に理性を着せたのだろうか。


ついこの間までは、手ぶらで靴が濡れるのは厭わず、滑って転ぶのなんかは一興で、服が汚れる事なんか気にもかけなかった筈なのに。



これが大人になるということなのか。



外に出た。雪の中を転げ回りたいという感情を押し殺し、俺はバスの中で凝り固まった体をほぐす。


一掴みの雪で雪玉を作ってみた。昔の様に思いっきり遠くへ投げてみたかったが、人がいるからそっと拳の中で握り締めた。


握りしめた雪玉は硬い氷の結晶のような塊になった。僕の思い出も俺のどこかできれいな結晶となってしまったのだろうか。



バスが出発するので拳の中の塊をそっと雪の中に沈めた。多分俺は今、大人だ。








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