第三章

MM戦争(インタールード)

「我が社はこれより、オートバイ業界盟主の座を取りに行く」

 ミヤケモータース社長・奥山勇おくやまいさむの発言に、業界人は沸き立ったものの、〝盟主〟の座についていたモチダ側は、さほど深刻には受け止めていなかった。その背景には二輪車から四輪車市場へと経営の重点が移行しつつあったことがある。若嶋透わかしまとおる社長の目下の関心は、もっぱら米国の大手自動車メーカー・クライスキー社との業務提携にあった。

「ミヤケモータースの奥山社長の暴言をどう受け止めますか?」

 持田重工業取締役会の席上での質問に、若嶋社長はこう答える。

「気にすることはない。所詮は士気高揚のためのプロパガンダに過ぎんよ。ああいう猪突猛進型の時代遅れなやり方は、そう長続きはしないものだ」

 若嶋社長は奥山の経営手腕を認めてはいたが、大学を出ていない奥山を、心のどこかで見下しているところがあった。だが、その慢心がやがて手痛いしっぺ返しとなる。

 若嶋社長はミニバイク「ステップ」の好調を、単なるまぐれ当たりだと思っていたが、実際には奥山社長主導によるマーケティング改革が推し進められ、それにより市場規模は著しく拡大し、着実な販売基盤が出来上がっていたのだ。その上で、全社員に発破がかけられ年間目標100万台という驚異的な数字が打ち立てられた。そうしてミヤケの本気がヒシヒシと伝わり始めたタイミングで、親会社の宮家楽器で、若嶋影社長が会社から追い出されるという事件が起こった。若嶋影はモチダ社長・若嶋透の実弟であり、これは最早敵となった人質の打首と言ってよかった。宮家陽一会長は、息子の茂を社長の座に座らせた。

 この知らせを受けたモチダ側は、ミヤケに対して本腰を入れて迎撃態勢を整えた。新商品「カンタービレ」「アンダンテ」の市場投入でシェア奪回をはかり、短期間で45%まで巻き返した。この気運に乗り遅れまいと、若嶋は二輪開発部門の人員を倍増し、新モデルの開発により一層力を入れた。また必要とあらば四輪開発に充てられた予算を二輪開発に流用させたりもした。このように〝弾丸〟を揃える一方で、消費の現場にも人員を割き、需給双方への力添えでバイク業界盟主の座を守ろうとした。

 だが、売れれば売れるほど目標も高く掲げられ、数字ばかりが重んじられるようになると、前線で戦う兵士たちは目標達成のために手段を選ばないようになっていった。こうしてモチダとミヤケの抗争はドロドロに泥沼化していくのであった。

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